門外不出の伝統
高校野球の強豪校の一つ、この学校には秘密がある。
野球部のマネージャーが何十年と受け継いできた、門外不出の伝統があるのだ。
放課後の練習前、部室横の小部屋に、こそこそと入っていくマネージャーたち。
そこには野球のボールが並べてある。
さらに小部屋の中には、ある音楽が大音量で流れていた。この小部屋は防音がしっかりしているので、外に音が漏れることはない。
数十年前、一人のマネージャーが考えた。
ある種の音楽を、野菜に聞かせて育てると、美味しくなったり、栄養価が高くなったりするらしい。
だったら、野球のボールもひょっとして・・・・・・。
それが試行錯誤の始まりだった。非常に険しい道のり。何百回、何千回とあきらめそうになりながらも、検証作業を続けた。歴代のマネージャーたちが、野球のボールにさまざまな音楽を聞かせ続けたのである。
どの音楽が、ボールにどんな好影響を与えるのか。
そして現在、マネージャーの一人が、小部屋にかかっている音楽を止めた。『ヒップホップ』だ。
それから他のマネージャーたちに言う。
「今日の練習、今すぐ集中。ボール集める、選手が待ってる」
さあ、守備練習に使うボールは仕上がった。
このあと急いで、打撃練習に使うボールも、同様の方法で仕上げる。
ただし、今度は『ヒップホップ』ではない。『ユーロビート』をかけるのだ。用途に応じて、ボールに聞かせる音楽を変える。
こうすることで、ボールの反発係数が微妙に変わってくるのだ。
何十年にもわたって試行錯誤した結果、「どんな音楽を聞かせたら、そうなるのか」を発見した。
守備練習に適したボール。打撃練習に適したボール。右投手の投球練習に適したボール。左投手の投球練習に適したボール。バント練習に適したボール。
それらを使い分けることで、練習効率を他校よりも高めているのだ。
この秘密の伝統は、これからも受け継いでいく。他の強豪校には、絶対にばれないようにしないと・・・・・・。
一方、別の強豪校にも秘密の伝統がある。
野球部の寮では、夜ごはんの仕度をしていた。
炊飯器にお米をセット。この炊飯器は特別製だ。家電メーカーにいるOBに、こっそり開発してもらった。
なんと、お米に音楽を聞かせながら炊き上げるのだ。
こうすることで、お米の味や栄養価が多少変化する(っぽい)。
美味しさ重視のお米。体力回復重視のお米。免疫力向上重視のお米。肉体強化重視のお米。お肉に合うお米。お魚に合うお米。消化しやすいお米。
何十年にもわたって試行錯誤した結果、「どんな音楽を聞かせたら、そうなるのか」を発見した。
この秘密の伝統は、これからも受け継いでいく。他の強豪校には絶対にばれないようにしなければ。
今日のお米に聞かせるのは、『ボーカロイド曲』だ。野球部の監督から、そうして欲しいと指示があった。
炊飯器のスイッチを入れると、お次は冷蔵庫を開ける。
すると、冷蔵庫の中から『クラシック音楽』が聞こえてきた。
この冷蔵庫も特別製だ。家電メーカーにいるOBに、こっそり開発してもらった。
なお、この寮には冷蔵庫が四つある。
お肉用、お魚用、お野菜用、そして、それ以外の食材用だ。中で流れている音楽を、それぞれ変えている。
この秘密の伝統は、これからも受け継いでいくつもりだ。他の強豪校には、絶対にばれないようにしなければ。
だから、内緒だよ。
次回は「オープン戦」でのお話です。




