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派遣社員で異世界の仕事してます!  作者: 縁乃ゆえ
日本の事を異世界の住人に教えよう! 高時給! 異世界にて長期のお仕事、パーティ付いてます!
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再訪

 いつものように日本に戻ったら、二月の終わりになっていた。

 そんなに異世界に居た気はしないのだが、あそこは少し時の流れが違ったのかもしれない。

 それにさっきの電話、ノイデフィからのまたやりましたね? は効いた。

 今後、ノイデフィからの仕事はしないだろう……と決定付けた内容だった。

 俺は一人、作業服からスーツに着替え、ロディアを探した。

 これが終わらなければ次の仕事を探せない。

 たくさんの人の中でも本物のエルフはすぐに見つかるくらい綺麗だった。右隣の浴衣姿の白髪女神は良いとして、左隣の魔法使いの子がちょっと不憫だ。いや、可愛らしく笑ってお喋りしているし良いのだが、何とも……。

「江東さん!」

「何だよ?」

 ちょっと内心ドキッとしてしまった。俺の思いが伝わってしまったのだろうかと焦った。

「早く終わらせてくださいね?」

「あ、ああ……そのつもりなんだけどな……、如何せん、どのくらい書類が溜まってるか分からんし」

「ちゃーんとっ! 最初からやっとけば、こんな事になっても大丈夫だったんじゃないの?」

 うっせー!! と言ってやりたかったが、黙った。もう俺は一人で次の仕事を探すつもりだったんだ、それなのに私達も付いて行くわ!! とか、ありえないだろ!!!

「じゃあ、ロディアを連れてく。まあ、お前らがいなくてもロディアが強いしな、安心だ」

「それで? 私達から逃げようって? バカね、ちゃんとあんたが行きそうな所に居てあげるわ!!」

「いや、良いですから。俺はちゃんと探せますから。大人なんで」

「大人でも探せない人は探せないでしょ? それにあんた、忘れたの? 異世界であんたが仕事する時、私達が守るってことになってんだからね?!」

 わ、忘れてた……。何か過去にそんなことをクレアが言っていたような気がする……。

 チッ!! と心の中で舌打ちして、俺はロディアを連れて東京異世界保護施設に向かった。

 東京の街はあまりお気に召さないらしい本物のエルフ、ロディアはリアムが用意した日本用の冬服を着て、ルンルンとしていた。お気に召さないのにルンルンしている理由を聞くと、エトにぃと一緒!! 二人きり!! 嬉しい!! ぴとっと俺にくっ付いて歩いて来た。さすが妹! 兄さんっ娘!! 分かってる!!! とノリノリ気分で仕事中の彼女の背後までやって来てしまったが。

 この彼女は俺を軽く喜ばせることをしてくれないだろう。そして、向こうもロディアを見たら喜ばない。だが……。

 俺は意を決して言った。

「あの~……」

 ビクッとした。

 花に水をあげている手が止まった。

 そして、こちらを見た!!

「ど、どうしたんですか?!! 江東さん!! ……その子!!」

「あ、いや、そのぉ、何だ……もう帰って来ちゃった! 柊月に頼みがあって!!」

「イヤです! って言いたいんですけど、言えませんね。そちらの方は? エルフさんですか」

「はい」

 と何故かロディアがちゃんとした日本語で話した。

「ふーん……、とうとうエルフさんまで、ですか……」

 じろっと見られた。

「いや、別に俺は何もしてないぞ! 今回はもうすでにこの通りのだったんだ!! 柊月のこと頼りにしてるから!! 今回もよろしくお願いします!!!」

「します!!」

 ロディアが俺を真似、頭を下げた。

「いやいや、あなたはしなくて良いのよ! エルフさん!!」

 ロディアの頭だけ慌てて上げさせて、俺はそのまま放置された。

「はあ、よく懐かれてますね、江東さん」

 あ、また清楚系美女が怖い顔をしている……。

 このままでいよう、そうすればその顔を見なくて済む。

 笑っているようで笑ってない顔、俺はもう見たくない。

「どうぞ、こちらへ。奥地でのご活躍を聞こうじゃないですか、江東さん」

「あ、ああ……」

 静かに怒りを抑えたか。俺は仕方なく顔を上げ、レギナの時と同じようにロディアを他の方にお願いして、柊月の後に付いてあの応接室に入り、二人きりの事情聴取をされることになった。

「それで、どんな事されて来たんですか?」

「そこから言うのか?」

「何ですか? じゃあ、怒っても良いんですか? ……もう! 何でも連れて来たらダメなんですからね?!! 本当だったら、電話一本入れてくださいよ!! 江東さん、そうじゃないと大変になるの知ってるでしょ?!」

「ごめんなさい! すみません!! けど、そうしたら断るかもじゃん……ベッドの空きはないとかって言って病院みたいにさ……」

 ムッと柊月に睨まれた。

 そういうのはない! と知っているけれど、念の為。

「はあ。もうご趣味は『異世界関係の保護活動』にされてはいかがですか?」

 疲れた……とばかりに言っているが、相当怒っているはずだ。

 怖いな……。

「今回は別に、ちゃんとした方法で連れて来たんですが……」

 なんて言っても無理か……。少し説明しておこう。

「ちょっとな、頼まれてしまって」

「誰に?」

「言えない。けど、ここに連れて行くと約束したんだ」

 そこまで聞いて柊月は言った。

「約束を守られるのは良い事だと思いますが、江東さん、あと何人の後見人になれば気が済むんですか!?」

 彼女はいろいろな事柄から来るもので怒っている。俺を思っての事でもある。

 けれど……。

「知り合ってしまったら、ほっとけないからさ。しょうがないじゃん?」

 もう!!! と言った切り、柊月は何も言わず、出て行ってしまった。まだ何も話をしていないのに。

 それでも俺は辛抱強く待った。もう帰ろうかな……と思っているとガラ! と勢い良く扉が開き。

「これが江東さんに書いてもらいたい書類の山です!!」

 と、ドンドン!! と机に乱暴に置かれたのはかなりの山。

「あの……これ本当?」

「本当です。あとパソコンの方からの入力なんかもあるんで、お願いします」

 かなり軽く言ってくれる。これ、一晩中になるんじゃ……。

「あのさ、柊月……」

「何ですか? 柊月って呼び捨てにされたくないです。今は」

 相当怒ってらっしゃる……。

「あの~、今夜はどこに泊まろうかな……」

「あ、江東さんのパーティメンバーの方が二人いらっしゃいまして、今日から数日お世話になります! とお願いされたので、江東さんのせいですか? と訊いたら、はい、そうです! とおっしゃられたので、今、ここに居ます」

「は?」

 怖い事を言ってくれるな!!

「あのさ……」

「それで、そのパーティメンバーの方に紹介していただいたのですが、エルフの樹にお住まいになられていたエルフのロディアさんとはどうだったんですか?」

「え、いや……良い娘だよな、本当」

「妹! だと、言っていたそうですね。妹らしい……ではなく、ハッキリと『妹になったのだ』とおっしゃったそうですね」

 あいつら、また……。それも言葉が変わっている。

「ここに来るまでの間もデレデレしてたんでしょ? 江東さん、好きですよね? 耳が特徴的な子」

「いや、獣耳さん達は特別。エルフの耳はそんなに好きじゃない。触るとちょっとドキッとしちゃいそうだけど」

「どんな風にドキッとしちゃうのか教えてくださいよ」

「え……それはだな……」

「聞いたことがあります。エルフの耳はとても敏感。そっと触っただけでも火照ってしまう方もいらっしゃるとか」

「俺は! そんなジロッと見るなよ!! 知ってたけど!! そんなことしてない。ちょっと肩触ったくらいだ。あと、お腹の上にも……」

 けど、あれはロディアがして来たことで、俺のせいじゃない!!

「何の意味があってですか?」

「いや……あれかな、逃げられないようにする為?」

「それ、私が言ったことですね」

「あ、はははー! そうだっけ? いや、正座だったしなぁ……」

「良い景色だったでしょう」

「あ、それはそうだけど」

「江東さん」

 ぴっと右人差し指を俺の口の前にやる。

「あんまりそういう事、軽々しく言うもんじゃありません。少しだけカタラータができたって、ここはエルフの樹に居る他のエルフさんがいない所です。誰もスゲー!! という目で見て来ません。誰もが江東さんのことを普通の人だと思います。本物のエルフを連れていようが、女神を連れていようがです! リアムさんという方の事も聞きました。どうしてこんな事になったのか……疑問が残ります。女神のクレアさんが言っていました。最初から怪しかったって。どうしてここに居るの? どうしてこういう流れになってるの?! どうして、どうしてが止まらないようでした」

「それは俺も同じだけど。あれだろ……あいつはレギナをここに連れて来る時にやった魔法が使える。それでなりすましていたんだよ。で、どっかで」

「江東さん!! 最初からロディアさんを日本に連れて来ようと考えていたんじゃないでしょうか? レナード侯爵が動いてここに連れて来るのは嫌だったけど、自分達の手でなら良い。ロディアさんはエルフ。賢い。そんな方を無事に連れて来るにはこうするしかなかったんです。江東さんを使わないやり方で……と言っていたそうですが、最初から今回の事に関しては江東さんを使う気満々だったんじゃないかと思います。だって、一番使いやすいから」

 その言葉に俺は何も言えなくなった。

「お前、よく言うな……」

「効き慣れてるでしょ? 江東さんと出会えて私が一番初めに思ったことでもありますし」

 何か嫌な気分になって来た。

「帰りはスムーズだったそうじゃないですか。テレポートですぐに帰って来れたんでしょ?」

「まあな……」

 俺は書類の山から一枚、紙を取った。

「もう一度できるか、試しにカタラータやったら、涙一筋分しか出なくなってたんでしょ」

「その通りだ」

 黒のボールペンを持つ。

「効き目が切れたと言われて、焦って確認したら、レベル上がってなかったんでしょ?」

「そうだ」

 書き始める。

 扉はもう閉まっている。黙ってやらなくても良い。だけど。

「江東さん、今晩はここで書き書きですね」

「そうだな」

「そこもちゃんと書いてくださいね?」

「ああ……」

「江東さん」

「何だよ?!」

「全部書き上がるまでここに居ますから。ちゃんと書いてくださいね」

「それが無事に奥地から帰って来た人に言う言葉か?」

「じゃあ、言ってあげますよ。ちゃんと帰って来てえらいですね。私、ほっとしてます。しばらくは泊めてあげても良いかな~なんて思ったりもしてます。ちゃんと仕事探すなら、ですけど」

「あ! 間違えた!!」

「大丈夫です。ちゃんとそれ、何枚でも書き直しできるようにしてあるので」

 新しい紙をもらった。

「江東さん、しばらくはどこに居る気ですか?」

「……知り合いの家」

「ふーん……そうですか、ちゃんと居場所書いてください」

「ひ、柊月の家!!」

「ダメです。その紙には私の家の住所書かないでください!!」

「え? じゃあ、どこ」

「ご実家とかあるでしょ」

「それか!! 実家の方にこういう系の書類届いたりしないよな?」

「嫌ならちゃんとした所、書けるようにしてから来てくださいよ」

「う……」

 言葉に詰まる。

「じゃあ、住所の所はそれが決まった時で良いです」

「それって異世界かもしれないんだが?」

「異世界……ってまた?! 今度は何をされる気ですか?」

「詳しくは決めてないけど、派遣で長く働く! それが一番俺には向いてる!! 正社員じゃ得られないものが多い」

「ふう……、じゃあ、派遣切りされた江東さん、求職中って書いてくださいね?」

「うん、そうだよな……次も早く見つけなくちゃってのはあるんだ……」

「で? 本当に求職中だって書いちゃった江東さん、どうするんですか?」

「え、何が?」

「え? じゃないんですけど、ちゃんと仕事探す気あるんですか?」

「あるよ!! もちろん!! あいつらも何か知んないけど一緒に探すって、うるさくてさ」

「モテモテですね」

「ハ? どこがモテモテ? ブウブウうるさい女神とぺったん父さんっ子だぞ?」

「ブウブウしてしまうのは江東さんを頼りになる男にしたいからじゃないですか。ぺったん父さんっ子ってのは何なのか分かりませんが、それだけ江東さんが好きってことだと思いますけど」

「ハ?」

「江東さんってニブチンなんですか?」

 そんなことは!!! と言いたいが。

「そうなのかな……俺、あんま考えたことねーわ」

「うそ! ありますよね? かなりありますよね?!」

「そんな話はどうでも良いんだよ!! 俺が言いたいのは一つだけ!! しばらく、柊月の所に住まわせてくれ!! また家事とか頑張るから!!!」

「まあ、お金はありますよね? 江東さん、今どのくらい貯まってます?」

「言えない額だ……」

「へー、それって自慢できちゃうくらいってことでしょ? だって、異世界で働く派遣社員ってかなり良い思いしてますよね?」

 ああ、そうだ! と胸を張って言いたい。しかし。

「実に言いにくいんだけど、これがまた、もらえなくてだな」

「あ! そう言う風に言って……ってやつですか?」

「いや、本当だ。また給料もらってない。だから派遣会社を違うのにする所から始める。そうやらなきゃ、俺はずっとあの異世界で働けないからな。ここで働くってことも考えてみたが、柊月が嫌だろ?」

「そうですね、分かってるじゃないですか。女性の扱い」

「柊月だけだけどな」

 そう言って、俺は一枚、一枚……目の前の山積み書類を片付けて行った。

 それが全て終わる頃になってようやく、柊月からちゃんと帰って来れたご褒美にしばらく私の家に居させてあげますよ! をゲットしたのだった。

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