腹の上の
充分に休んだところで俺達はまた歩き出した。
ちょうど良い温度でそんなに疲れない。
柊月の所に住まわせてもらっていた時に着てみた着方で大丈夫そうだ。
もう全然気にせず深緑色の作業服を着ている。それよりも気になるのは何も聞こえないことだ。俺達の喋り声は聞こえるが、この森には動物がいないのだろうか。
歩いても歩いても鳥の声すら聞こえない。ただ草木がたくさんあるだけだ。
道も木がない所を歩くといった感じでちゃんと道があるわけではない。
ふいにクレアがふんふんふーん! と、いつかのダンジョンに行った時に歌っていた鼻歌を歌った。それくらい今は何ともないということなのだろうか。
そうやって歩いているうちに時刻は夕方近くとなり、ティノが派遣会社から渡された地図をちらちらと隠れて見ているのに気付いてしまった。
「何してんだ? ティノ」
「いえ、別に。赤いのが何か動いているような……でも……変わってないですね」
「どっちなんだ?」
「うーん、分かりません。あたしの勘からするとこれは」
言葉を発さなくなったティノを見れば、地図を持ったまま驚愕の顔をしていた。
「どうした」
「い、いえ……そ、そんな……と思っただけです」
「何がそんな?」
「いや……一つ、こちらに向かって飛んだ!! と思ったのですが、なくなってますし、あたしの見間違いです、これはきっと」
どういうことだ? と俺はクレアとリアムを見る。
二人はティノの持っている地図を見た。
「うーん」
「用心した方が良いと思う」
ちゃんと答えを言ったリアムを俺は見る。
「もしかしたら、その赤いのはオレ達にとって良くないものかもしれないしね。神がいても良くない事は起こるだろう。そうなったら困るからね、ある程度の準備はしておいた方が良いって話だ」
「それは経験上か?」
「そうだね」
ちらっとリアムを見るクレアに俺は言う。
「お前ぐらいなもんか、頼りになるのは」
「え?!!」
ティノが何故か驚いた。何でだ? と問うように見れば。
「あたしも力になれます!!! こんなんでも、江東さんより強いです!!」
「そこ、ツッコミたくないな、ティノちゃん。言って良いことと悪いことがあるんだよ、ティノちゃん」
「そうなんですか? 知りませんでした。江東さんより強いのは事実なのに」
ダメだ、この子。もう大人じゃない!!
「そんなに元気なら大丈夫そうね。ヨシキチ、何かあったら任せたわよ」
「いや、お前に任せるっていう雰囲気じゃなかったか?」
「いやね、何かふらふらして来ちゃって……」
ダメだ!! こいつ、よく見れば顔が赤くなってる!! いつの間に、酒どんだけ飲んだんだ? 起きろよ!! 神のくせにだらしがない!!
「行くぞ」
「うーん、おんぶ……って言いたいところだけど。目の前にこの男がいるから頑張って歩くわ!!」
「そうか、ならそうしろ。俺はその方が助かる」
そう言って俺はまた歩き出したわけだが、リアムが様子を見て言った。
「やっぱり、今日はもうここで寝るしかないんじゃないかな。エトウ、ふらふらの神様を連れて歩くのは危険だ。今日はここまでにしようじゃないか」
「そうですよ、江東さん。神様は大事にしなきゃいけないんです!!」
「何だよ、二人して。クレアがこうなったのは自業自得だろ? それに何で付き合わなきゃいけない」
「それは」
「ここがエルフの樹へと通ずる森だからだ。エルフは神を大事にするところがあるからね。まあ、自然関係の……と言った方が良いのかな。オレ達が神に対してどうするのかとか見ているんじゃないかな。姿を現さなくても」
「そうか? なら、その話を信じることにして、今日はもう寝るか」
「そうしましょう!! 実はもうクタクタ……。お願い、ヨシキチ!!」
嫌だ!!! という抵抗空しく、その後、クレアに持って来たテントと寝袋を奪われたのは言うまでもない。
ぐっすりと眠る温泉の女神にちょっと寝ますね……と言って、寝てしまった夜に弱い魔法使いの女の子、それを見て微笑し、オレはちゃんとたき火を見張ってるよ……と言って見張り役になったリアム。
俺は夕飯を食べてから、ちゃんとフレイムが出ることを確認し、寝ることにした。
この森では魔法しか意味がないのだという。それはこの森すらもエルフが作ったものだからだ。ということは俺達のことを瞬時に分かってしまうんじゃないのか?! と言ったのだが、その心配はないとリアムは言う。エルフは人間が嫌いだから、そんなすぐには現れないと。出方を見、攻撃的でないと分かった時にしか向こうは来ない。この森に入る前からオレのそういう部分が反応してるだろ? とリアムは言ったが何がそういう部分なのか分からなかった。もしかして髪色が変わったとか、そういういつもと違う感じが……なのだろうか。
もう疲れた……俺は何も考えないようにして地面を味わいながら寝た。
「……ちょっと! 起きなさいよ」
「ん?」
俺はごろんとして起きたつもりだった……が、できない!! 何故……。
俺は腹の上の違和感を確認した。
何か重いと思ったのだ。
うっすらぼんやりと見えるのは二つの……膝こぞう? 可愛らしい細い白い肌の色、これは腿か……そこから上にやると段々と、自然を感じさせる萌黄色の膝丈くらいの袖のないボヘミアンワンピースみたいなのが目に入り、続いて十代後半くらいの大きさの胸、整った美しい顔、金色の長い髪……って!!
これ、この娘!!! 耳が!!! それに俺の腹の上で正座? え……もう一度落ち着いて見てみようと耳を見たのだが。
「とんがってる!!!?!」
「そうよ。ってヨシキチ、あんたやっと起きたのね。皆行っちゃったんですけど」
「え? どこに」
「エルフの樹に」
「何でお前はここに居る? っていうか、何があったんだ?」
「あんた、本当にぐっすり寝ちゃってたから分からなかったのね。あの地図の赤いやつがどんどんこっちに来てるんですけど!! って、ティノちゃんが騒いだ時にはもう遅かったのよ。五人くらいのエルフの男達がここを囲って、たき火を消し、リアムとティノちゃんは連れて行かれたわ!!」
「むりやり?」
「うーん……納得して行ったわ。私はあんたをかばっていたから連れて行かれなかった。代わりにそのエルフの女の子がやって来たの。道案内するって言ってたわ」
「それがどうして俺の腹の上で正座してんだ?」
「え? 知らないわよ。起きるまで正しい日本の座り方で待つって言って、そうなって……。ちょっと怖かったから、あんたを早く起こさなきゃ!! って思って」
「なるほど、これは日頃お前の苦労をどうにかしている俺へのごほうび夢じゃないんだな」
「ハ?」
クレアがちょっとキレそうになった。危なかった。
「あの~、どいてくれませんかね~、俺、もう起きたんで」
「おれ? 名前?」
「違う違う、俺はヨシキチ、江東良吉だ」
「分かった。おれ、行こう」
「いや、そうじゃなくて……」
「良いじゃない、ちゃんとした名前はエルフの樹に着いた時に言えば良いのよ!」
そんな女神の言葉に導かれたのか、強い白い光の魔法陣を出し、エルフの娘は俺達を連れ、エルフの樹へとテレポートした。




