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派遣社員で異世界の仕事してます!  作者: 縁乃ゆえ
日本の事を異世界の住人に教えよう! 高時給! 異世界にて長期のお仕事、パーティ付いてます!
88/100

冒険食を食べる前に

 北へ北へ歩いているのだと思う。

 俺達が着いた場所は奥地の入り口ともいうべき場所の一つで、そこからは道がちゃんとあるのかも分からず、馬車が通れるのかという問題や馬を乗って移動してモンスターに襲われないか……という問題もあったりして、歩くしかないのだが。

「はあ……、車があれば……歩かなくても良いのに……こんな森の道……モンスターなんて出ないわよ!!!」

 最後を歩くクレアが喚いた。

 いや、神様……この世界の神様だろ? お前……なんて俺は言わず、黙って歩く。無駄な体力を使いたくない。

「そういえば、エトウはどうしてそんな格好なんだい?」

 先頭を歩くリアムが俺の方を向いて言って来た。

「いや……何か派遣会社を通してこんな服をだな、送って来たんだ。あの貴族様」

「ふむ……、見るからに日本製の服だね」

「やっぱり……」

「嫌がらせだね!」

 やっぱりかぁ……。俺はガサゴソし出したティノを見る。何をしているんだろう? そのオレンジ色のリュックの中に何がある……。

 じゃじゃーん!!! とティノが手にしていたのは真っ白な紙。いやちょっと黒い線でふにゃふにゃと何かの模様? みたいなのが書かれている。

「何だ、それ?」

「地図です。と言われました。派遣会社の人に」

「お前はそんな物をもらっていたのか」

「はい、でもこの線以外何も書いていなくてですね。だから、クレアさんに相談したのですが、これは森を表していて、他には何もないわよ……と」

 ちらっとティノが見るクレアを見れば、美味しそうに何かを飲んでいる。

 透明な瓶に入ったそれは赤黒色。

「おい、それは何だ?」

「ん! ぬぐ!! ぐっ!! ……こ、これはもらった物なの!!」

「誰から?」

「派遣会社……」

「派遣会社がそんなお酒臭さけしゅうするやつくれるわけないだろ!! 誰からだ?!」

「えっ、とぉ……れ、レナード侯爵?」

 何故疑問形? 俺は酔っぱらおうとしているクレアを見て言った。

「捨てて来い!!」

「嫌よ!! あ、違う!! 無理よ~!!!! もう飲んじゃったし!! 残りだって飲むわ!! きっちりとね! それにもし、そんな事をしたら、この森の住民が怒るわ!! 自然を汚して!!! とか言われてあんたどうなるか分かったもんじゃないわよ!!!」

「そう言われると言い返せない」

 グッとここは呑むしかあるまい。

「まあまあ、エルフの樹への道のりは始まったばかり。そのぶどう酒は神への捧げ物としては極上の分類に入るもので、エトウはエルフに会ったら何をするんだい?」

「日本について教える。あと何か地図製作がどうの……言ってた気がするが、それはまあ、契約書の中になかったしな……」

「でも、じゃあ、この地図は?」

「ふん……それには魔法が掛けられているね」

「何ですって!! 私の見た所じゃそんなの!!」

「まあ、この魔法は神でも魔法使いでも分からない魔法さ。人間が作り出した魔法だからね。確か……『隠されたしるしを表せ。偽りなき、あかしを』だったかな……」

 するとどうだろうか、細いふにゃふにゃとした黒い線を無視した配置で小さな赤い三角印が何個かバラバラと出て来た。

「これは?」

「何かを表しているんだと思うんだけど。詳しくは分からないね。この魔法は最近、貴族達の間で密かに人気でね。主な目的は密かな愛を届ける時に使われている」

「密かな愛?」

「鈍感ね。ヨシキチ、貴族の密かな愛と言ったら、愛人よ。まあ、堂々とやっている人もいるけれど」

「そうだね。それでこの地図を見るとエルフの所まで行けそうにない。途中で切れているだろう」

 言われて見れば、確かにふにゃふにゃとした線はその紙に書ける分までしかない。その線の先に行くってことなのだろう。三角印が一つ増えた気がしたが気のせいか。

「何? ヨシキチ、何考えてるの?」

「いや、何か三角印が気になって」

「うーん、注意した方が良いかもしれないけれど、ここには女神様もいらっしゃることだし、大事だいじにはならないと思うんだけどな……」

「何で神が居ると大丈夫なんだ?」

「神を嫌うのは悪魔くらいなものさ。妖精だって神の力を信じてはいるからね。自然を司る神なら大歓迎だと思うけど」

 酒を飲もうとしているクレアをリアムは見た。ん? という感じでだらしなく休憩している。温泉に入ってないだけ良いとは思うが、その浴衣姿がまただらしなく、女神のその綺麗な肌を見え隠れしている。何か光り輝いているように見える。

「何よ? 二人とも!! あげないんだから!!」

 ギュッと飲もうとしていた瓶を抱え込む。

「違いますよ、クレアさん」

 こそこそとティノがクレアに耳打ちした。

 ふん!! というようにクレアは立ち上がって言った。

「残念ね! 温泉に入っている私ならもっとだらしなかったのに!!」

 違うだろ!! なんて言うこともなく、俺はまた歩き出したリアムの次を歩くべく、進むことにした。ちょっと聞きたいことがあったのだ。

「あのさ、リアム」

「珍しいね、オレの名前をキミが呼ぶなんて」

「いや……ちょっと聞きたいことがあってだな……パーティメンバー二人に訊いても分からないと思うし、日本でも知り合いにちょっと聞こうとはしていたんだが、お前の方が分かると思って」

「そうかい。それで何の質問だい?」

「ああ、あのレナード侯爵ってどんな感じの人なんだ?」

「うん、良い質問だ。君のパーティメンバー二人とも多少離れることが出来たし、言っておこうか。サラ王女が変な事をするんじゃないかと思っている対象にはキミも入っているんだよ。エトウ、その顔、驚いても無理はない。エトウとエルフを守ることが念頭にあってだね。レギナの次にどうしてレナード侯爵がエルフを選んだのか。レギナよりも健康的で美しい。これはつまり、愛人に打って付けだ」

「愛人?」

「ああ、でもレナード侯爵は日本に行ったのを機にそれまであった家庭を壊していてね。それ以降、結婚をしていない。これは今の王がそういう異世界人を嫌っている関係で後妻ごさいを持てないからだ。まあ、レナード侯爵もこの世界の貴族と同じ価値観だ。人間を嫁に迎えようとは思ってないだろう。それでも必要としている。だから、人間よりも劣っているようで価値のある種族を手に入れようとしている。まあ、レギナは本当に見世物として考えていたようだけど。エルフも嫁というより愛人という形で手に入れるだろうね。自分の子供はもういるからね。その子に跡を継がせれば良いんだし」

「また、レギナの時みたいに救えとか言わないよな?」

「それはどうだろうね。でも、今エルフの間じゃ、その愛人に出来そうな娘は一人しかいないんだ。純粋なエルフが選ばれる。それも若い子で美しさも併せ持って、性格も他のエルフより人間が好き……まあ、この『人間が好き』っていうのがなければかなりの数のエルフの娘が該当するんだけどね」

「その人間好きのエルフの娘の『人間好き』度合いはどうなんだ?」

「普通のエルフの人間嫌いに黒ゴマ一粒足したくらいかな……」

「それってどのくらいなんだ? かなり少ないっていう例えなのか?」

「ああ、違った? 日本語って難しくて」

「まあ、良いけど」

 俺はまだ離れて歩くパーティメンバー二人を心配した。何かを話しているが、何を話しているんだ? お昼はどうするの? とか夜はどうするの? だろうか。

「気になるかい?」

「いや……。そのレナード侯爵はそのエルフの娘に会ったことはあるのか? 他のエルフにも」

「いや、会ってはいないよ。レナード侯爵が雇った者達は会っているけどね。だから、そういう人間嫌いだとか、難癖もあるエルフとか……っていう情報はあるんだ」

「そこまで詳しいとなると、やっぱり、レギナの時に知り得たわけか?」

「ああ。君がレナード侯爵に利用価値があると認められてまた働けることになった理由は分かるかい?」

「いや」

「君が日本人だからだ。この世界に転生したチートの日本人ではなくて、生きたまま日本からこの世界に来た人間だからだ。正真正銘の生粋の日本人だからだ。それまではレナード侯爵の周りに居なかったのだろうね。それが現れた。派遣会社の人間も日本人ではあると思うけど、長くこっちに居過ぎて、かなりの魔法が使えるようになっている可能性がある」

「それじゃあ、俺みたいなあんまりできない日本人の方が良いって言うのか? 向こうは」

「ああ、それも本当は観光客みたいなのがベストだったろうね。でも、そうすると何かと不都合で、それに近い君に白羽の矢が立ったわけだ。少しでも今の日本に暮らす日本人に近い存在が良いと、それで慣らさせようと」

「それじゃあ、そのエルフの娘に日本の事を教えて、レナード侯爵は……」

「自分と同じ状況をそのエルフの娘にも……と望んでいるんじゃないかな。仲間から嫌われれば一石二鳥だ。ずっと独りで居るのに疲れたのかもしれないね」

「そんな……」

「バカな話だと思うかい? 貴族は皆、そんな風にしてやり過ごす。きっと、レナード侯爵がそのエルフの娘を日本に連れて行くと考えられる。だから、こうしてオレが来たわけだ。王都第四部隊の……というより、今回もサラ王女の思いで一人、動いている」

「それってつまり、また言っちゃいけないとかそういう?」

「ああ、分かってるじゃないか」

「まあ、何となく分かるよ。話の流れでね」

「じゃあ、今までの話を忘れるのは得意かい?」

「……忘れられない時はどうする? 魔法でも使うのか?」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 急にリアムが魔法陣を出した。何の魔法をするつもりなんだ? 驚いたのは俺だけではなく、後ろを歩いていた二人のパーティメンバーも駆け寄って来た。

「何をする気?」

「いや、この辺で昼食でも……と思ってね。お腹空いただろう? 長いこと歩いて来たから休憩も兼ねて」

 それには納得と、ティノとクレアがいそいそとし出した。

「それでどうだい?」

 ずっと俺の顔を見たまま言っていたリアムが尋ねて来た。

「ああ、得意だ。今、必要だと思わない事はすぐに忘れるようにしている。必要だと思った時はすぐに思い出せるようにしているけれど」

「良い心掛けだね。そういう人で良かった。あの魔法はしなくて良さそうだ」

 ふう……俺は無意識に息を吐いていた。

 こんな事で知らない魔法を掛けられたくない。

 さて、奥地での最初の食事だ。俺は日本で買って来た物を出す。

 最近になって、ようやく発売されたこれは『冒険食』と呼ばれていて、宇宙食から派生した物であり、長期保存、軽量、栄養面でも良いとされているのだが、この食べ方がまた異世界らしく、食べ物が入った袋に魔法力を当てると何とも食べやすい状態になり、一袋食べれば、すぐに満腹となり、味の方もバラエティーに富んでいて美味しいと話題だ。

「それ」

「何だ? ティノも食べたいって?」

「え? くれるんですか!! 良い人になりましたね。江東さん」

「いや、そう言われると、くれてやるか!! って言えなくなるから止めてくれ」

 くすくすとリアムが笑った。

 くそう!! こいつを笑わす為に言ったんじゃないのに!! クレアを見れば、ずっとあの酒を飲んでいる。チビチビと……他に食べない気か? ティノの目線はずっと俺の食べ物だ。

「はあ、こんな事なら同じのを持って来させるんだった!!」

「あるわよ!」

「は?」

 俺はそう言うクレアを見た。女神の手には俺と同じ『焼きそば』と書かれた手のひらサイズの茶色い袋があった。

「お前!!!」

「いやね、何かテレビ見てたら出て来たから。欲しくなっちゃって。頼んだのよ、あんたとたくさん話す職員さんに」

「柊月のことか?」

「そうそう、そんな名前だった気がするわ」

「お前、世話になってる人の名前くらい覚えとけよ」

「まあ、良いじゃない。短い間しか居なかったし、全員あそこじゃ『職員さん』と呼んでいるわ」

「そう呼んでいるのはクレアさんだけですよ」

 そうだろう、ティノ良い事言った。

「そうなの?」

「ええ、あたしは『職員様』とお呼びしています。柊月さんだけは例外ですね。ちゃんとご紹介されましたから、江東さんに」

 ティノ、お前もか……なんて俺は言わず、黙々と食べることにした。一袋食べて満腹となるのだし、悪く思うなよ。

 こういう時、自分が魔法力ある人間で良かったと思う。魔法力がない人間は魔法力がある人間に頼んでやってもらうのだ。そうすると加熱できるの……とかいう話になるのだが。大体、魔法力がない人間は異世界に来ることは少ない。それこそ異世界旅行の時にしか来ないだろう。その時の食事は大抵、冒険食なんて出ない。ちゃんとした温かい食事だ。これはそう、俺みたいな冒険者が食べる物で興味本位に食べるくらいだ、日本でも。

 だから。

「ごちそうさまでした」

 俺は本当に満腹になり、昼寝をしたいくらいになった。

「あ!! 江東さん!! もう食べ終わったんですか?!!」

「よく噛んで食べたの?」

「さあ、行こうぜ!! エルフの樹に向かって!!!」

「もう少し休んだらね」

 正しい判断。そんなリアムが居てくれて良かった……と思うのはまだなのかもしれない。

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