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派遣社員で異世界の仕事してます!  作者: 縁乃ゆえ
日本の事を異世界の住人に教えよう! 高時給! 異世界にて長期のお仕事、パーティ付いてます!
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エルフの樹の入り口

 異世界の奥地に行く早朝、朝の光がなくとも目が覚めるのは何とも良い。

 そして右腕の横に温もり。

 ん?

 柊月……? ……!!

 バッ!! と起き上がってしまった。

 いや、そうじゃない……もっとこう……ゆっくりと。

「一度起きたら起きてたら良いじゃないですか。何もありませんよ? 江東さん」

「そうですよねぇ……柊月さん」

 たははははは……と俺は俺用の敷布団で眠ってる感じだった横になっている柊月を見る。

「どうしてこの状況なんだ?」

 言ってしまってから気付く。

 言わなければもっといろいろな想像が出来たのに!!

 惜しい事をしてしまった。

「忘れちゃったんですか? いーっぱい、奥地に行くからしばらくの間出来ないから、それを解消する為にとっても江東さんの身体からだに良い事してあげたのに」

「そういや、そうだった気が……何か今日は以前してもらったマッサージよりも良い気がする。痛みがない」

「そうでしょう。だって、私のせいだって言われたくないもん。江東さんの体悪くしたら、あの女神様に何言われるか分かりませんし」

 ちらっと柊月が俺の顔を見た。

「何だよ?」

「いえ、別に……したりないな~とか、まだ時間あるから顔とか足とか反対の腕とか……いろいろしてあげたいな……なんて思ってませんよ?」

 思ってるな、こいつ……。

「良いぞ。そのくらい出来る時間はあるから」

「そうですか!! じゃあ、早速」

 ぐいっと敷布団の方にやられた。

「柊月! 柊月さん!!!」

「何か?」

「何か? じゃなくてですね、もっとこう、優しくできないんですかね?」

「え、けっこう優しくしてあげてるんですけど? これ以上優しくしたら、江東さんダメダメになっちゃうと思うんですけど」

「何?! そのダメダメって、やってみて!!」

「嫌です。今日はちゃんと母から教わった極秘のケアを江東さんにしてあげるって昨日言ったじゃないですか。それの続きをしたいんです。結構昨日頑張ったから、ついうっかり、江東さんの横でぐっすりと眠ってしまいましたが、江東さんもぐっすりと寝ていたので良かったです。これやると気分良くなって、いつもとは違う事をしたくなったり、しちゃったりするんですよ?」

「へー、そうなんだ。それで俺の上に乗ってる意味は?」

「ん? 何となく。逃げられないように?」

「あんまり意味はないと?」

「そうですね。江東さんに意味って必要ですか?」

「あー、いらないかも。やりたくなったらやるし、やりたくないならやらないし」

「そうでしょうね、江東さんに意味が必要な時って、本当に逃げられなくなった状況とか、それを打破する時くらいでしょ?」

「そうですね。それじゃ、いっちょ頼んますわ」

「ふーん……、いよいよ気持ち良くなりたいって気分になったんですね。江東さん」

「は? まあ、やってもらうなら」

「ふーん……、良いですよ。ギリギリまでしてあげます。半年後になるかもしれませんしね。次、会えるの」

「そんなにはかからないと思うんだけど」

「思いたいですね。まあ、ヘマをしたら首切られて帰って来れますからね」

「ヘマって、首切りって。それ、派遣切りのこと?」

「ええ、そう言ったんですが」

「怖い言い方だったから、ちょっと怖気付いたわ」

「そうですか、それじゃやりますね」

 グイ!!

「い!」

 俺はぐいぐいとやられる痛みに耐えた。この痛みが喜びになったらおしまいだろうと考えながら、ちゃんとやってもらった。サッサと歩けるくらいにはなった。

「じゃあ、江東さん、一緒に仕事場には行けませんから、ここでお見送りとさせていただきます」

「ああ……、行って来るわ」

「頑張ってくださいね。江東さん」

 晴れやかにそう言われて俺が背を向け、歩き出すと玄関の扉が閉まった。

 柊月が一緒に行きたくない理由。それは仕事場の人達に面倒を増やす俺を住まわせてるなんて思ってほしくないからだとか。

 途中で会ったことにもしなくないらしい。どれだけ俺は仕事をしている柊月に嫌われているのだろう。

 ヴァンパイアお嬢様の時よりも重い荷物を持ち、あの深緑色の作業服を着、俺は柊月のマンションから待ち合わせ場所の東京異世界保護施設に向かう。

 この東京異世界保護施設の暮らし方は介護施設の過ごし方と似ているという。

 決められたスケジュール通りに過ごし、日本について学んで行く。日本語の時間があったり、お風呂の時間があったり、食事の時間があったり、そうやって少しでも日本の集団行動というものに馴染ませたりするそうだ。ある意味、バラバラにさせないで世話する人が楽になるようになっているのかもしれないが。もちろん自由時間はあって、そこでティノは絵本を読んでレギナに聞かせたり、クレアは充実した入浴設備に感激しては入り浸っているそうだ。適応できない者は適応できるまで違う階で過ごさせるとか……本当過酷な仕事場だ。

 そんな東京異世界保護施設に着き、正面玄関に行くともう準備万端ないつもの服装のティノとクレアが居た。

 レギナはもうこの施設に馴染んで、この二人が居なくても大丈夫なまでになったらしく、お見送りに来ていない。

 まあ、このくらいの時間ならまだ寝ていて当然の時間か……。

「さて、行きましょうか。ヨシキチ!」

「ああ! って、お前、どうしてそんな元気なの?」

「だって、今まで温泉に入っていたからね! 知ってる? この施設には温泉もあるのよ!!」

「へー……」

 普通の風呂に入浴剤入れて温泉に仕立ててるのじゃないのか? なんて俺は口が裂けても言わない。

 面倒な事になるのは目に見えているからだ。

 だから。

「そりゃ、すごいな」

「そうでしょう!」

 もっと盛り上がる前にティノは言った。

「じゃあ、行きましょうか」

 すたこらと歩き出すティノに続いて俺も歩き出す。待ってよー!! と言う温泉の女神はまたあのサンダルでやって来た。

 はあ、いつも通りだ。いつも通り、あの安全、安心、テレポート魔法陣! を聞き、異世界にテレポートする。

 柊月に馬乗りされていた方がレアなんだ。

「で、日本からテレポートして、ここはどこなんだ?」

「うーん……」

 二人して黙った。大丈夫か、このパーティメンバーの二人。

「ここはね、エルフの樹へと続く森の入り口だよ。ほら、足元を見てごらんよ。砂利道から草木が生えそうになってる。これは魔法だ。そして、キミ達が来る数日前までここにあった小さな村は山賊に襲われ消えた」

 ああ!! なんて、二人のパーティメンバーは納得した。

 どういう事だ? と俺はティノを見る。

「いや、えっと……」

 ティノは困る。そして、クレアは……。

「っていうか!! 何で、あんたがここに居るのよ!! リアム!!!」

 俺の疑問を代弁してくれていた。

 ありがとう、クレア……と心の中で言い、当の本人、神と人間の間に生まれたという流浪の旅人みたいな格好の男を見る。

 こんなに優男だったけ? それに金髪……染めたのか? 肉体の方は……ちゃんと鍛えているらしく、程好ほどよい筋肉が付き、良い体格だ。って、ちがーーーう!!! どういう事なのか説明してもらおうか!!! と俺はクレアと同じようにリアムを見る。

「皆怖いな。そんな風に見ないでくれよ。ギラギラだよ、目が……。ふう、これも仕事でね。サラ王女がおっしゃったらしょうがないだろ? 逆らえるかい? 王国のお姫様にこのオレが」

 ぶんぶん! と首を振って賛同する者はいない。

「キミが一番分かってくれると思ったんだけど、エトウ」

 そう言われて俺はリアムと目が合ってしまった。

 軽く笑われた。だからって何なのだ? 俺はもっと詳しく聞きたくてリアムを見返すしかなかった。

「うん……、分かってくれなかったみたいだね。簡単に話せば、キミ達の仕事に同行したいってわけだ。まあ、オレは派遣社員とかいうのじゃなくて、ただ純粋にレナード侯爵が変な事をしないか、気にしているサラ王女の不安をなくし、安心してもらえるようにレナード侯爵の動きを監視するのが最大の目的で、あとはまあ、自分と同じ半神の力というべきものを持ってる森の妖精に興味が出たってところかな」

 そんなことを言うリアムにクレアは言った。

「だったら、あなたが先を歩きなさい!!」

「良いよ。それで納得してくれるなら」

「おい! クレア良いのかよ、勝手にそんな」

「良いじゃない。同行したいって言ったって、付かず離れずなんでしょうし、派遣会社の人が来るわけないわよ。こんな辺鄙へんぴな場所。契約が済んだらおしまい。地図はまあ、あってもない感じだしね。スマホだって使えるかどうか」

 そんな所に今から行くのか……俺は。

 少し心細くなってしまった。この二人が居ても不安だ。

「だったら、ちゃんと役に立ってもらうわよ! 何も出来ないヨシキチ一人が居るより、いろいろと出来そうなこの男が居た方が全然良いわ!」

「おい! 俺はフレイムが出来るようになったんだぞ!! これでも!!」

「それだけじゃないですか、江東さん、それだけではこの先やって行けませんよ? どうですか、この機会に新しい魔法を覚えては?」

「それな! 俺もそう思って、日本に居た時、本屋行ったりして魔法の呪文載ってるのないか探したりしたさ。あと柊月に聞いたり」

「それで? それでもフレイムしかできなかったんでしょ?」

 カチン!!! この浴衣姿のなめ切った温泉の女神様に俺は文句を言いたくなった。

 俺よりひどい格好で来るなよな!! とか、でも言ったところでこれは私の正装です!! と言い出しそうだ。止めとこう。ティノだってもう口をつぐんだ。

「じゃあ、あなた、さっさと行って。目的地は知ってるわよね?」

「ああ、このまま北へ向かえば良い。北にある豊かな森の樹。そこがエルフの住みだ」

「確かに、知ってそうね」

「じゃあ、行こうか」

 リアムを先頭に俺とパーティメンバー二人は歩き出した。日差しのある森はまだ静かなままだ。

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