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派遣社員で異世界の仕事してます!  作者: 縁乃ゆえ
日本の事を異世界の住人に教えよう! 高時給! 異世界にて長期のお仕事、パーティ付いてます!
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奥地に行く数日前

 十二月のクリスマスも年末年始の休日も正月も柊月にはない。あるのは仕事のみで一応は公務員なのだからちゃんとした休みがあっても良いじゃないか……とボヤくだけだ。

 その日は異世界の奥地へ行く数日前。俺はフレイムが使えるようになってから何度かティノとクレア達がお世話になっている柊月の仕事場に行っていた。自分で奥地の事を調べるよりもパーティメンバーとして一緒に行く異世界人達に話を聞くのが手っ取り早いと思ったからだ。

 まんまとクレアは意気揚々、温泉の女神様として語り始めた。

 ずっとずっと北の異世界の奥地に『エルフの』と呼ばれるエルフ達の魔法によって作られたかなりの大きさの巨大樹が一つあるらしい。

 その巨大樹は清らかな空気と透明度の高い水を吸い、その水底にある栄養たっぷりの土に根をしっかりと張り、生きている。

 その巨大樹の太い太い幹からは何本も何本も道となるように数え切れないほどの枝が生えており、その枝々には美しい緑の葉が数え切れないほどなっており、そこに木で出来た簡素な家を建て、細々と暮らしている。

 豊かな森を守り続ける為に神に似た強力な魔法の力を持ち、人くらいの大きさでそんなに老けず、平均寿命は数百年と長生き、とんがり耳と太陽にも月にも似た光り輝くような色の長い髪、澄んだ瞳、白い肌、運動出来なさそうなのに木登りも泳ぎも弓も得意な人間嫌いの妖精! それがエルフらしい。

 その美しさに見惚れないことね! と言い、クレアは満足そうに俺が預けていたあの深緑色の作業服を渡して来た。

「何だよ、まだ持っといてくれよ」

「嫌よ! 何で私があんたの着て行く作業服をずっと持ってなきゃいけないの?! そんなにレナード侯爵が何かしてるんじゃないかって不安なら、異世界が禁止されてる建物とかに行って、この服を着てみれば良いじゃない。そうすれば、異世界の何かしらの魔法やら薬や呪いやらがあった場合はすぐに知らせてくれるでしょ!!」

「そうだけど……」

 ちらっと柊月を見る。そういえば、柊月の住んでる所はそうだったと思い出した。

「じゃあ、持って行く……」

「そうよ! さっさと持って行きなさい! あと数日で奥地なのよ!! 準備は出来てるの?」

「ああ、まあ、この日本じゃ、もうすぐ二月でまだ寒いけど、向こうは六月ぐらいだろ? そうだとすると……って考えたんだけどな、この作業服考えたら中に何のシャツ着るか? くらいしか考えることなくてさ、あとは作業服一つしかないし、何かあった時の私服とか泊まる所の心配して水やら食料やらテントくらいは持って行こうかと」

「そうね、それが良いわ!」

「だからって、お前の寝る所はそのテントにないからな?」

「わ、分かってるわよ!! そのくらい!! 今回はあんたのテント借りたりしないわよ!!!」

「本当か?」

「本当よ!!」

 そんなやり取りをし、俺は奥地の北へ出発する日の打ち合わせをパーティメンバーの二人としてからそこを出た。

 柊月がお見送りで正面玄関まで付いて来たが何の用だろう。言われることと言えば……。

「あの、江東さん」

「何だよ」

 俺は普通を装って答える。

「いつか言ったと思うんですけど、書いてほしい書類がたくさん山ほどあるのでちゃんと帰って来てくださいね? この日本に」

「分かってる。心配しなくても大丈夫だ。柊月の所に居たのだって、短期でマンション借りるのもな……と思ったりしたのもあってだな……」

「分かってます。どうせ実家では小言言われて、お友達の浅岡さんの所に行ったら行ったで、のんびりはできるけど、何かしらの手伝いをさせられる……と思ったからでしょ?」

「当たり……」

「でも、今回は私の方が浅岡さんより江東さんを使ったと思いますよ。今度家に来る時は何してもらおうかな……」

「それ、確定的か?」

 もう苦笑いするしかない。

「確定的です。次だってきっと、江東さんはマンション借りたりしません!! ホテルだってそう。江東さん、今回は家事だけにしましたが、次の時は」

「次の時は?」

「考えときますね!! 江東さんがちゃんと奥地から帰って来て、しばらく行く所なかったら頼りにしてください。今よりもっと働いてもらいますから!!」

「いや、まだ柊月の所居るしな……しばらく」

「数日でしょ……、そうだお米買っといてもらって良いですか? あと……、移動させたい家具があるのでそれ運んでもらって……まあ、家に帰ったら大体江東さん寝てるから、頼めないんですけど」

「ごめんな、眠くて……」

 いや、変な事をし、追い出されないようにする為なのだが……それは黙っていよう!!

「じゃあ、まだ仕事があるので戻りますね」

「ああ、頼むわ」

「パーティメンバーの二人を含めてですか?」

「ああ、分かってるじゃん。お前が一番頼りになるからな」

「そうですか、だからって面倒事を増やさないようにしてくださいね……。これ、奥地に行く日にも言おう」

「それも確定的か……」

「だって、江東さん、釘刺したって効かないんだもん。何回言っても連れて来るし」

「連れて来て良いのがここだろ?」

「そうですけど、連れて来る度合いが他の人よりも多いし、あんまり来なくなったし、不満だらけですよ、江東さんには」

「何だよ!」

「じゃ、そういう訳でお米頼みましたよ」

「はーい」

 じゃ……と言って、俺は歩き出す。左手にはあの深緑色の作業服を入れた白い紙袋を持って。


 *


 無事に柊月の住んでる部屋に帰って来れた俺は持って来た深緑色の作業服を着てみることにした。

 うん、何もヤバイことにはならなかった。普通の日本で作られた電気工事や工場勤務の人などが着る服だ。

 別に着方に対しては何も言われてないから全てをきっちりと閉めることはない。だから上の方の服はファスナーやらを閉めずに全て開けておいて、中に着ているTシャツや長袖が見えるようにして着るべしだ。靴は運動靴。良し、これで決まりだな!! と洗面台の鏡の所に居たら、いつの間にか柊月が帰って来ていたらしく、ぎょっとしながら鏡の中の俺を見ていた。

「あ、おかえり……」

「いつまでそんなことしてるんですか? お米買って来てくれました?」

「あ、忘れた」

「はあ……、明日買って来てください」

「はい、すいません」

 俺は素直にしょんぼりと謝った。うわ、やっちまったよ!! という内心だったが。

「食事にしましょうか?」

「そうだな」

 俺は普通の服に着替え、その深緑色の作業服を持って行く荷物の中に入れた。

 柊月の手伝いをし、夕飯のカレーが出来た。

 だが、江東さんの食べる分のご飯はない! と言われ、パンで食べることになった。ああ、本当にごめんなさいだ……。今からでも買いに行きます!! と言ったけれど良いですよ、もう……パンで我慢できますよね? と聞かれ、はい……と答えるしかなかった。

 そうして俺は食パンを焼いてマーガリンを塗り、カレーを食べていると柊月が向かいの席でテレビを見ながら言って来た。

「そういえば、何時に行くんですか?」

「え?」

「出発の日ですよ」

「あー、たぶん朝方だな……」

「ふーん……もう少しでここも静かになりますね」

「何? 寂しいの?」

「寂しくはありません。広々使えるようになって良いですし。江東さん、考えて行動してくださいね」

「あ? ああ、いつだってそうしてるけど?」

「いや、してないでしょ? してる時って言ったら、どうやって良い方向に持って行くか? なんだから」

「良いじゃん、それで。悪い方向に考えるより良いと思うぞ? 柊月はそういう風に考えるからいけないんだよ。もっとこう……」

「マッサージしますよ?」

「ごめんなさい! 黙って食べます!!」

「そうしましょう」

 にっこりと言われた。

 ったく、これだから、柊月は可愛くないんだ。

「あ、これ!! 欲しかったやつ!! 良いなぁ~」

 いや、こういう所は可愛い……かもしれない。

「ねえ、江東さん」

「何だよ」

「お金入ったら、今回の御宿代代わりにあれ買ってください!!」

「ん?」

「魔法道具です」

「何に使うんだ?」

「威力を増すんです」

「へー、物騒……」

「だって、研修で異世界行くことあるし、あれ使ってる人いて、すごい威力で興奮しました!!」

「へー、柊月もそういう事で興奮することあるんだな」

「ええ、あー良いな~、あの杖~」

 んー、どこかで見た事が……。

「ティノちゃんが持ってるやつなんですよね。それをちょっと小さくしたバージョンで」

「ああ! それか!! 納得したわ。でも、無理だな。お金入るのいつになるか分からんし、だからこうして貧乏らしく、やってるわけだし」

「そうですかねぇ……、私にはそう見えないんですけど。奥地の仕事行く為にいろいろと新しく買ってましたよね?」

「それは必要だから、どうなるか分からんしな……奥地。そもそもそこに辿り着けるかどうか……」

「あー……でも、誰かと行くんでしょ?」

「たぶんな」

「あんまり詳しくなさそうですね」

「ああ、今回は本当派遣会社からもあんまり連絡なくてな。手探りだ」

「ま、ちゃんと帰って来てくれれば私は文句言いません。無事に帰って来てほしいだけです」

「ありがとな」

「いえ、そうしないと私の仕事いつまで経っても終わりませんから」

 なるほど~……。それ以上、俺は言わないことにした。残りの数日はその奥地に行く為の準備で使いたかったからだ。

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