奥地へ行く準備
柊月の部屋に住むようになって二日目。
家事家事家事!!
ティノがいれば、代わりにやってくれるのにな……と思いながら、柊月に追い出されない為にもここは言われた通り、大人しくしていようと、掃除機を柊月の部屋から遠ざけ、夕飯は何にしようかと考える。
クリームシチューかな……。
掃除機を切るとスマホの電話の音。全然気付かなかった。
誰から? と思い、こたつテーブルの上のスマホを見て、俺は驚いた。
ノイデフィだとぉ?!!?
「はい!」
俺はすぐさま電話に出てしまい、何を言われるか? の心構えなどできるはずもなく、言われた通りに行動することになってしまった。
うーん、ノイデフィの東京支店というものがこの日本にあるとは知らなかった……。そこに明日行くことになるとは……。
その日の夜、仕事から帰って来た柊月に話して、俺はその日の家事をなくしてもらった。
翌日、俺は一人でそのノイデフィの東京支店に向かった。ビル街の中にあり、ここは確か一番被害があった場所だ……と思いながら、そのビルの四階にエレベーターで辿り着いた。
呼び鈴を鳴らすと日本人のスーツ姿のお姉さんが一人出て来て、すぐそこにある席に案内され、座ると仕事の始まりの日を言われ、エルフに日本語を教えるという内容の仕事の契約書にサインをし、営業の内山から預かっておりますと、渡されたのは何かが入った白い紙袋。この大きさで見ると服? だろうか。
「あの、これは?」
「ご覧になれば分かると思いますが、奥地で働く為の服だと。レナード侯爵様直々に内山の方によこして来たそうです」
俺はそう言われ、その紙袋の中身を確認する。
「あの……これ、作業服の上下?」
「ええ、深緑色を選んでいるところを見ると奥地は森とかなんですかね? 行ったことがないので詳しくは分かりませんが、これを着てエルフの仕事をしてほしいと」
「それが先方の意向ですか?」
「はい。嫌なら無理にとは言いません。これを着るならまだ冒険者用の服の方が良いですよね」
「いや……」
俺は考える。あの買ったリーズナブルな冒険者の服。結局まだ一回も着てない。だからと言って、着る気にはなれない。もうこのまま着ないという方向でいたのだ。
「この作業服って、中に何かシャツとか着ても良いんですよね?」
「ええ、たぶん」
「じゃあ、この作業服着ますよ。そっちの方が良いし、着方までは指示されてませんよね?」
「ええ、内山もこの作業服を着て、江東さんに奥地での仕事をしてほしいとしか言っておりませんでしたので」
「靴は、自由ですか?」
「運動靴とかの方が望ましいと思いますが。特には言われておりません」
「そうですか……、これはその普通の作業服とは違いますよね?」
「さあ? 渡された時のままですから。中身の確認はこちらではしておりません。申し訳ございませんが、そう言った事は内山に言ってもらっても良いですか?」
「はい……」
うーん、やっぱりこのお姉さんは詳細を知らなそうだ。出て来た時からそう思ってた。
「じゃあ、また何かありましたら、内山の方から連絡をさせますので」
今日はこれで……ということか。良いだろう! 俺はその作業服と契約書を持ち、ノイデフィの東京支店を後にした。
その足でクレア達が居る奇麗な介護施設みたいな東京異世界保護施設に行き、柊月に今までの話を少しして、クレアを呼んでもらった。
「で? 何を見ろって言うのよ!!?」
一人だけを呼んだのにティノとレギナも付いて来た。
まあ良い。ここは保護施設内のエントランスホールでテーブルやら椅子がいくつかあり、その一つにパーティメンバー二人とレギナ、俺が座り、柊月はその辺をうろうろしている。
そのうろうろが少し気になるが、俺はしっかりとクレアに言う。
「だから、あのレナード侯爵からのだから、女神様であるお前にこの作業服を見てほしいんだよ!! 危険なやつじゃないか、どうかな!!」
「ふーん、それで来たんだ」
「何だよ? 柊月はさっきから」
「江東さんに書いてほしい書類が山ほどあるので、用事が済むのを待っているんです」
「あ、あっ、それね……今日は勘弁してくれ! 奥地の事少し勉強しようと思ってたんだ」
「でも、奥地行くの一か月後ですよね? それまでかなり時間があると思うんですけど?」
「いや~、それが終わったら魔法の練習をだな……」
「ふ……」
笑いやがった!! この魔法使いの女の子が!!
「ふーん」
それを見た柊月が言った。
「微笑させるほどの威力なんですね……」
サーッとさせる。その冷たい感じがまた……離れて行く感じがする。
ちょっと悲しい。
「うーん、特に異常はないわね!! 大丈夫よ! これ着て行って!!」
女神クレアは俺達のやり取りなんて無視して渡された作業服の評価を言って来るし!!!
「もう良いよ!!! ありがとよ!! 俺はこのまま別の所に行く!!」
「あ!!」
出ようとしている俺に向かって柊月は言った。
「この東京で魔法の練習するなら、ちゃんと役所に冒険者登録してくださいね? 江東さん、今、異世界での冒険者登録しかしてないでしょ? こっちの東京の方でも登録してないと魔法の練習しただけで罰金とかありますから。ちゃんと決められた広場でやってる!! って騒いでも無理ですから。お遊びでするんじゃないですよね?」
「ああ」
「だったら、登録には内外的属性要素検査の結果の紙と身分証明書とかハンコとか必要です。あ、今日はちょうど平日ですし、役所に行けますね!! じゃあ、その調べ物の前に近所の診療所でも行って、内外的属性要素検査を受けて来てください。インフルエンザの検査よりも簡単に調べられますから、結果もその場ですぐに分かりますし、まあ、大きな病院でもっと詳しく……も出来ますが、ちょろっとなんでしょ? 魔法の練習をするのは」
「まあ……、そうだな、俺の出来る魔法って言ったらフレイムしかないし」
「マジですか?!!」
すんげー驚かれた柊月に。
そのせいでビクッとレギナがなっている。
「お前! 柊月! レギナがビクついて驚いてるだろ?!」
「ごめんね、レギナちゃん。とにかく、行って来て下さいね? 行かなかったら追い出しますから」
「はい」
その言葉を聞いてしまってはもう、何も言えず、素直にその言葉に従うしかなかった。
こんな事で柊月の部屋を追い出されるのは嫌だったし、前々からその『内外的属性要素検査』はやってみたかったのだ。
近所の診療所でも異世界科がある所でないといけない。俺は柊月に教えてもらった東京異世界保護施設近くの診療所に行き、内外的属性要素検査が出来るかどうか訊いた。
「できますよ、保険証はお持ちですか?」
「はい」
良かったぁ……財布持って来て。
「では、こちらの質問に答えてお待ち下さい」
「はい」
受付の若い子に渡されたのは今日は何しに来たのか? という内容の紙だった。
内外的属性要素検査……と。
呼ばれる前に書き終わったので俺は受付にその紙を返し、待つ。
内科、小児科と一緒になってる診療所だからか、午後イチで来ていても多少は混んでいる。
「江東さーん、江東良吉さーん!」
さっと立ってしまった。
呼ばれた! 何で? こんなに早い……。
「こちらにどうぞ」
俺は元気の良いおばさん看護師さんの案内で診療室に入った。
こんにちは、と。お医者さんはやっぱり男の人で五十代前半くらいだろうか。俺の書いた問診票を見て言った。
「じゃあ、しようか、内外的属性要素検査」
さっさと始まる検査は至って簡単。半紙のような真っ白なぴらぴらな特別な医療用紙に自分の両手を数分から数十分、その部分に出て来るカラフルな色の変化がなくなるまで乗せるだけだ。
「じゃあ、離して」
先生に言われた通り、両手を離すと全体的に水色と青、赤、緑、黄色、黒やら色がたくさん混ざり合っている。これで何が分かるのかと言えば。
「ほーう……君、火より水の属性が強いようだね。あと……? まあ、いろいろとちゃんと色が出てるし、それなりにはあるみたいだね、かなり弱々しいけど。黒いのは色が混ざり合っちゃっての結果だから、危険なやつじゃない。まあ、ちゃんとコツコツ鍛えれば、それなりに基本属性である魔法はほぼほぼ使えるようになるはずだよ。あとここに出てない属性だって、外的の方ではあったりするから、大丈夫。魔法が使えるまでにどのくらいかかるかは個人差があるからね、何とも言えないけど」
「はあ……」
「ほうら、この両手の周りのが外的の方ね、内的は手の形となってちゃんと残ってる。まあ、人間魔法出すのは主に手の中からだからそうしてるけど、手がない場合は足でやったり、目からビームに憧れる人は目でやりたいとかって言うけど、まあ、あるにはあるんだけどね、やっぱ手が一番出やすいから」
「はあ……」
内外的属性要素検査結果の紙を受付の若い女の子からもらい、会計を済ませ、俺はそのまま役所に行き、東京でも魔法が使えるように異世界のギルドでしたようにいろいろ書いて冒険者登録を完了させた。
これでようやく、追い出されなくて済むだろう。
柊月のことだからしつこく言って来るかもしれない。
一応、近くの公園でも行って魔法の練習をしておくか。
ちゃんとやっているアピールをしておかなければ、また追い出されるかもしれないのだから。




