レギナ
騎士と違い、王都第四部隊は王都特化部隊とも言われるものの一つで、それぞれの特化目的に合った精鋭者達しか所属出来ない部隊らしく、王都に居る王女や王妃、王族の女性達を守る仕事が大半らしい。その中でも王都王は諜報活動が主であり、リアムは日頃から滅多にいないとされる神の血を引く人間ということで、一目置かれていたようで、そんなリアムにサラ王女は頼んだのだ。レギナを、わたしと同じ王族であったあの方を救ってあげたいと。
「そういうご意思で動くこともある。オレはそれに倣っただけさ。そうでなければ、仕事を失う。オレは神の子として生きるつもりはないからね。食えなくなると困るんだ」
リアムは次にレギナの話を始めた。あの盲目のメデューサ幼女の口から『レギナ』と出て来た時、リアムは息を呑んだそうだ。
レギナとはつまり、女王の意。
二百年くらい前、人間の王族だったレギナの一族は神の呪いをかけられ、女性は全員メデューサにされ、その目でいくつもの人間達の命を奪い、モンスター化として認知され、レギナ一人になるまで、その首を冒険者達に切り取られて行った。
「だから今では物珍しくなり、見世物となると、その希少価値を利用する為に多額の金が動くのも仕方ない。これが君の悩んでいることの一つの答えだ」
そう言って、リアムは俺の顔を見た。何故、この時点で見て来るのか。
「君は悩んでいる、本当にもっと日本の事を話して良いのか、あの目はどうやって見えなくなったのか、違うかい?」
「ああ、そうだ。ごもっともだよ」
俺はどんなに耳が痛くなりそうでもこの先を聞くことにした。
「その悩みを解決してくれるんだろ? あんたが」
「ああ、だが、それはとても残酷な事だ。レギナを思っているなら尚更ね」
「……それでも、聞かなくてはいけないんだと思うよ。遠回しにしてはいけないんだ。こればかりは」
「そうかい」
そう言って、その先のレギナについて淡々とリアムは話す。
さすらいの旅人の男のように見えるのはこういう所から来ているのだろう。
「あの目はね、奴隷を使って、その目を全て切り取ったんだ」
う……。一番初めからこの話……苦痛だ。俺がそんなに想像力豊かな人間でなくて良かった……。麻酔がない世界ってのは知っているが。
「何人の奴隷がその最中に石にされたか。でも、泣いて頼むからすぐにその涙で元に戻せた。割と損害が出ない楽な仕事だった」
「誰に……、聞いたんだ?」
「見たんだよ。この目でね、オレはそういうのが得意でね。普通の人はその魔法をモンスターをやっつけるのに使うんだが、ほら、君は見ているだろう。オレがあの女神様の代わりにやった魔法、あれで隠れて見ていた」
「見ていた?!!?」
「ああ、もし、あの時、オレが助けていたらレギナは救えても、他の奴隷は救えなかった。そのくらいの数でやっていたんだよ。君は見ているはずだ。王都で、それが終わったばかりのレギナを」
うーん……思い出してみても出て来ない。
「そのくらいの存在だったってことさ」
「当時は、だろ?!!」
何故、怒鳴る? とリアムは俺を見る。
「本当はその首ごと切り取って、高く売ってやろうと思っていたのよ」
黙っていたサラ王女が口を開いた。
「捕まったと知らされた時、すぐにでも助けていれば……」
どうしてこんなにもサラ王女は悔しそうな悲しそうな顔をするんだろう……。
「わたしが同じ状況なら絶対嫌!! メデューサは不老なの、だけどね、不死ではないの。どうにかして救ってあげたいの!! でも、わたしの力では出来ない!!」
サラ王女がそう言うのには同じ血が流れていなくとも『王族』という身分が呼ぶ、立場からだろうか。
「レギナの保護はサラ王女が望む事の一つでね、命だけは助かった。だから、次は君の力で何とかしてほしいんだよ。オレ達ではダメなんだ。異世界人ではね」
そう言ってリアムはサラ王女の側に立つ。
「亜人としてレギナを日本に亡命させたいと思っている。もちろん、秘密裏にね。まあ、十七歳の女の子が考えたことだ。無理強いはしない。だが、オレよりもそれが出来るのは今、レギナの一番近くに居て、あの侯爵からも何故か任される状況となっている君だけだ」
それはあれか……、日本人にしか出来ないあの制度。
「だったら、そうしますよ!! 俺は、救える命があると知ったら、救ってやりたいと思ってしまうバカですからね。それで何度、怒られたか」
異世界人では出来ないのは、そういう制度になっているからだ。日本人でしかやってやれない。
「もしも本当にそうする気になったとしたら」
「任せてください!! その為に日本について、東京について教える意味が見えて来る!! 俺、こういうの何度もやってますからね。ただちょっと、今回は難しそうだ。何たって、見つけたのは東京ではなく、異世界。それに、言いましたよね? 本気で俺の命を懸けてやってもらいたいことだって、俺、死ぬのは嫌ですが、守れないのも嫌なんで」
「ありがとう!!」
ぎゅっとされている感覚はなかったが、そんな感覚に近かった。
サラ王女はベンチから立ち上がって、俺の前にまた立った。
「この世界の王女として言います。命の保障はできませんが、あなたが無事、成功した暁には褒美を」
「いいえ、褒美なんていりませんよ。これは俺、個人がやろうとしていることです。それで何かあっても、何の問題にはならないでしょう。いや、なるか……」
「そうですね。でも、その時はわたしが責任を取ります。これはわたしのわがままです。そして、レギナを救う最後の手段です」
「それで良いのか? 君は」
「ええ、俺は弱いですが、そういうのだけは好きなんで」
「じゃあ、それで決まりだな。最後にちゃんと名乗っておくかな、君に」
今までのさすらいの旅人の男はどこに行ったのか、リアムは凛々しく言った。
「王都第四部隊所属、リアムだ。よろしくな」
きっとこの名乗りは失敗したら、オレの方を恨めよ……ということなのだろうか。
それにしても、俺は今からとんでもない事をやろうとし、とんでもない人達と知り合ってしまったようだ。
溜め息も出ないくらいに現実を受け入れられてない。




