サラ王女の願いを託されて
リアムとサラ王女が行ってしまってからも俺は一人ベンチに座って居た。
まだ夜だ。人は来ない。
何かあっては困るから、パスポートとスマホは常に持ち歩いている。
俺は少し心を落ち着かせる為にスマホを開き、メールを打つことにした。
質問、目の見えない方の場合はどうしていますか? というメールを先日、柊月にしておいて良かった。
あそこまですらすらレギナに言えたのも柊月のおかげだ。
ありがとう、アドバイス程度にはなったと思う……は不味いから、役に立った。ありがとう!! にしておこう。
返事が来る前に俺はやっとそのベンチから立ち上がり、とぼとぼ歩き出した。
リアムとサラ王女が言っていた『できない』の意味。この俺……というより、日本人であることが重要なのだ。異世界人等保護制度、これは日本国籍の者、もしくは日本に住む異世界人等以外の外国籍の者が社会生活をする中で保護するべき、異世界人等を見つけた場合、直ちに然るべき所に届けなければならないもので、それは東京に多くある。この異世界人等とは異世界から来たもの全てが該当するのだが、異世界人等が異世界人等を連れて行くのは認められていない。虚偽が相次ぎ、困り果てた事例があるからだ。それが原因で大惨事になったこともあり、少し厳しめになっている。
レギナの場合、勝手に来てしまった……というようなことはないだろう。だが、そう見せなければならない。
その然るべき所で働く柊月にはまだこの事を話せないが、というか、ずっと話せないままかもしれないが、俺はやらなければならない。あの『亡命』という言葉が出て来た時、瞬時に怯んでしまい、俺は一人でやる! と言ってしまったが、一般人である俺にそんな大それたことができるわけがない。だから、あの二人を使おう。
そして、レナード侯爵がこれ以上レギナに関わらないようにしなければならない。
もう勢い任せしかないのだろうか……。
どういう訳でレナード侯爵が俺に任せるという気になったのか、よく分からないが、気に入られている……と言えばそうなのかもしれない。
いけ好かない奴に気に入られても困るのだが、これは利用価値がありそうだ。
「あっらー? ヨシキチ? どうしたの? こんな時間に」
ゲ!! クレア! 何でこんな所に居るんだ? ここはまだ宿ではない。あと数分は歩かなければ宿には着かない。それに何故か上機嫌。何があった? 酒も飲んでなさそうだし。
「私はね、とっても良い温泉に出会えた後にこうして大通りまでやって来て、星空見て、満足してるのよ」
「あ、そうですか……」
温泉絡みか……。
「ねえ、何で私がここにテレポート出来たか知ってる?」
「知らねえよ」
「そうでしょうね……。昔、ここを彷徨った水の女神がいたのよ。それを追い掛けてね。当時ここは海に囲まれていた。だから、引き寄せられたのかもしれない」
「なあ、その水の女神様は今どこにいるんだ?」
「さあね……、あの時の、十年前のあの日、東京に行ってしまった日に戻れば分かるんでしょうけど……。で、ヨシキチは何してるのよ?」
「考えていたんだ。お前、一応回復系だろ?」
「一応じゃなくて、ちゃんと! なんですけど!!」
「だったら、お前、傷の具合がどうなっているかも分かる……わけないか……」
「何よ? どこか怪我でもしたの?」
「いや、俺じゃなくてさ。レギナの目の具合を診てくれないか? どんな風になってるか。心配でさ。最近じゃ、こっちの世界にも病院が出来て行くことは可能だけど、レギナはメデューサだし、他の患者さんが慌てふためいても困る。だから、ここで診てほしいんだ」
「分かったわよ」
クレアはすんなりとティノに電話し、レギナをここに連れて来た。
「悪いな、眠くはないか?」
「もう朝になろうとしてますしね。ちょうふぉ良いんですよ」
「眠そうだな、お前は」
大きなあくびをしているティノを見て、俺は黙ったまま、されるがままのレギナを見た。最初に会った時のままの服。まだ誰も歩いてないから、あの蛇達も自由のままだ。
「レギナ、いきたいか?」
ふいに質問した俺に、パーティメンバーの二人が何言ってんの? という顔をする。
「い、きたい」
「そうか。それが答えか」
俺は今までクレアが見ていた星空を見た。もう星が消えかけている。朝が来る。
時給五十万のこの仕事ももう終わりだ。その前に俺は生き延びれるのか、そこが心配だ。リアムはあの宿をもう出ると言っていたし、サラ王女はちゃんとレギナを私の所に連れて来るのよ! と言ってたし……。
「神を、感じる……この方からも、あの男の方からも、今も二人の神を感じる。でも、あの男の方からは、それが弱い。人間、なの?」
レギナ!
閉じたままの両目で言う。そのせいでこの幼女が今どんな思いを持っているのか分からない。
唐突のレギナの言葉にまたしてもパーティメンバー二人はどういうこと? という顔をする。
それに構わず、レギナはたどたどしく言う。
「すがりついて、泣いて、よかった……あの男の方は今も近くにいる」
俺はパーティメンバー二人に気付かれないようにレギナの手を握っていた。これから起こる事はきっと、レギナにとって辛い過去よりも少しはマシな過去になると信じて。




