王都第四部隊所属の男と王都の姫
宿に戻り、自分の部屋へ行こうと廊下を歩いているとクレアが宿の人とこそこそ話してるのを見つけてしまった。何してんだ? あいつ……。
俺は話を終えたクレアに近付き、聞くことにした。
「おい、お前、何してるんだ?」
「ちょっとね。ヨシキチは何してんのよ? 何か、顔が暗いけど大丈夫?」
「ああ……、ちょっとリアムに今晩、飲みに誘われてな……」
「飲みに?!」
「ああ、何だ? 行きたいのか?」
「いや、あのちょっとイケメンな男と一緒なんでしょ……遠慮するわ。私、まだ怒ってるの!! 神を何だと思ってるのかしら! あの男!!」
やっぱ、そういうモチベーションでいるのか、いつも。
「じゃ、私、近くに良い湯があるって聞いたから行って来るわね!」
そう言ってルンルン! と階段を駆け下りて行く。
そうだろうと思った。
あの浴衣姿の女神が聞く事だ。それ以外にこそこそする理由があるだろうか。
いや、ない!!
「はあ、寝てよう……」
俺は自分の部屋に入るなり、すぐに眠りに落ちた。
約束の時間はとうに過ぎ、その日の深夜、トントンと軽く叩かれたドアの音で目が覚めた。
誰だ? と思って、俺はそのドアを静かに開けた。
「やあ、エトウ」
うげ!! こいつ……。
もうあの約束はなくなったと思ってたのに!!
「ごめんね、こんな遅くになっちゃって」
ずっと律儀に待っていたわけではないが。
「さあ、飲みに行こうか?」
軽く笑われ、俺はここでぐだぐだする気もなく。
「はあ……」
仕方なく、このさすらいの旅人の男に付いて行くことにした。
深夜に揉めるだなんて、俺には出来ない。
リアムに付いて辿り着いた場所は日本にテレポートする所とセルカシュタットまでを行き来している馬車を待つ所で、いくつかの木のベンチがあり、その一つにリアムは座った。
「ここで飲むのか?」
座らない俺を見て、リアムは言う。
「まあ、座りなよ。オレの隣でも良いし、空いている所でも良い」
言われるがままに俺はリアムの座っているベンチの隣のベンチに座った。
もちろん、こんな時間では誰もいない。
気兼ねなく、好きな事が出来るだろう。
「さて、どこから話そうか。あ、その前にごめんね、エトウ」
「何が?」
「あのお姉さん達が楽しそうにしていた席はないんだ」
「は?」
「こんな所で酒を飲むわけにはいかない。任務中だからね」
「そうよ」
「は?」
いきなし、暗闇のベンチの後ろから現れたのは麗しの十七歳と言った感じの少女。それも服が貴族よりも上の人が着そうなピンク色のドレス。
「はあ~、サラ王女。もっと派手じゃないのにしてくださいよ」
「そうかしら? わたしとしてはとっても地味な方よ? これでも」
「あの……」
俺はいきなり現れた少女を見るとすぐに立ち上がり、親し気に話し出したさすらいの旅人の男に訊いた。
「誰ですか? そちらの方は」
「サラ王女だ。この世界の王の娘、お姫様だよ。ま、いつもは王都の城の中に居られるんだけどね」
「あなたがレギナを任された人?」
ずいっと金髪碧眼美少女が俺の顔を見て来た。
王の娘! となる前にサラサラの髪、白く柔らかそうな肌、ちょっと良い匂い、かわいい! と思ってしまう。
「違うの?」
「は、はい! そうです!!」
「そ、リアムの事は知ってるでしょ?」
「え? ええ、さすらいの旅人の男、でしょ……?」
ムスーっという顔をされてしまった。
違うのか?
「リアムは! 半分人間で半分神様なの!!」
「はあ……」
困って、そのリアムを見れば、同じく困った……という表情で苦笑いしている。
「リアムはね、王都第四部隊所属の男なの! わたしの命令でレギナを、あの呪いをかけられた一族の最後の生き残りがどうなっているか知らせ、助けられるならそうするとなっているの!!」
またずいっと顔を見られてしまった。
何だか、こっちが恥ずかしくなって来る。
「あの、それで、この世界の王女様が直々に来た理由ってのは」
「言ったでしょ! レギナを助けたいって!!」
真剣な表情で言っている。
これは本気か? 酒に酔ってしまった人がそう思い込んでやっていることじゃなさそうだ……、そもそも王女と言う人からはそういうクレアのような酒臭さが漂って来ない。お花のような良い匂いはしているが。
困惑している俺にリアムは言う。
「君が疑うのも無理はないが、この話はオレとサラ王女ぐらいしか知らない。姿を現してはいないが、サラ王女を守る部隊がここを中心にぐるっと囲んでいるよ。君が悪さをしないかね」
ごくっとなる。物騒過ぎて。
「そのぐらい、サラ王女はこの世界で影響力のある人なんだ。何たって、王位継承権第二位の人だからね」
「ええ!!」
俺は驚いてしまった。そういえば、この顔、どこかで……。
「何よ? わたしの顔が変だって言いたいの? お化粧なんてして来るんじゃなかった」
「違いますよ、エトウはそんな事で悩んでいるんじゃない。あなたのその顔は日本でも知られています。一度は日本に訪問してますからね。サラ王女は」
「あ!!」
そうだ、テレビで見たんだ。でも、あれは五年前。もう少し幼い感じの王女様だった。
だとすると、俺が知らないのも無理はない! こんな美しくなられているなんて!! いろいろとちゃんとご成長されたんだな……。
「エトウ、変な気は起こさない方が良い。他の異世界人と違って、サラ王女はやばいぞ」
「別に、そういう気で思ったんじゃない!! って、お前、俺が考えた事分かるのかよ!!?」
「いや、何となく伝わって来るんだ、これが……」
どっかの誰かも同じような事を言っていたっけ……。
「で、エトウヨシキチ、君に正式に頼みたい。メデューサ一族の生き残りを悪者の手から救ってくれないか?」
「どうして俺にそんな事を頼む?」
「今一番レギナに近い存在の人だからよ」
「そうおっしゃられるとティノだと思いますが?」
「あの子は君がやらない事を代わりにやっているんだろう。本来なら、君が全てやる事だ」
「お風呂に一緒に入ったり? 一緒にベッドで寝ることもですか?」
昨日したお世話の話にはそれらも含まれていた。
「エトウ、ふざけている場合ではないんだ。状況は一刻を争うって言っただろ?」
「リアムが怒り出した……という事は本当の事のようだな。この数週間、さすらいの旅人のあんたの本気さを探していたんだが、どうも『怒る』ということだけはなかった。それがあるということは」
「全て事実、本気で君の命を懸けてやってもらいたいと思っていることだ。オレは王都第四部隊の任務というより、サラ王女の思いによって動いていた」
「その話をする前にこの日本人の男に話す必要があるわ。王都第四部隊は何をするのか、確か、リアムが昼間、わたしに会いに来た時、言っていた事も」
リアムは良い返事をすると、サラ王女をベンチに座らせ、俺に顔を向け、真剣に話し出した。




