盲目のメデューサ幼女
それから数週間、レギナは順調に日本の事を理解したようで、早く感じてみたい! と言うようになり、日本語の方もかなり上達した。
久しぶりに外を歩いてみたいと言い、俺は仲良しになったと言うティノも連れて、あまり人の居ない所まで行くことにした。
一応、あの時のようなご婦人騒動になるのは避けたいという理由からリアムがレギナにかけた魔法と同じのをティノもレギナにかけてやり、これで少しは安心でしょう! ということで、長い緩やかな坂を三人で上って行く。
はあ、疲れた……。
やっと休憩場所となる一つの木のベンチに着いた時、わー! とティノははしゃいで、俺にスマホを見せて来た。
「何だよ?」
「見てください、お姉ちゃんと美味しそうなご飯です! この真ん中のてんこ盛り野菜とお肉料理はこのお店の大人気なやつだそうですよ!!」
酔っ払い感が出ている……きっと、これを撮ったのは香住ちゃんだろう。
ここに来るまでの間、人が少なくなったと思っていたが、そうか……答えはそのメールに書かれていた。
チート君の講習が終わったらしい。
「もう少し、落ち着くかな……」
「何がですか?」
「いや、ここに書いてあるだろ? 受付の仕事も大変だったって、リリーさんがこんなのを書いて来るんだ。かなりの人数が居たに違いない」
「そうですね、余程の事がない限り、こんなのは書きませんね」
「だからな、魔法をかけなくても外に出られるんじゃないかな……」
「それはどうかな……」
「な?! リアム?!!」
「あ、おはよう」
この男はいつもひょいっと出て来る。
まるで俺達の事を見張っているようで、出られるタイミングに来ているとしか思えない。
「そのベンチ、オレのお気に入りなんだ。座って良い?」
どうぞ……としか言えなくなる。
「はあ、良いベンチだよね~、あ、その写真の彼女、どっかで見たよ……、どこだっけな……。うーん、どっかの酒場で見たな……、このセルカシュタットのどっかなんだよな……」
セルカシュタット……それはこの王都近くの街の名前だ。
「どこに居たか分かりました?」
何故、それをティノが言う? と俺はティノを見る。
「だって、食べたくなっちゃって……。もちろん、その時はレギナさんも一緒です!!」
坂を上る時も、スマホを俺に見せて来た時もずっとティノはレギナの手を握りっぱなしで、レギナは嫌にならないのだろうか。
「嫌だったら、言うんだぞ?」
声のする方をちゃんと向き、レギナはにこっとした。
いや、かわいい~。
盲目のメデューサ幼女だとしても幼女らしく笑う姿はとても健気で、この幼女ならば『父さん』と呼ばれても良いように思えてしまうくらい……。
「くすくす……」
またリアムが笑った。
「あ、ごめん。ついね、思い出してしまったんだ。誰だったか、道の途中で会いたくもない大学の先輩に会っちゃって、もう最悪!! だけど、ポッキーゲームしたから元気になりました!! って」
くすくす、一人思い出し笑い……。その話の内容……。
俺か?!!!? と言いたくなるような感じ。
「あの……」
「あ、今度さ! エトウ、オレと二人だけで飲みに行かない?」
「酒をですか?」
「そうそう、楽しそうだ。彼女達が話題にしていた君をじっくり味わってみたい」
何言っちゃってんのぉーーーー!!!!! この人!!!
女ならまだしも、このさすらいの旅人の男の言う通りにするわけには!!
「これも仕事の付き合いだよ、そう思わないかい? 日本ではよくある事だろう? オレだって、二人きりで飲むなら女性との方が良いさ。だけどね、君の知らない事をオレは知っている。君が悩んでいる事の答えをオレは知っている。気を利かして、魔法使いの女の子はオレの誘いを聞くなり、あのメデューサの子を連れて離れてくれたよ」
いつの間に!! ティノめ!!! 止めてくれるヤツが居なくなった!!!
「どうだろう、今晩辺りにでも」
「急ですね」
「そうだね、急いては事を仕損じると言うけれど、事は一刻を争うからね」
とても面倒な事になった……としか思えない。
もしかして、俺、今、ヤバイ中にいる??
「じゃ、今晩、お迎えに行くから。まあ、一緒の宿に居るしね、すぐに会えるでしょ」
そう言って、リアムは帰って行ってしまった。
あ、ちょっと待って! 俺、行かない! 逃げる! 宿から出るぞー!!! と言いたかったが、リアムの方をレギナがそっと見ていた。
全ての目は見えないはずなのに。




