夜が終わるまでに
屋敷の中は静けさを取り戻していた。ティノがちゃんと伝えたのだろう。
それにこの時間ならロサお嬢様は勉強を終えられ、自分の部屋に行って寝ようとしている。
そのくらい朝日がすぐそこまで迫っている。仕事のお世話になりましたっていう最後の挨拶はジイヤにすれば良いのだろうか。
そんな事を考えながら、俺はこの仕事の間使わせてもらっていた自分の部屋へと行った。
ドアを開けてみたのだが、また電気が点かない。
最後の最後でまた停電か? この屋敷の自家発電はどうなってるんだ……なんて思ったのと同時に不安を感じ、最後の暗闇を楽しむ気にもなれず、何かあったらすぐに逃げられるように扉を開けたままにして中に入った。
「やっぱ、暗闇怖ぇー」
「そうか? 快適じゃないか! ボクはずっとこのままが良い」
「ロサお嬢様?!?!」
声しか分からないが何となく俺の横に居る気配だけは伝わって来る。
「どうした? 何を驚いている?」
「だって、もう朝日!」
「ああ、そうだな。だからその前にしておきたいことがあったんだ。この部屋の電気はボクが自由に出来る。キミよりも」
明確な原因の究明だった。
「それで、しておきたいことって……俺との最後の挨拶じゃないですよね」
「そうだな……」
俺がロサお嬢様の姿を見えていないのは気付かれていないだろうか。
彼女の夜目は何を見ている。
「キミ、ボクは噛み後を残すことはない」
だから何だって言うんだ……。首筋に何か視線を感じる。いや、背後から?
「チュッとしても良いだろうか、輸血パックではなく直に感じてみたいんだ、日本人の血を」
「だ」
「ダメですよ!! お嬢様!!!」
何このタイミングでこのツインテールの魔法使いの女の子来ちゃってるの?!!!!
俺の目の前にそんな……何を明るくしたの持ってるんだ、ティノ!!
「このスマホの中に入ってる江東さんの部屋を直接この目で見るまでは寝ません!! と誓っていたのが役に立ちましたね!!」
お前はまだそんなものにこだわっていたのか!!! ってか、そんな明かりで俺の所まで来れるお前もまさかの夜目持ちなのか?!!!! どうなんだ?! と問う前に苦しがる少女の声が聞こえた。
「う、やめろ!! 見ないようにしていたのに!! その光……その光もダメだ~~! ダメなんだァ~~~~!!!!!」
ロサお嬢様は走って逃げた……ようだ。部屋の明かりはすぐに点き、ロサお嬢様の姿はない。
「おい」
「はい」
こちらを向くティノに俺は言っていた。
「謝って来いよ」
「何でですか? 助けたじゃないですか? あたし。これでやっと時給が発生しましたよ」
「お前、分かってる、よな……それ」
「ああ、このスマホの明かり……、これくらいなら平気だと思ったんですがダメでしたね」
「いや、それマックスで明るくしてるよね? いつもより全然じゃない!」
「そうですね、ちゃんと見る為ってことで許してはもらえませんかね……」
は! 気付いてしまった。この魔法使いの女の子が俺の代わりにチュッてされれば良いんだ。
「おい、ティノ。お前、一回本当に行って来いよ。申し訳ございません! 罰としてあたしが吸われます! って」
「何でですかぁ!!!」
だって、お前の方が向こうも好みだろう……と言おうとした時、ジイヤのヤバそうな大声がこちらの方にまで聞こえた。
「ロサお嬢様! どうしたのですかっ?!!」
俺とティノはすぐに部屋から出て、声がした方に向かう。階段の途中にある踊り場で身動きが取れなくなったらしいロサお嬢様がそこに寝転がっていらっしゃった。
「う、い、痛いんだ、目が。全身が……もう、今日はムリだ……ジイヤ、すまないが使用人達を呼んで、ボクをあの部屋に……」
「かしこまりました」
全身って……朝日が昇って来たからか。
「お前、本当に謝って来い。じゃないと今日からお前は俺のパーティメンバーじゃないからな。もっと穏便に済ませろよ。やるならさ」
「ひどい!!」
そう言って、何故かティノは俺の手を掴んでメイドさん二人に抱えられているロサお嬢様の所に行き。
「申し訳ございません! お嬢様!!」
と謝った。俺も一緒に。何故だ。
「まあ、良い。そんなには見なかったからな。それより、魔法使い、キミも夜目か……」
「いいえ、慣れただけです。暗闇の中、たくさん狩って来ましたからね。あと便利な光があったので」
「そうか、きっと今ので0.1くらい視力が下がった。すぐにチュッとしなくては……」
そう言ってロサお嬢様は手近にいたメイドさんの手を乱暴に取り、そのまま親指の付け根辺りをその麗しい赤い唇を開き、そこにある鋭い白い歯でかぷっと吸った。
「あッ!」
見ているこちらはその血が滴り落ちてとても痛そうなのだが、吸われている本人の顔はほんのりとうっとりとしていて吸われても良いんじゃないのか……と思えて来る。
「これがチュッ……、危険ですね。ああしてどんどん自分の再生に使うんです」
抱えていた二人のメイドさんはそれが終わってもまだうっとりとしている。
良いな~……と思ってしまうのは俺だけか。
「再生……、それにはまだまだ足らん!! 女より男の方が血の量が多いから男の方が良いのだが、味に関して言えば女の方が美味だ。だが、ボクはもうキミの血をチュッとしないよ。もうそんな時間じゃない、早くこの場から去って寝たい。いくら暗くしていても太陽は出て来てしまっているからな。魔法使いのキミ、これは問題になる行為だ。だが、ボクは不問に付す。何故なら次の日本人が来れなくなると困るからだ。さっさとこの屋敷から出て行け! それが条件だ。キミもあの庭の女神も! 分かったか?」
「はい!!」
粋な計らい! と言っておこうここは。
それから三十分の内には全ての荷物を持って俺達三人はこの屋敷から出ていた。




