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新規参入の貴族にとって、晩餐会は重要である。派閥を明確にするという意味で。

 晩餐会が行われるが、明確にしておく補足が一個だけある。


 前提として、基本的に爵位というものは陛下からの叙勲(じょくん)によって与えられる。

 この爵位によって、管轄できる領地や権限の上限が決まっているのだ。上から、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵というものになる。


 ただ、王国を運営する上では、地図を見るとわかりやすいのだが、おおきく『公爵領』というものがあって、その中でパズルのように以下三つの貴族家が統治している……といった感じで、わかりやすく言えば領地経営において伯爵家以下は『中間管理職』だ。


 なお、王族と、『王族の血が入った貴族』である公爵は、領地というより、国全体の方針を決めることになる。


 要するに、末端レベルの人間を動かすうえで最も重要な貴族は侯爵家である。


 このような状態となっているため、このままではフェルノにとって本命である『深層周回運営委員会』だが、この組織の方針を決めるのが侯爵家になってしまう。


 ギフトネスト一帯を統治しているのはグランザーム侯爵家であり、カイロスの父親の管轄になるのだ。

 しかもギフトネストは侯爵家が直接管理していた。


 それではフェルノの要望が通らないので、陛下の名の下で、ギフトネスト一帯をギフトネスト伯爵家のみが管轄することになっている。


 普通なら、伯爵家では権限が足りず、近隣を統治する貴族よって呑み込まれるのがオチだが、陛下の名のもとに守られており、統治するのが実質SSランク冒険者となれば、だれも手出しできないだろう。


 ……グランザーム侯爵家からすれば優秀な稼ぎ場所を失ったようなものだが、それは知らんな。


(ただ、その中でもどの派閥に入っているのかを示すのは必要なんだよねぇ……)


 三人の陛下の子供が、それぞれ派閥を作っているとのことだ。


 このどれかに入るのが無難だろう。


 ただ、フェルノの中では、第二王子派に属するつもりはない。

 カイロスの免責を要求したのは、別に第二王子に対してひいきしたわけではないからだ。


(残る二つ……どうすっかな)


 晩餐会が始まって、フェルノは料理をチマチマと食べながらいろいろと考えていた。


 ……なお、晩餐会とはいってもフェルノのためだけに開かれているわけではないので、ほかにも若い貴族が出席しており、それぞれとコネクションを作ろうと躍起になっている。


「……久しぶりだな」


 自分に近づいてくる足音に振り向いて、フェルノは振り返った。

 そこにいたのは、かつて騎士団で同じく所属していたアグロである。

 隣には彼の側近である子爵家出身のゼントというらしい少年がいた。


「ああ、ダンジョンで遭遇した時以来だな」

「で、こうして話しかけてきてるってことは、第二王子派への誘いなのか?」

「いや、そうではない」


 おや?


「アグロ様は騎士団に所属していましたが、その実家であるオーバーン伯爵家は、第一王女派に身を置いています」


 ゼントが補足した。


「そういうことか」

「付け加えるなら、ギフトネスト伯爵領とオーバーン伯爵領は隣接している」

「そうだっけ!?」


 驚くフェルノ。


「これからギフトネスト伯爵領が大きくなることは十分考えられる。隣接する領地にかかわる身としては、つながりを作っておきたい。というのが一つ」

「ん?」

「もう一つは……」


 アグロが説明しようとした時だった。


「私がパイプを作っておきたいと思っているからだ」


 謁見の間で、玉座のそばの椅子に座っていた少女が歩いてきた。


 金髪碧眼で、きれいな赤いドレスを身にまとっている。

 長い髪をポニーテールにしており、顔立ちはとても整っているが……野性味あふれるというか、獰猛というか、好戦的というオーラがある。


 しかし、その中でも気品がある。

 立ち姿にも隙はない。


 雑……というより失礼な表現になるが、『百獣の王をものすごく躾けたような感じ』といったところだろうか。


 ドレスよりも、鎧を着て剣を持っているか、帝国で使われているという軍服を着てサーベルを握っているほうが似合うという、じゃじゃ馬感があふれている。


 正直、教育係の苦労が見なくてもわかる。


「セルケア・アルマテリアだ。本名はもうちょっと長いがな」


 かなりフェルノに近い位置まで接近するセルケア。


 目と鼻がつく……程ではないが、フェルノから見て、ドレスで作られたセルケアの大きな胸の谷間がよく見えるくらいの距離である。


「……パイプをねぇ」

「貴様が伯爵家で終わる男だとは思っていない。場合によっては、私の結婚相手になることも考えられる。今のうちから仲良くしておくのは当然だろう」


 フフッと微笑みながら未来を語るセルケア。


 まあ要するに、『SSランク冒険者であるフェルノをこの国につなぎとめるために、セルケアが政略結婚として婚約することも考えられるから』ということなのだろう。


 SSランク冒険者は、フェルノを除けば世界に六人しかいない存在だ。


 大陸にすら影響を与えるとされる男を抱えるために、政略結婚として利用されることはわかっているだろう。


 十分大国といえるこの王国の第一王女ともあれば、嫁ぎ先は帝国か。はたまた別の王国か。

 ただ、それを『面白くない』と思った結果、フェルノに近づくというのも、またわかる話だ。


 とはいえ。


 そう、とはいえである。フェルノはある種の確信を抱いた。


 この女は絶対にめんどくさいと。


「俺との結婚ねぇ。そこまで言うか?」

「祭りのような規模の稼ぎを自ら作り出せる男が重要でないわけがないだろう?」


 セルケアが言っていることが事実である。


「……まあ、何が言いたいのかはわかったよ」

「そうか。まあ、今日はこのあたりで引いておこう」


 そういいながら、セルケアはフェルノから距離をとった。


「さて……この国の貴族の一員となる君に対して、政治的な戦略眼を持っていることくらいは示しておきたいな」


 戦闘力でも領地発展でも、実力ならフェルノ本人が持っているし、しかもまだ十八歳で現役も長い。

 そうなれば、周りに求められるのは、それとは違う要素だ。


 それを踏まえたうえで、セルケアは語る。


「カイロス・グランザームの今回の行動。これを免責させた狙いでも語ろうか?」

「……言ってみな」

「ギフトネスト伯爵領はお父様が直接権限を保証している。だが、それでもほかの領地との付き合いをなくすことはできない。特に、今までギフトネストはグランザーム侯爵領だった。しかし、もしもグランザーム家が降格した場合、いままで侯爵領にいた領地を管轄する貴族たちが空中分解する可能性がある。近くの領地が荒れ放題になるのを避けるというのが一点目だ」


 この時点でかなり黙りこくってしまうフェルノだが……。


「もう一つある」

「……その二つ目は?」

「そもそもの話として……君の強さや『恐ろしさ』をよく知るものが、君の近くの領地を収めている中で重要なポストにいる。これ以上に、君にとって都合のいい状況はない」

「……」


 自信あり気にフェルノを見るセルケア。


 そしてそれに対して、フェルノはため息をつく。


「もうちょっと、脳筋だと思ってたよ」


 実質、見抜かれているといって過言ではない。


 今までギフトネストはグランザーム侯爵領の一部であり、今回から伯爵領となるが、それでも、今までのつながりを完全に放棄することなど不可能だ。


 それが崩れるのは大変マズい。


 そして、カイロスがフェルノの実力をよく知っていることも事実である。

 グランザーム家は今まで二人の兄弟だったが、弟が追放されたため、残るのは長男のみ。


 順当にいけば、家督を継ぐのはカイロスになる。


 そのカイロスだが、フェルノが睨めばビビり散らかすのは明白だ。


 そんな人材が入れば、フェルノの意見だって通りやすい。それはフェルノにとってとても都合のいい話である。


「残念だが、王室の教育は貴様が考えているほど軟弱ではない」


 そういって、セルケアはフェルノに背を向けた。


 だが、フェルノはその背に対して話す。


「まあ、あと三つ足りないから、次までの課題ってことでいいか?」

「!?」


 驚いたようにセルケアが振り向く。

 しばらく驚愕していたが……すぐに楽しいものを見るような表情になると、フフッとほほ笑んだ。


「やはり面白い。それから、君とアグロはこれから領地で付き合いはあるだろうが……騎士団では因縁があったようだな。派閥の代表として、必要なら頭を下げるが?」

「いや、いいって、俺とアグロなら子供の喧嘩だろ」

「そうか」

「まあ、子供の喧嘩に親が出るなら親のほうは容赦しないけどな」

「フフッ。覚えておこう」


 フェルノの『主義』が分かった様子である。


「最後に一ついいかな?」

「ん?」

「シンシアは、元気にしているか?」


 先ほどまでのどこかフェルノを狙っているような顔とは違い、本当に安否を確認するような、そんな表情になるセルケア。


 セルケアの年齢は、情報からは十七歳。

 王立学院に通う年齢であり、学年は異なるが、シンシアも通っていたはずだ。


 当然、気に掛ける場面はあったはず。

 そのつながりだろう。


「……ああ、元気してるよ」

「そうか……なら、それでいい」


 セルケアはそれ以上は何も言わず、歩いて行った。


「……あの人、いろいろあるのかね」

「いろいろある。というのは間違いない。ただ、前々から帝国に嫁ぐのは嫌がっていたから、良いものを見つけたと思ってはいる筈だ」

「んなこと俺に言って大丈夫か?」

「戦場だと、テントですら一緒にいるような人だからな。それくらい、人の近くに行って接することに躊躇がない。これくらいなら笑って済ますだろう」

「さようか……とりあえず、第一王女派の貴族のところに案内してくれないか?」

「わかりました。事前に集めていますから、そこに行きましょう」


 ゼントがあらかじめ『それとなく集まるように』と指示を出していたようで、そのテーブルにいって混ざることにした。


 カイロスの失態を免責したことで『派閥でいえば第二王子派なのでは?』という疑惑があったフェルノだが、ここまでしっかり混ざっていれば、『第一王女派』であることは周囲の目にも明らかだろう。


 とりあえず、晩餐会で済ませておくべきことの中で、最も重要なことは済んだといえる。

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