事後処理終了、これからの伯爵領の運営に向けて
国の人間として領地を管理する以上、単純な利益だけを考えているとバランス感覚が崩壊するので、いろいろ情報が必要だ。
フェルノは王都にあったグランザーム侯爵家の屋敷から、ギフトネスト関連の資料を貰って、それをもとに調整していくことになる。
ちなみに格安で受け取れました。『そっちの嫡男を庇ってやったよね。ちょっとはこっちのいうこと聞いてもらってもいいんじゃない(意訳)』みたいなことをしたのは間違いないが、フェルノは気にしない。
もちろん、受け取ったものは多くはない。
恩からいえばかなり小さいものだろう。
だがそれでいいのだ。
恩というものは返してもらうためではなく、利子をつけて無限に搾り取るためにあるのだ。今までむしり取る立場であったグランザーム家は知らないだろうが。
で、伯爵のバッジを受け取ったフェルノ、王都で旧友に挨拶をしたシンシア、論文を集めたエルフィナ、娼館で女の子相手にイチャイチャして肌がツヤッツヤのアリアスの四人で、ギフトネストに帰ることになった。
ギフトネストに戻ってきて、ギフトネスト一帯を統治する伯爵となったことを広めると同時に、トーラスに呼ばれて冒険者ギルドによる。
そこでトーラスから、『本部からSSランク冒険者になるための審査会がやってくる』という報告を受けた。
実際にSSランクモンスターを出現させることは不可能だが、『これくらいの火力がなければどうしようもないだろう』ということを判断するための『硬い物質』を持ってきて、それを斬らせることで判定するらしい。
その次の日に闘技場に運ばれてきた『鉱石』は、フェルノとしても初めて見るものだったが、いずれにしても斬る必要があるのは間違いない。
圧倒的な硬度があり、『前座』として多数の冒険者が試しに挑んだが、まるで何もできなかった。
火力だけは十分あると豪語する貴族たちもそれは同じである。
結局、一週間、闘技場に放置されることとなった鉱石だったが、ついにその形を変えることはなかった。
そんな空気の中で行われたフェルノの試験。
制限時間はない。どれくらいかかったのかを判断する。
ただ、そんな設定は無意味だった。
竜刀術・我竜絶技・氷獄無双一刀両断
竜刀の力を引き出す必要もない。
ゼロ度のマグマがあふれたフェルノの一刀によって、一撃で斜めに切断された。
盛り上がるどころか、全員の度肝を抜くほどの威力。
鉱石を放置できる時間が長かったため、王族や貴族……それも、他国からも来て観客席に座っていたが、その中で、フェルノは分かりやすく、一撃で切断した。
そのすぐ後に歓声が沸き上がった。王国関係者は良い笑みを浮かべて、他国の関係者は青い顔になるという、わかりやすいものとなったが、それを尻目に去るフェルノには、どうでもいいことである。
SSランク冒険者のライセンスが発行されて、現在いた六人に加えて、七人目のSSランク冒険者として、世界中の紙面に載ることになる。
そんな状態だが、伯爵となったため領地を運営……いや、厳密にはフェルノにできるのは『発展』であって『運営』ではない。
それはともかく、その地属性魔法の力を使って発展させることとなったため、しばらく多忙であった。
フェルノが買った屋敷はそのままで、フェルノが仕事をするための専用の建物が用意され、冒険者ギルドからはまだ新人っぽい雰囲気が抜けないポプラがおくられることとなった。
……めんどくさいものを押しつけられたポプラだが、素直な性格だし、フェルノたち四人からも可愛がられているので、問題はないということにしよう。
書類を作ることそのものは経験豊富なフェルノは、多くの者が鉱石に挑んでいる間に、必要な書類は全て済ませてしまったため、ようやく『発展開始』となる。
★
「もうちょっと人が欲しいな。あと、中継地点になりそうな何かが欲しい」
フェルノは屋敷のベッドでぐったりしていた。
ギフトネスト領は今、課題を抱えていた。
問題と言えるほどではないのだが、それでも、解決したいと考えるには十分なことである。
「そうですね。フェルノ様の周回作戦は確かに質の高い魔石を大量に集めることができますが、それを処理するだけの需要がこの町にありません」
「しかも、ギフトネストとオーバーン伯爵領はこれまで『付き合ってる王族が別』だったから、大した交流もない。人の移動に必要な『中継地点』がないね」
「調べてみたけど、ギフトネストとオーバーン伯爵領をつなげるための中継地点になりそうなところって、治水の難易度が高いって話しよ。コストがかかるから誰もやってないわ」
声に出している通り、といったところだ。
ギフトネストは、これからは優秀な『魔石流通場所』になるだろう。
だが、それを処理するほどの需要がなく、このままだと供給過多になるのだ。
これまではギフトネストで処理しきれない部分はグランザーム侯爵領の範囲内で流していたが、技術が足りていないので需要が大きくない。
解決案としては隣のオーバーン伯爵領に魔石を流したいところだが、こっちはほぼ人の移動がなかったので道が整備されていないし、距離がかなりあるのに中継場所もない。
大きな山があって、原因不明だが、周囲は川の流れが常に速いのだ。
治水が難しく、『今までと同じ感覚』ではできないし、そもそも派閥的な問題があったので手が付けられていない。
「うーん……とりあえず、ギフトネストとオーバーンの間を整備したいな」
人と魔石が移動しやすくなる。
だが、オーバーン領ではギフトネスト産の魔石はそこまで必要ではないだろう。
それを解決するため、ギフトネストに人が来たら、その人を安定した給料で雇って、質の高い魔石を加工する技術を身に着けてもらえばいいのだ。
地元に帰ってその力を発揮してもらえるなら、オーバーン領で魔石の需要が増える。
「まあ、発展のためには重要だろうね。インフラ整備は始めるのにも維持するのにも時間がかかるけど、人が移動しやすくなれば発展するだろうし」
「アグロと話しとけばよかった……」
アグロはフェルノと巨人が戦うよりも前に騎士団を追放されており、魔法陣を描けなくなったため、王立学院に通っていたがそちらも退学している。
両地経営の部分はすでに学び終わっていて優秀な成績を出していたそうなので、貴族としての責務を果たすことはできるだろうが、既にオーバーン伯爵領の実家に帰っていた。
「……あ、あの……」
「ん?どうしたのポプラちゃん」
フェルノたちがいる部屋に入ってくるポプラ。
封筒を一つ持っており、どうやら運ぶために来たようだ。
「フェルノさん宛てに、アグロ様からです」
「え、アグロから?」
ポプラから封筒を受け取って、中身を確認する。
「……どのような内容なのですか?」
「アグロが経験を積むために、俺たちが唸っていたところの治水をやるそうだ」
「タイムリーな話ね」
アリアスは呆れたように言う。
「手紙を読む限り、アグロはともかく、当主が乗り気みたいだな……あーでも、よく考えれば、当主視点で考えれば旨味は大きいか」
様々な原因はあるだろうが、最も大きいのはフェルノの存在だ。
治水という点において、地属性魔法は重要である。
長い間王国の土地が拡大していないのであまり『開拓』という点に予算が向けられない。
今の王族の派閥になる前であっても、ギフトネストとオーバーンの間が治水しにくいことに変わりはなく、手が付けられていなかった。
だが、SSランク冒険者の実力を持つ地属性魔法使いであるフェルノがいるのなら、話は変わる。
ギフトネストがこれから発展するのはほぼ確定と誰もが言う中、隣の領地なのに関係を深めない理由などない。
「まあ、こっちとしても賛成する話だ。周回作戦との兼ね合いを調整する必要はあるけど、とりあえず話してみよう」




