事後処理はだるい。王様に謁見するのはもっとダルい。
ギフトネストの南に出現したSSランクモンスター、剣闘王パーフェクト・ガイアが討伐されたことは、ギフトネストにすぐ伝わった。
SSランクモンスターの討伐であり、あまりにも迅速だったため、王都には出現報告の次の日に討伐報告が到着するという異例のものになった。
かなり高額だが写真を撮ることができる魔法具があるので、書類に添付して報告することになったのだが、現地調査に向かったものは『マジで言ってんのこれ……』となったようだ。
気持ちは大変わかるが、業務はしっかりやっていただきたい。
そしてギフトネストだが、一体もモンスターが向かうことはなかった。
しかし、フェルノと巨人の戦いが激しすぎて地震が多数発生したことで、耐震工事が行われていない建物が倒壊したり、棚が崩れて家の中がめちゃくちゃになったり、シーロカ騎士団の本部が無残な姿になったりといろいろあったようである。
ただ、後遺症が残るほどの重傷者はゼロ。死者は、巨人から逃げられず、気絶したままこの世から消えた騎士団のメンバーたちのみ。という結果になった。
SSランクモンスターは大陸を壊滅させると言われることから、本来、想定される死者は相当なものになるだろう。
だが、この結果に収まったということは、人類にとって大勝利といえる。
そして、この世界には、本当にSSランクモンスターを単騎で倒してしまうような化け物が六人、冒険者ギルドには登録されているため、フェルノでなくとも、あの巨人を討伐することは可能だっただろう。
だが、SSランク冒険者の到着よりも前にアルマテリア王国が滅ぶ確率が高かったことは言うまでもなく、フェルノには『褒賞』が与えられることになった。
フェルノ個人としては、そこまでは良いのだが……。
「うわー。王都ってでかいな」
馬車の中からフェルノがつぶやくように言った。
「それはそうよ。王国で最も栄えている都なんだから」
「この町はいつも変わりませんからね」
「まあ、僕は特に興味はないけどね。ただ、論文の流通量が多いからそこだけ気にするかな」
アリアス、シンシア、エルフィナもまた、王都に近づく馬車の中で感想を口にする。
「はぁ、謁見って怠いなぁ」
「必要なことだって判断したじゃない。今更どうしたの」
「だって興味ないもん。正直、感謝状を一枚くれたらもうどーでもいーやって感じだし」
「愚痴があまりにも幼稚だね。君らしくないよ」
「いや、大体俺ってこんな感じだろ」
「そんなことはありませんよ……多分」
シンシアからも疑問視されたら終わりである。誰も味方がいない。
「はー……さっさと済ませて帰るか」
フェルノはダラッとした姿勢を崩さずにそういった。
嫌だ怠いと文句を言いながらも歩いていけば、残念ながらいずれ城に到着する。
謁見するのはフェルノだけなので、他の三人はそれぞれ王都で時間をつぶすことになっている。
城の門を守っている兵士に、謁見関連の召喚状と現在のSランク冒険者としてのライセンスを見せた。
「フェルノ様ですね。お待ちしておりました。部屋に案内します」
謁見が行われるのは最低でも六時間以上先だ。
さすがに部屋が用意されないわけがない。
門番が中に連絡して、兵士が一人来た。
中年で年季の入った鎧と剣を装備している男性である。
「私が案内します」
「よろしくお願いします」
男性についていき、二階にあった一つのゲストルームに案内される。
「謁見まで時間がありますので、この部屋でお待ちください。あらかじめ受け取っていると思いますが、こちらが謁見の進行表になります」
そういって、表が書かれた紙を渡してくる。
「どうもです」
「それから……陛下や殿下が急に立ち寄ることもありますので、ご容赦を」
「あー。時間をつぶすための本なら持ってきてるから、それを読んでるよ。妙なことをする気はないから」
「わかりました。この階の西側……あの角を左に曲がったところに、我々の控室がありますから、何かあれば言ってください。対応します」
「ご丁寧にありがとうございます」
というわけで、兵士はゲストルームから離れていったので、フェルノは持ってきた荷物を机に置くと、鞄からいくつかの本を取り出して開いた。
「……さて、時間潰すか」
★
誰もこんかったわ。
こういう場のための服は元から持ってたので、王城で努めている仕立て屋に渡して整えてもらったし、特に聞きたいこともやりたいこともなかったので、本を読んでずっと時間をつぶしていた。
軽食も持参していたので、本当に外に出る用事がなかったのである。
マジで待っただけであった。
「これから謁見になりますが、何か質問はありますか?」
フェルノをゲストルームに案内した兵士から聞かれるフェルノ。
「進行表の通りに進むのであれば特に……アドリブを求められないのであれば質問はないかな」
「わかりました。それから……本来なら失礼のないようにと深く注意するところですが、フェルノ様はSSランクへの昇進がほぼ確定していると誰もが判断する状況です。陛下は、多少は目をつむると」
Sランクの時点で『王族レベル』だ。
SSランクともなれば、『国王レベル』と考えている者もいるくらいである。
というより、小国の国王なら超えているレベルだ。
「あー……ごく一般的な倫理観と羞恥心は持ってるから、安心してくれ」
「わかりました」
その後、『一応』の打ち合わせを済ませると、謁見が始まる時間になった。
フェルノは謁見の間に入る。
中では、高官や上位貴族が席についていた。
玉座に近い席には、まだ若い男子が二人と、女子が一人。
いずれも年齢はフェルノと同じか少し上くらいだろう。
第一王子、第二王子、そして第一王女だ。
質の高い礼服やドレスをそれぞれ身に着けている。
(表情で一発で分かるな。第二王子かな?貴族至上主義らしいが、明らかに睨んできてるし)
要するに『敵対』の感情があるということだ。
他二人は特に感情を顔には出していない。
まあ、『測ろう』という感情は見えるが、その程度だ。初対面だし当然だろう。
黄金の玉座の二十メートルくらい手前の指定位置に来る。
片膝をついて、頭を下げて、例の姿勢で待った。
十数秒後、進行を務める男性が連絡を受け取ったようで、開始を宣言。
後ろの扉が開いて、足音が聞こえてきた。
国王が入ってきたのだろう。
(ただ、なんだろうな。身長三十メートルの巨人を相手にしたからなのかね?全然緊張しない)
一国の王が相手でも、フェルノの心臓が早くなることはない。
まあ最も、そんなフェルノの内心など、司会進行にとってはどうでもいいことだ。
「面を上げよ」
声量は大きくはない。
しかし、よく通る声が謁見の間に響いた。
フェルノは顔を上げる。
そこには、子どもたちと同じく金髪碧眼で、まだまだ力強い眼光を持った初老の男性が立っていた。
「Sランク冒険者。フェルノよ。この度のSSランクモンスターの討伐。大義である」
進行表では、ここで頭を下げると書かれていたので頭を下げる。
「すでに詳しい内容はきいておる。自由に発言することを許す」
「陛下と謁見でき、ありがたき幸せに存じます」
本当は感謝状だけもらってバイバイでもいいんだけどね。ということは口には出さず内側に秘めるフェルノ。
余裕あり過ぎである。
「大陸に危機をもたらすとされるSSランクモンスターを迅速に討伐した褒賞を与えたい。望みを述べよ」
そういってくる王様だが……実は、あらかじめ、陛下からの草案が届いており、幾つかフェルノからも修正を加えて、既に可決しているのだ。
体裁ではフェルノが望んだという形にしているが、これは『SSランクモンスターの討伐に関する褒賞なのに、討伐した冒険者自身の意思が尊重されないのはおかしい』という意見を封殺するためである。
「私は現在、ギフトネスト近隣のダンジョンを利用した、大規模な周回作戦を実施しています。その作戦の運営を続けるにあたり、優遇処置をしていただきたい。具体的には、陛下の名のもとに運営委員会を改めて設置し、運営権限を守ってもらうことを望みます」
これが1点目だ。
要するに、『深層周回運営委員会という組織を冒険者ギルドで作ってたけど、ギフトネストを管轄してる貴族からの課税とか横やりがうっさいから、国王が茶々入れてくるのを止めてくれない?』ということである。
もちろん、フェルノとしては望んでいることではある。
だが、陛下がここでうなずくわけにはいかない。
なんせ、この謁見はとても大きな意味を持つ。
望んだからと言って、それをそのまま認めて終わるようでは、器が知れると判断されるのだ。
「望みは分かった。だが、それでは足りぬな。ギフトネスト一帯に対し、統治する権限と伯爵位を与える。また、この国の建国に関わり、かつて絶大なモンスターを倒した『魔剣』の名も同時に授けよう。これからは、フェルノ・ドーラ・ギフトネストと名乗るといい」
「……」
このジジイ、アドリブ入れてきやがった。
当初の予定では、『管轄権限は保証する。ただし爵位は不要』ということになっていたのだ。
だって爵位なんていらないもん。
あと、もっと上の爵位はあるけど伯爵家どまりなのは、この国の法律で、国王が最初に与えられる最高の爵位が伯爵だからか。
建国した初代国王が定めたらしいが……いや、そんなことはどうでもいい。
「……陛下のお言葉に応えます」
乗ってやる。乗ってやるさ。
だから、そっちも乗ってね?
「それから、要望は二点あります。一点目は述べましたが、もう一つを述べましょう」
国王の顔に一筋の汗が流れた。
「今回のSSランクモンスター討伐にあたり、グランザーム侯爵家嫡男、カイロス・グランザームは、モンスターから逃走する際、他の騎士団員を蹴り倒して馬に乗ったという報告があります。その騎士団員は逃げられず戦死しており、貴族の嫡男にあるまじき行為として、グランザーム侯爵家の降格の噂が市中にあります」
グランザーム家の当主だろうか。少し青い顔をしている。
おそらく、先に実家に帰ったカイロスから、『こいつはヤバいやつだ!』という報告を受けているからだ。
ここから先のフェルノの言葉によってはグランザーム家の没落まであり得るため、青い顔をしているのだろう。
「現場にいた私は、実際にその光景を目にしました。先に馬に乗った騎士団員を蹴り飛ばし、自分が助かることを優先した行動を、カイロス・グランザームがとったことは事実です」
「ふむ……」
「その上で、陛下の名のもとに、此度のカイロス・グランザームの行動を免責していただきたい」
「!?」
その場にいた全員が驚いた。
王国法では、爵位の剥奪、昇格、降格を行えるのは国王のみとなっている。
どれほど市中が騒いでいようと、最終的に決定を下せるのは国王だけ。
もちろん、今回のカイロスの行動はフェルノ視点でも仕方がないとはいえ、他の騎士団員からの苦情やら愚痴やらいろいろあったのだろう。
失態というのは広まるのが速いため、このまま何もなしにこの話を放置すると、後でくすぶる可能性がある。
現場の真実を知らない人間は、勝手に尾びれをつけて広めるものだから。
だが、最大の戦績者であるフェルノが褒賞として免責を望むのであれば、『英雄が選んだのだから今回は耐える』という意見を持つ者も出てくるだろう。
「……わかった。我の名において、カイロス・グランザームの、此度の自分本位の行動を免責する」
陛下が宣言し、グランザーム家の当主は顔色が元に戻った。
「望みは以上か」
「はい。これ以上はありません」
「うむ」
陛下は司会進行に視線を向ける。
そして、進行が閉会の言葉を述べて、謁見は終了した。
「うむ……最後に、フェルノ伯爵。今日は、我が主催する晩餐会が行われる。この城に訪れる機会は少なかろう。ぜひ出席していくといい」
(こ、このクソジジイ。こっちが下手に出てるからって好き勝手やりやがって!)
いや、それよりも……
(この王様、初対面なのに、俺の性格を理解してないか?)
フェルノの疑問点は、そこに集約された。
確かに書面でいろいろ調節しているが、それで分かる部分には限度がある。
一体、どういうことなのだろうか。




