フェルノVS SSランクモンスター『剣闘王パーフェクト・ガイア』 2
体を動かして、まとわりついた氷を砕く。
巨人は、驚いたことは事実である。
しかし、少年から溢れる『凍り付くようなマグマ』を見ても、『大したことはない』と考えた。
理由は単純で、『ただ属性の性質が変わっただけで、威力が上がったわけではない』と判断したからである。
暖色系で構成されるべきであるはずの物質が寒色系に丸ごと変わっているし、実際に地面も凍り付いている。
だが、それはそれで『氷属性』としてとらえればいい。
だからこそ、巨人はこのマグマを見ても、『脅威』とは判定しなかった。
「黙っていても仕方がないな」
フェルノは左手を巨人に向ける。
その手に、ゼロ度のマグマが集まった。
「イラプション・バースト」
先ほどまでと違って、静かな声色。
……次の瞬間、巨人の腕はやはり凍り付いている。
「!?」
速度が圧倒的すぎる。
いや、噴火と呼ばれるそれの勢いが矮小なはずはない。
そのはずはないが、もはやそういう議論に意味がなさないほどの速度となっている。
「ふむ、マグマなら『粘性』と『密度』が高いはずだが、そこまで感じないな」
フェルノは翼を広げて跳躍する。
次の瞬間、地面にいたはずのフェルノは、巨人の胸の高さまで一気に飛翔していた。
「!……UOOOOOOO!」
巨人は全身とグラディウスに魔力を纏わせる。
そして、そのまま突きを放った。
地面は滑りやすいが、圧倒的な体重と体幹で足腰をしっかり使い、高速で突き出す!
これに対して、フェルノは容易く回避した。
「GU……RUAAAAAAAAAAAA!」
巨人は左手をグラディウスに添える。
次の瞬間、グラディウスがグネグネと形を変えていき、細さが半分になった両刃剣二つに分解した。
「SYAAAAAAAAAAAAAAAA!」
二刀流で構える巨人。
全身と二本のグラディウスに魔力を纏わせて、高速で斬撃を繰り出していく。
巨人にとってフェルノは小さな的ではあるが、それで逃がすほど、『SSランクモンスター』は甘くない。
並のSランクモンスターであればすでに細切れになっているかのような斬撃を次々と繰り出していく。
「無駄だ」
しかし、それら全ては、フェルノにあたらない。
しっかりと見て、圧倒的な初速で回避される。
もちろん、巨人はしっかりと目で追って、中にはフェイントを混ぜたりなど誘導して攻撃を行うが、それでも、フェルノには全く当たらない。
「HUUUUUU!HUUUUUU!」
攻撃を中断して肩で息をする巨人。
目の前にいるフェルノから闘気が感じられない。
『こちらの攻撃は回避しているが、こちらに通用する攻撃がないのではないか?』
巨人は一瞬、そう考えた。
そもそも、先ほどまでの彼の攻撃は、体に魔力をしっかり流し込み、戦闘態勢に入った巨人に決定打を与えることができなかったのだ。
属性が変わった程度で、攻撃が通るとは思えない。
先ほどの噴火攻撃も、表面を凍らせたことは確かだが、巨人の『中身』には至らなかった。
「そろそろこっちもやろうか」
刃の溝に寒色系のマグマを流し込みながら、フェルノはつぶやく。
「竜王術・我竜・絶寒ノ月」
放たれる三日月形の飛ぶ斬撃。
放たれたと思ったときには、既に、巨人の体に到達していた。
ブシャアアアアアアアアアアアアアアアア!
「GIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
皮膚と肉が割けて、巨人から血があふれる。
何故!?
あれほど『速度』を重視したものが、ここまで、『深々と自分にダメージを与える』など、あり得ない!理解ができない!
「頭の中が『火力』に支配される時と比べると、ひどくこっちは効率的だな。『貫通』をはじめとする付与魔法が行いやすい」
呟くフェルノ。
巨人はそれを聞いて、そしてフェルノの様子を見て、理解した。
動きから、一切の無駄がなくなっているのだ。
先ほどからいろいろなことを考えているだろうから、その点で言えば『無駄』と言える。
だが、それが行動に移る段階において、『一切の無駄』が排除されているのだ。
火力に対して火力をぶつけて相手を押しつぶすやり方から一変し、無駄を削り、効率的に、敵にダメージを与えるための行動を選択する。
そして、実際に動く段階で、本当に無駄がない。
「UOOOOOOOOOOOOO!」
巨人は吠える。
そして、先ほどまでとは比べ物にならない……フェルノを前にしても、まるで火山の噴火と表現できそうなほどの魔力が体の内側から放出し、その全てを、二本のグラディウスに集めていく。
「……ん?私に対する殺気が消えた?一体何を狙って……」
そこまで呟いたが、フェルノは自分の後ろにある物を思い出す。
「なるほど、狙いはギフトネストか」
絶対的なほどの……本来、大陸に脅威をもたらすレベルであるSSランクモンスターが、闘気を完全に開放して放つ一撃。
ここからギフトネストまで距離はあるが、この巨人にとってそんなものは関係ないだろう。
一撃で、文字通り、ギフトネストを滅ぼせるはずだ。
「避けるわけにはいかんな」
竜刀を静かに構えるフェルノ。
「OOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
巨人は二本のグラディウスを振り下ろす。
次の瞬間、大地を割るかのように、斬撃が放たれて飛んでいく。
いや、大地を割る『かのように』ではない。
実際に、地面には深いヒビが入っており、大地を割いている。
「……最初にするべきだったな」
フェルノは斬撃に左手を向ける。
「イラプション・フルバースト」
極太の青白い閃光。
それは、二つの斬撃と衝突し、競り合いはじめて……そのまま容易く、斬撃を飲み込んだ。
「!?」
斬撃は氷におおわれて、まるでオブジェのようにそこに残った。
少しヒビが入ると、それが全体に広がって、砕け散って消えていく。
「……U、UOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
やはり、この男を殺さなければだめだ。
巨人は再び剣を合わせると、錬金し、一本の巨大な剣にする。
それをためらいなく、容赦もなく、大陸ごと斬る勢いで、フェルノに向かって振り下ろす。
しかし……。
「すまないが、もう通用しない」
竜刀を一閃。
それだけで、『巨人の剣の鍔のすぐ上が切断され』て、柄と刃が完全に分離した。
「!……A、AA……GA……」
信じられない。信じたくない光景に、まともな声すらでない巨人。
刃が地面に落ちる。
相当頑丈なものだったのだろう。地面に落ちるだけですさまじい音がする。
しかし、もうそんなことは関係ない。
「終わりにしよう」
「!?」
フェルノは一瞬で地面に降り立つと、竜刀を地面に突き刺す。
そして、体の内側から、膨大な量の魔力を放出した。
「……」
絶句する巨人。
そのまま、後ろに一歩下がった。
また一歩下がり……やがて、フェルノから逃げようとして、体を動かす。
しかしそれよりも、フェルノの準備の方が速かった。
「竜王術・我竜絶技・紅蓮氷獄」
フェルノが技を発動した瞬間……あたり一面が、氷に覆われた美しい世界に変わった。
大地は氷に覆われ、巨人もまた、その体は全て氷に覆われる。
氷は巨人の内部まで浸食し、皮膚から、肉から、赤い血が流れた。
氷に包まれた中で、いたるところから出血し、広がっていく。
その血は、綺麗にその形を決めたようだ。
そう、それはまるで……
赤い花びらを広げる、紅蓮華のように……




