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【団長SIDE】 任務失敗、とまらぬ妄想と皮算用

「グフフ、暗部を送ったことだし、フェルノの始末とシンシアの回収は解決したはずだ」


 シーロカ騎士団の団長室で、ワインを飲みながら下劣な笑みを浮かべるオルレイド。


 軽食としてかなり質の高いものが机に並んでおり、どうやら気分が良いようだ。


「あの暗部の構成員は、私が裏から集めた最高ランクのチーム。今頃、フェルノは自分がどうやって死んだのかもわからず、死体は処理されているだろう。フフフッ。私には向かうからこうなるのだよ」


 騎士団に所属していた時期から、目障りな存在だった。


 まさか騎士団を追放した後でも自分の邪魔をするとは思っていなかったのだが、暗部を放ったことで、始末することができただろう。


「そして、シンシアを……グフフフッ」


 オルレイドは、とあるイベントにより化粧や服装と整えた『アステライトの金剛石』の実物を知る人間である。


 シンシアの美しさという点においては本物を知っており、今からそれをめちゃくちゃにできることを想像して、ニヤニヤが止まらないのだ。


「最初からこうしておけばよかった。あんな平民に実力などあるはずがない。だが、シンシアを横取りした罪は重い。何か偶然が重なって手に入れたといったところか」


 横取り。手に入れた。

 オルレイドは、シンシアという一人の女を、ただの『商品』としてまだ扱っている。


「少なくとも、遭遇した時には奴隷の首輪をシンシアはつけていたはず。あれほどの美貌を持ち、奴隷の首輪をつけているとなれば、それを外すなどありえん」


 ワインをグラスに注ぐオルレイド。


「今頃、シンシアを使って若い欲望を満たしていることだろう。そうに違いない。あんな平民に釣り合う女ではない。私のような侯爵家の人間にふさわしいのだ。人の物を横取りし、その商品で欲望を満たすような人間のクズは、こうしてひっそりと、誰にも知られることなく死ぬのがお似合いだ。フフッ」


 グラスのワインを一気に飲み干す。


 ふうっ、と息を吐いて余韻に浸った。


「そろそろ、回収が済んだころだろうか……」


 オルレイドがそう言ったとき、窓をコンコンとノックされた。


 オルレイドが振り向くと、そこには黒装束の五人組がいた。


 イマジナリーと同じく、部屋に入ってからのノックである。最近流行ってるの?


「おおっ!来たか。フェルノの始末とシンシアの回収は済んだようだな!」


 ニヤニヤが止まらないオルレイド。


 ……というわけで、第二の『のだが』となる。


「失敗しました」

「グフフ……えっ……な、なんだと?失敗した?」


 男の報告に唖然とするオルレイド。


「な、なにを言っているんだ……お前たちが失敗しただと!?」


 本当に驚くオルレイド。

 イマジナリーは、『オルレイドの観察眼では到底測り切れない』ため、実力をどう評価すればいいのかわからなかった。


 だが、この五人は、貴族社会で生きるオルレイドが手を出せる中でも選りすぐりの人材。


 この五人が『任務を失敗した』というのは、聞いたことがない。


「アイツは、相当な実力者です。戦闘に関する経験もそうですが……我々のような暗殺者に対抗するための技術も身に着けています。言い換えるなら……相当な『修羅場』を潜っているかと」

「あ、ありえん!アイツはただの平民だぞ!そんなことがあるはずがない!」


 机に拳を振り下ろすオルレイド。


 だが、物にあたろうが怒鳴り散らそうが、フェルノの始末とシンシアの回収ができなかったことは変わらない。


「グッ……まさか、こんなことになるとは……」

「奴はすでに、AランクとBランクの冒険者を仲間にしており、その総合的な戦闘力も高いものになっています」

「そんな高ランク冒険者を二人も……どこのどいつだ」

「こちらを」


 資料を手渡す男。

 そこには、パーティーメンバー四人がギルドから出てきたところの写真と、簡易的なデータが記載されている。


 どうやら、写真魔道具……異世界からの言語で『カメラ』と呼ばれるもので写されたものだろう。


 作ることが困難な複雑な魔道具であり、一般流通はしていないものだが、そのなかでもかなり質が高い魔道具を使ったようで、画質はかなりいい。


「……『夜の使徒』と『異端学者』だと?馬鹿な。こいつらはコンビとして活動していたはずだ。なぜあの平民に……」


 夜の使徒アリアスと異端学者エルフィナ。

 二人とも、実力は高く、そしてルックス、スタイルともに優れた美少女だ。


 オルレイドも遠くから見かけた程度だが、その美貌に目を奪われたのは忘れない。


「それはまだ不明です」

「私の所有物を横取りするのに飽き足らず、女を二人追加で侍らせるなど、クズの極み!」

「……」


 暗部の人間も怠くなってきた。


 自分のことを棚に上げているという様子はない。

 オルレイドには何の悪気もないのだから。


 ただ、自分は良いが他人はダメ。というものがいくつも存在するのである。

 面倒なことこの上ない。


 ただでさえ、『隠し家』では、シンシアをめちゃくちゃにする『予行演習』として、何人もの美少女を攫っては壊しているのだ。

 自己中心的なその精神も、ここまでくれば才能である。


「くそっ。貴様らでもダメとなれば……」


 男が渡した資料を机に置いて唸るオルレイド。


「……」


 ただ、暗部の男は口にはしないものの、オルレイドは写真を見た段階で気づかなければならないことがあった。


 写真のフェルノがカメラ目線であるということと、アリアスがタイミングよく、『蠱惑的なポーズをとっている』ということ。


 エルフィナとシンシアもギリギリで分かっている雰囲気がある。

 それだけ、『全員が実力者』なのだ。


 ついでに言えば、人気のない場所に誘いだそうとあの場で四人が判断したのも、盗撮に気が付いたからだろう。


 それだけの『場数』を踏んでいるということ。それを気付くべきだったのだ。


 虎の尾を踏む前に、竜の逆鱗に触れる前に。


「こうなったら、もう容赦はせん。シンシアは私の物だ。いや、それだけでは済まさん。あの平民も、絶対に始末してやる!そして、アイツが仲間にした新しい女も、私の物だ!グフフフ……」


 ……どうやら、皮算用を始めたようだ。


 こうなってはもう、人の話を聞かない。


「……それからもう一つ」

「ん?」

「我々は、暗部をやめます」

「……な、なに?」

「ご安心を、絶対に暗部であったことは漏らしません」

「そ、そういうことではない。お前たちがいなくなったら、どうするというのだ!」

「我々は全ての作戦で最善を尽くす。初回の作戦で失敗した以上、もう、彼には通用しません」

「だ、だが、他の仕事が……」

「いえ、そうではありません」


 男は続ける。


「我々は、この暗部という仕事に対して、意欲が抜けてしまったようです」

「何?」

「暗部というものは、忠誠心によって動くもの。それがぐらついたことを自覚しています。これは……暗部失格です」

「グッ……また、次のやつを見つける必要があるということか……」


 目下の標的がフェルノである以上、彼に対して最初から通じなかった彼らに対して終着はないオルレイド。


「だが、貴様らがそういうのも珍しいな。次の職は一体何にするというのだ?」

「……男娼で働こうかと」

「気は確かか?」


 これに関してはオルレイドの指摘は正しい。


 彼を含め、さすがに『暗部』から『男娼』に転職するというケースはそうそうないだろう。


「新しい道……いえ、扉を開いてしまったのです。それでは、我々は失礼します」

「お、おい!」


 オルレイドがそう言ったときには、五人が窓から出た後だった。


「……不思議なこともあるのだな」


 呆然とするオルレイドであった。


 ★


「フェルノ様。慣れていた気がするのですが、気のせいですか?」

「アリアスにやったことがあるからな。その時指導されたんだよ……そんな目で見るなって」

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