これからの方針
「暗部に襲撃された?」
宿屋に戻ってアリアスとエルフィナに報告するフェルノ。
フェルノは食事の準備をしながら続けた。
「ああ。多分、シーロカ騎士団の暗部だろうな。団長直属の組織が存在するんだよ」
「聞いたことないわね」
「初代の構想としては、『情報戦』で勝つために作られたんだよ。二年前の『大戦』の影響で騎士団は大きく変わったが、当時は今以上の稼ぎだったからな。情報戦は重要なんだ」
「なるほど、より多くの人間がかかわる以上、より多くの仕事を作る必要がある。他の組織に抜かれないように、自分たちの情報を守り、相手の情報を奪うチームが必要になるのは納得できる話だね」
エルフィナはメモ帳にガリガリ書きながら頷く。
だが、メモ帳をパタンと閉じつつ、『面白い展開になった』といった表情でフェルノを見る。
「で、襲ってきた暗部の人間はどうしたんだい?」
「躾けて放置した」
「躾?」
フェルノが使った表現に疑問符を浮かべるシンシア。
「……なるほど、そういうことね」
「エルフィナが興奮しているのはともかく、放置して問題ないのかい?」
「少なくとも、俺を襲ってきた奴が二度と襲ってくることはないぞ。あの手の連中はちゃんとした『主人』がいないと存在意義を示せないからな。ちょっと『魂』にわからせてやればいい。まあ、面倒を見るのが面倒だったからちょっと誘導を入れたけどな」
「……君が人を躾けた経験が以前にあるということは分かった」
真顔で淡々と語るフェルノに対して、暫定と言える返答をするエルフィナ。
チラッと横に視線を向けると、アリアスが赤い顔をしているので、エルフィナは放置することにした。
話が脱線することは目に見えてるので。
「団長直属か……また襲ってくる可能性はあるのかい?」
「あるだろうなぁ」
「そうか。しかし……これで僕とアリアスも狙われる可能性が出てきたね」
「それはそうね。あの時、私たちを盗撮していた人たちがいたから、きっと次に襲ってくるときは四人まとめてになるかしら?」
真面目な話をしだすとすぐに正常に戻るアリアスである。
「すみません。巻き込んでしまって」
「いや、僕とアリアスは元々、裏の人間から狙われるからね」
「え?」
「私はこんな見た目だから、違法な奴隷商売をしてる裏社会から狙われるわ。エルフィナの『異端学者』だけど、これは自称じゃないわよ?」
「それはどういう……」
「要するに、魔法に関する研究者の中でお偉いさんがつけたということだよ。そして……『主義』や『思想』の話をすれば、『異端』というのは『不都合』と同義だ。もう意味は分かるね?」
エルフィナがシンシアに同意を求めると、シンシアは頷いた。
アリアスが性的な意味で狙われるというのはとても分かりやすい。だって万年誘ってるような女だ。
そしてエルフィナが提唱する『魔力相反構造説』は、魔法を研究しているお偉いさんから睨まれるような説ということだ。
「だから、別に狙われることに対してとやかくいうことはないさ。それに、アリアスはAランクだが、実際はそれ以上の実力を持っている。僕自身がこんな見た目だから、仲間になっておけば、たまに夜の相手をすれば守ってくれる」
眼鏡のブリッジを上げつつ、『ここまで言えばわかるね?』といった様子で溜息をつくエルフィナ。
「そ、そういう関係なんですね……」
シンシアが苦虫を嚙み潰したような顔になった。
気持ちはわかるが、これがエルフィナとアリアスだ。これ以上突っ込むのは野暮である。
「さて、話を団長の対応に戻すが、あんまり面倒なことをしてくるのなら僕としても考えはあるけど……そのために反撃するなら、もうちょっと決定的なものが欲しいな」
「そもそも団長が今回フェルノとシンシアを狙った理由がわからないのよね」
エルフィナの『決定的なもの』という言葉に対して、アリアスが現状を述べる。
「だよな。なんで狙って来たんだろ」
フェルノも唸り始めた。
ただ、ここで解説を入れるならば、フェルノがわからないのも無理はない。
前提として、オルレイドはシンシアを狙ったが、それは情報戦に強い『銀の揺籃』メンバーであるイマジナリーが管轄した『競売』という手段を使った。
もちろん、その競売現場に貴族本人が来るようなことはなく、多くの貴族が『表の関係がない商会』を通して落札した。
このため、現場にいたシンシアであっても、銀の揺籃とオルレイドのつながりは知らない。
競売自体はフェルノによって失敗し、その失敗によってフェルノのもとにシンシアが渡ることとなった。
その状況に対して言いがかりというレベルでは済まない癇癪を起こしたオルレイドによって、フェルノは狙われたのだ。
なお、取引現場が『完全に爆破された』ことで一切の証拠が残っておらず、オルレイドと『銀の揺籃』につながりがあることがわからない。
そしてフェルノとシンシアを襲撃した暗部は、本当に『なぜフェルノを襲撃するのか』という『理由』など知らないのだ。
『倫理観』や『正義』ではなく、『団長からの命令を遂行する』ことが存在意義であるからこそ、暗部は暗部なのである。
ここで結論に入ろう。
フェルノは、シンシアに付随する情報として銀の揺籃しか知らない。そして、銀の揺籃とオルレイドの個人的なつながりに気が付かない限り、『オルレイドの本当の動機』が見えないのだ。
深層にたどり着くのは無理な話である。
「うーん……ただ、正直、『平民だからって追放した男が、アステライトの金剛石を仲間にしてる』って状況をよく思わないことは予想できるんだよ」
「まあ、『ふざけんな』となるのは火を見るよりも明らかだね。プライドが高い貴族ならなおさらだ。確かにそれだけでも、君を襲撃した理由になるし、これからは僕たちも狙われる理由にはなる」
情報が足りていなくても襲撃してくることに納得できる『人間性』がオルレイドには備わっているということだ。
プライドが高くて嫌われるようなことをしていると大体そうなる。
「フフフッ。そういう常識と社会的通念と論理的整合性がない『理不尽』は好きよ?」
「ドMは面倒だな……」
フェルノは苦笑しながらも、全員分の簡易コース(前菜・メインディッシュ・サラダ・デザート)が用意できたので並べた。
コース料理なら順番に出すものだが、ごく普通のパーティーで借りた宿だし、一度に出しても問題はない。
全員がいただきますとそれぞれのタイミングで言いつつ、食べていく。
「ふむふむ、美味いね……さて、これから団長が用意した刺客から襲われるかもしれないが、それはもうこの際、『警戒しよう』としか言えないからね」
「いわく付き物件ですまんな」
「理由はさっきも言ったが、それは構わない。で、このパーティーの目標を聞かせてもらえないかな?僕は君を研究の協力者として見ているが、君がやりたいことを知らないのでね」
「なるほど。そうだな」
確かに、エルフィナとアリアスにはまだ説明していない。
というわけで、アリアスとエルフィナには『プギャー大作戦!』を説明した。
その反応だが……
「主張は分かったけど、酒癖が悪いわね」
「うるせえやい」
否定できないフェルノである。
「ただ、その作戦を実行するとなると、きちんとした『実績』が必要ね。その方が冒険者としてのランクも上がるわ」
「確かにそうだな」
「この町ならわかりやすいのは『地下大迷宮』ですが……」
「ふむ……確か、地下大迷宮には『ボス』が配置されているのではなかったかな?」
エルフィナのいう通り、地下大迷宮の『未踏破』フロアにはボスが存在する。
「……いや、要点はまだそこじゃないね。僕はまだ地下大迷宮について知らない点が多い。基本情報を頼む」
「わかった」
フェルノはエルフィナに説明を始める。
大雑把に言えば、
①:『近道』と『回り道』で各階層が構成されている。
②:各階層にはボスが配置されており、このボスを討伐することで次の階層に進むことができる。ボスは復活せず、ボス討伐の報酬が目的なら早い者勝ち。
③:三十四層と六十七層で難易度が急激に上がるため、一~三十三が『表層』で、三十四~六十六を『中層』とし、それ以降を『深層』として扱っている。
④:このペースで行くと、『深層』の最後は九十九層であり、『ラスト百層にラスボスが用意されているのではないか』と噂されている(アルマテリア王国にはいくつかダンジョンがあるが、百層をラストとするダンジョンしか存在しない)。
⑤:また、十一の倍数の階層のボスは『特別強い』らしく、表層最後の三十三層と中層最後の六十六層は『圧倒的な強さ』だったという記録が残っている。
「……といったところか」
「現在の最前線は?」
「九十五だな。ただ、ここだけはなんかフロアの最後だけじゃなくて、その途中にもボスっぽいのがいて、そいつを突破できなくて悩んでるってところか。ちなみに、今の騎士団だと体力が持たないんで、その地点にたどり着いたことはないよ」
「わかった。それを考慮しつつ、地下大迷宮を攻略する作戦を立てることが重要というわけだね」
偶然なのだろうか。
フェルノたちの目的のために必要なことは、アグロがスピーチで騒いでいたように、『地下大迷宮を攻略すること』に決定した。
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