暗部襲来
ダンジョンと言えど、特に事故が頻繁に起こるものではない。
モンスターを倒して魔石を獲得した後は、そのまま冒険者ギルドに行って換金することになる。
「お待たせしました。換金額はこちらになります!」
小柄な新人っぽい受付嬢にまた遭遇。
お金が入った袋と、換金額が書かれた紙を渡された。
「ええ、わかったわ。それじゃあ、また明日来るからね」
アリアスは受け取ると同時に、受付嬢に顔を近づけて、その唇にキスをした。
「んっ!?……え、ええっ!?」
急に美人のお姉さんからキスされて顔を真っ赤にしている。
ディープなやつではなかったが、それでも慣れていないのだろう。あたふたおろおろしている。
「フフッ」
可愛らしい反応に満足したのか、そんな少女に踵を返して、アリアスは歩いていった。
「……気に入った受付嬢にマーキングするのは相変わらずだな」
「あ、そういう感じ?」
「罪な人ですね」
シンシアの視線が冷たい……。
が、とりあえず追わない理由はないので、三人はアリアスを追いかけた。
全員が集まると、アリアスは報酬が入った袋を揺らす。
「かなりの額になったわね。やっぱり、近道を快適に進めるのは大きいわ」
「確かに、僕はあまりあのダンジョンに潜らないけど、中層とはいえ、結構な金額だ」
「地下大迷宮は、この町を拠点とする冒険者の中でも高ランクの冒険者が挑みますから、魔石の供給が足りていません。良い額になるのもそれが原因でしょうね」
「しかも、俺の地中倉庫があるから、嵩張らないもんな。四等分しても結構な額だ」
しっかり経験を積んでいれば、ダンジョンというのは『狩場』である。
「……さて、パーティーでの活動もうまくいきそうだし、何か豪華なものを食べたいわね。フェルノ。とりあえず何か買ってきてくれる?」
「それは献立を俺に一任するということかな?」
「そういうことよ。シンシアもついていきなさい」
「そう……ですね」
なぜアリアスがフェルノについていけと言ったのかがわかった様子のシンシア。
「それじゃあ、行くか」
「はい」
アリアスとエルフィナと離れて、二人は商店街に向かって歩いていく。
「……思うんだが、やっぱり暇なのかね?」
「私もそう思いますよ」
フェルノが何を言いたいのかわかったようで、頷くシンシア。
人気のない所に向かって歩いていく。
まあ、商店街と言えど、表でなければ活気も人の動きもそうでもないわけで、裏に少し踏み入れると、薄暗いものになる。
すぐに開けた空間に出た。
「……そろそろいいかな。おーい。さっきからつけてるのは分かってるんだ。出てこいよ」
フェルノが周りに向かってそういうと、返答としてナイフが飛んできた。
フェルノの首筋を狙ったもので、どうやら会話の余地はないらしい。
刀を振ってナイフを地面に弾き落した。
そのナイフを見る。
「……うわ、めっちゃ変な色してるな。毒でも塗ってるのかね?」
「会話の余地はありませんね……」
シンシアが水の壁を作る。
すると、そこにナイフが飛んできて壁に衝突した。
「……私の方は急所を外していますね」
「でもこっちも毒が塗られてるな……こりゃダルイなぁ……」
遠距離攻撃手段があるのなら、姿を見せずに遠くから攻撃した方が良いのは間違いない。
しかし、その対応が面倒であることに変わりはない。
「まあ、こういう相手に対する対処法もあるわけだがな」
フェルノは地面をつま先でトントンと叩いた。
次の瞬間、周囲の地面は、フェルノに味方する。
……といっても、どこにいるのかがわかる程度だ。
しかし、普段は広範囲に至るほど地面を作り変え続けて、しかも地中倉庫を動かし続けている。
それらの細かい作業をやめて、『何処に誰がいるのかを見つける』ということに集中すれば、かなり範囲を広く設定できる。
(開けてはいるが、高い建物がほぼない。隠れる場所が多くても、地面に立っていなければならない位置に誘導したんだが……まあ、さすがにそこまでは敵さんも予想しないか)
フェルノは頭の中でごちゃごちゃ考えたが、とりあえず全員補足した。
「五人か……ほいっ!」
さらにつま先でトンっと地面を突く。
「うおっ!」「うわっ!」「なんだっ!?」「うわあああっ!」「ひいいっ!」
五者五様……というほどのバリエーションではないが、驚いたような反応が返ってきた。
「はーい。こっちにいらっしゃーい」
納刀して手をパンパンと叩く。
すると、地面に……いや、地面でと言った方が正確だろうか。縫い付けられた五人の黒装束の男が、その地面ごと水平移動して、フェルノのもとに集まっていく。
「ごっつシュールだな」
「フェルノ様がそれを言いますか……」
シンシアは溜息をついた。
で、全員が集まったので横一列に並べる。
「で、一体誰の命令なのかな?」
「……」
全員黙った。
「まあ、そりゃ黙るわな……でも、実は知ってるんだよ。前の団長の時に、騎士団で『暗部』を作ったって言ってたからな」
「!」
「なんだ。図星かよ。しかし顔ぶれも変わったな……まあ、さすがにあの団長が、自分の意見を聞かない部下を暗部に置くわけないと思ってたし……しかし、一体どういうことなのかね?」
当然だが、フェルノは団長オルレイドと銀の揺籃のつながりなど知らない。
そのため、シンシアがフェルノの隣にいることに対してオルレイドがキレていることもまたわからないのである。
「……まあでも、お前らが来るっていうことは、団長が何か考えてるってことでいいか。あの性格だし、きっとお前らも詳しい事情は知らんだろ」
「そこまでわかるのですか?」
「付き合いはたった二年だが、あの団長のやり方はなんとなくな。とはいえ、まさか暗部を出してくるとは……」
「そこまで重要な部隊なのですか?」
「ああ。だって暗部だからな。実力だけじゃなくて、性格や忠誠心がないとダメだ」
「確かに」
さて、こいつらどうしようか。
「今日はもう帰ってもらっていいか」
「え、衛兵に突き出さないのですか?」
「こいつら、衛兵の牢屋くらいなら抜け出せるよ。でも、また襲ってくるのも面倒だな……」
唸るフェルノ。
「……とりあえず、妖刀の峰でケツをぶっ叩きまくるか」
次回は団長視点になります!
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