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装備を一新!サーベラ骨董品店店主の見繕い

「おお、来たね。フェルノ君。シンシア君」

「装備が用意できたって話だったな。楽しみにしてました」


 ギルドマスターであるトーラスと、『新しい装備を整えるために、ギルドマスターの伝手で優秀な商人に声をかけてみる』ということになっていた。


 フェルノ自身、騎士団時代はいろいろと交渉相手はいたのだが、貴族関係者が満足するようなアイテムとなるとかなり高額であり、今から交渉してどうにかなるようなものではない。


 トーラスとは思ったよりもすぐに話が付いたので『予算』はそこまで多いわけではない。

 まあ、そのあたりはトーラスとも話しておいたので問題はないだろう。


「別室に来てくれ。商人と、提案したい装備を用意しているよ」

「ありがとうございます」


 シンシアが笑顔で礼をする。

 それを見たトーラスは視線がウロウロしたが、こればかりは仕方ないね。


 というわけで、トーラスはフェルノとシンシアを連れて別室に移動する。


「すまないが、私は業務があるので二人で話しておいてくれ」


 トーラスに言われて入った部屋では、六十代半ばの男性が傍に箱を置いて待っていた。


 細い箱が二個と、大きな箱が一個。

 箱の下には車輪がついており、それを押してくるのだろう。年齢もかなり重ねてるし。


「おお、やってきたのう。ワシはサーベラ。『サーベラ骨董品店』の店主をしておる」

「骨董品店?」


 シンシアが首をかしげる。

 骨董品というものがどういうものかはわかっているが、自分たちの装備にどうつながるのかが分からないのだろう。


「ホッホッホ。まあ座りなさい。嬢ちゃんの装備から出してやろう」


 サーベラは細い箱を一個と、大きな箱を出して開けた。

 細い箱には一本のレイピアが入っている。大きな箱には、全身につける装備が一式揃っている。


「おおっ……完全にフル装備だな」

「隣の控室で着替えてきなさい。速く、素早く!」

「下心を隠さない爺さんだな」

「こういうのは素直にやった方が人生楽しいぞ坊主」

「……忘れるまで覚えておくよ」


 適当にサーベラと話している間に、シンシアは装備をもって控室に消えていった。

 若干、あきれ顔になっていたが。


「……覗いてもええかの」

「殺されるぞ。シンシアのファンに」

「多そうじゃな。やめておくわい」


 『アステライトの金剛石』の生着替えシーン。

 確かに魅力的だが、もしも見たとなれば殺される可能性が高いのでやめておいた方がいいだろう。

 フェルノもサーベラも、死にたくはないので。


「着替えましたよ」


 控室からシンシアが戻ってきた。


「おおっ!よく似合っとるぞ。嬢ちゃん」


 サーベラはご満悦のようだ。

 元から綺麗だが、見違えるように、と言えるほどだ。


 上半身はノースリーブシャツに手袋。下半身は、ミニスカートとニーハイソックスとブーツという格好で、水色と白を軸にして全体がまとまっている。

 艶と光沢のある銀髪と、綺麗な白い肌の持ち主であるシンシアが着用すると、とても美しい。


 腰にはレイピアを装備しており、背筋がしっかり伸びて、何よりその隙のない格好はとても良い。


「普通のシャツのように見えて、かなり頑丈ですね」

「『深淵蜘蛛』と呼ばれるモンスターの糸を編み込んで作った物らしいのう。トーラスの小僧から聞いた情報をもとに選んだものじゃが……『頑丈』か。いいことじゃ」

「?」

「『深淵蜘蛛』の糸で装備を作ると、確かに高い性能があるんだが、体内の魔力の高い制御能力を求められるんだ」


 フェルノは内心で、『条件としてそうなるって感じで、構造を説明するとものすごく長くなるから割愛するけど』と思いつつ、シンシアの姿を見る。


「言い換えれば『上級者向け』じゃな。魔力制御に特化したAランク冒険者くらいの技量は求められるかのう」

「水属性魔法の性能強化も効果としてあるから、まあ、シンシアにピッタリだな。てか、生息地域が三つくらい隣の国なんだが……遠路はるばるようこそとしか言えんなこれ」

「ありがとうございます」

「ええんじゃええんじゃ。こんなかわいい嬢ちゃんを見れてうれしいわい。さてと……」


 サーベラはフェルノを見る。

 ただ、それはシンシアに向けていた『下心』が全く見えない真剣なものだ。


「次はおぬしじゃな。新しい刀を求めているそうじゃな」

「ああ」

「ついでに、地属性魔法に関しても高い能力があると聞いた。そんなおぬしに選ぶのは、これじゃ」


 残った細い箱を取り出すサーベラ。

 テーブルの上に置いた箱を開けると、そこには一本の刀があった。


「業物……だが、なんだこれは……」

「こいつの名は『妖刀・岩桜刃(がんおうじん)』という」

「妖刀ねぇ……」


 相当な『じゃじゃ馬』ということだ。


「こいつの刀身は、『岩窟飛竜』というドラゴンから作成されておる。帝国の東の山脈にいたドラゴンでのう。本来は飛竜……空を飛ぶドラゴンなんじゃが、とある『秘宝』に手を出したことで、浸食されて、全身が岩に変質したとされておる」

「その秘宝から作られてるってことか?」


 だとすると、相当厄介な代物だ。


「さよう。特別な鞘に入れておる内は問題ないが、一ミリでも抜けば呪いが発動して、まず柄を握る手を侵食して岩に変えていく。手放すのが遅れれば、手のすべてが岩となって放すことができなくなり、腕を切り落とすのが遅れれば、全身が岩となる。全身が岩となった後も蠢き、最後に物言わぬ姿となったそれが桜に例えられることから、この名がついておる」


 曰く付きにも程がある。


「……なるほど、地属性魔法を得意とする俺なら、制御できるんじゃないかってことか」

「試してみるか?一応、予備の刀も用意しておる。ただ、刀としての性能は保証しよう」

「……」


 賭けではある。

 その賭けに乗る大前提として、フェルノはサーベラに聞いた。


「重要な確認だ」

「ん?」

「この刀が『妖刀』であるということを決めたのは誰だ?」

「鑑定魔法を使えるものがおこなったそうじゃ、文献を調べてみる限り、切れ味に関しては高いレベルを持つこの刀を制御しようと、古い時代の帝国は躍起になったそうじゃからな」

「なるほど。『妖刀』であることは紛れもないってことか」


 それを聞くと、フェルノは刀の鞘をつかんだ。


「フェルノ様……」

「大丈夫大丈夫。最悪、手放せば問題ない」


 フェルノはソファから立ち上がると少し離れて、右手で柄を握ると少しずつ抜いていく。


「!」


 刀の鍔から何かがバチバチと放電して、フェルノの手に当たる。


「ぐっ……もう手のひらは岩になってんぞこれ!」

「えっ!?」

「この……ちっ、なかなかしぶとい!」


 地属性魔法をフル解放して、バチバチとせめぎあうフェルノと妖刀。

 ついにフェルノは刀身をすべて抜き放つと、右手首を左手でしっかり握って、制御を集中させる。


 長年使われていないはずだが、かなり研がれているかのように切れ味は高そうだ。

 妖刀の刀身には何かを流し込めそうなほど溝のようなものが根元から切っ先まで入っている。


 ただ、それを除けば、とてもきれいな刀身だ。


(使用者を岩にするのがデメリットではなく、妖刀による呪いだとするならば、屈服させることで解除できるはずだ!)


 制御を次々と行っていく。

 バチバチと鍔の放電も大きくなる。


「ぐっ……なかなか硬派(こうは)な奴だな。さすがに地属性魔法がうまいからって、簡単に軟派(ナンパ)に引っかかってくれないぞこれ」

「がんばれ小僧!もう少しじゃ!」

「え、そうなのですか?」

「いや、勘じゃよ」

「黙ってろジジイ」


 外野の爺さんがうるさいので黙らせる。

 屈服の手ごたえがまだ見えないのだ。そして、放電はまだまだ大きくなっていく。


「チイッ……このっ……いい加減にしろ!」


 室内だからと遠慮していたが、マグマ属性を解放するフェルノ。

 グツグツと煮えたぎるマグマの色をした放電が妖刀のそれを完全に押しつぶして、流し込む。

 次の瞬間、根元から切っ先にかけて入っている溝に、マグマが流れた。


 刀からグツグツと煮えたぎる音と匂いがして一瞬蒸せそうになるが、フェルノはこらえて、最後に一思いに流し込んだ。


「おらっ!」


 溝に流れるマグマが膨張し、刀身がジュウウウウゥゥゥゥ……と湯気を出す。

 だが、刀身には何も傷がない。

 いろいろな意味で『焼き入れた』フェルノ。


 マグマが引いていくが、もう、鍔からの放電はない。


「……どうじゃ?」

「どうやら、おとなしくなってくれたらしい」


 鞘を拾い上げて納めるフェルノ。

 そのあとで少しだけ抜いてみたが、鍔からの放電はなかった。


「ふう」

「ちょっと触ってみてもいいかのう?」

「……やめておいたほうがいいと思うぞ」

「ちょっとだけじゃ。呪いが解除されたかもしれんじゃろう?」

「なら、ちょっとだけだぞ。本当にちょっとだけだ」


 鞘をつかんだ左手の長指で、少しだけ鍔を押して抜く。

 サーベラはそーっと柄に指を近づけて……。


 バチッ!


「ぬおおおおおおお!」

「おおおお予想通り!」

「だったら言わんかい!」

「言っても触るだろジジイ!」


 なんだこの会話。


「……要するに、フェルノ様一筋ということですね」

「まあ、使うに値するものすべてに味方する可能性はあるが、この難易度を考えると確かに小僧一筋じゃのう……」


 サーベラは指先をこすりながらシンシアに同意する。


「……まあ、刀身を見る限り、確かに相当な業物だ。ありがたく買わせてもらうよ」

「まいどあり」


 サーベラは懐から請求書を取り出した。

 それを見たフェルノは、ざっと見てうなずく。


「……ずいぶん安いな。いいのか?」

「ホッホッホ!サーベラ骨董品店は、『使い勝手が悪いが、本人に適合すればいつまでも使える物』をそろえておる店じゃ。嬢ちゃんの深淵蜘蛛の装備一式と小僧の妖刀。両方足しても、本来は二束三文で売られているようなものじゃから請求額に及ばんよ」

「よくそんなものを持ってきたな」

「まあ、妖刀に関しては知らずに抜いたらひどいことになるから管理責任が要求されるが、それでも安いのでな。ほとんどはワシがお主らの特性に見合った装備を選んだ手間賃くらいのもんじゃよ」

「なるほど、仕入金額と比べれば十分元は取れているということですね」

「道楽みたいな商売してんな……」


 フェルノは小銭入れを出して請求額を払った。


「毎度あり……あ、最後に一つええかの?」

「ん?」


 ゴソゴソと何かを探った後、右手に手袋をはめるサーベラ。


「嬢ちゃん、ぎゅううううっと力いっぱい握手してくれんかの?」

「何考えてんだジジイ!」

「握手した手であっても洗わないわけにはいかんからな!こっちのほうが永遠に手袋をとっておけるじゃろうが!」

「気持ちの悪いこと言ってんじゃねえ!」


 ギャーギャー言い合う十八歳と六十三歳。

 シンシアはあきれつつ、サーベラの手を取ってぎゅっと握った。


「おおっ!ありがとう嬢ちゃん!」

「優秀な装備を見繕っていただいたことに違いはありませんからね。これくらいなら」


 そういってとてもいい笑顔になるシンシア。

 まあ、シンシアも手袋をしているので、お互いに手袋越しの握手という及第点なんだかマナーがなってないんだかよくわからないものになっているが、突っ込んだら戦争が起こりそうなのでやめておこう。


 そのとてもいい笑顔を見て感動している様子のサーベラ。

 多分あと二十年は元気だろう。多分ね。


「フフフ……今日は本当に得をしたわい」

「……いつか、店にも寄らせてもらうよ。面白いものを置いてそうだし」

「ワシもいくつか見繕って待っておるよ。これからダンジョンか?」

「ああ。試したいし、トーラスとの約束もあるから、さっさと冒険者ランクを上げたい」

「そうか。なら、ワシはそろそろ帰るとするか」


 そう言って、サーベラは台車を押しながら出入り口に向かって歩く。


「あ、そうじゃ。言い忘れとった。ワシの店の宣伝は不要じゃぞ。骨董品が趣味の道楽ジジイの店じゃからな。茶菓子ならおいておるから、いつでも遊びに来なさい」

「ああ。そうするよ」

「また会いましょうね」


 サーベラは満足そうにうなずくと、部屋を出て行った。


「……シンシア。どう思う?あの爺さんのこと」

「そうですね。何と言いますか……とても『正直』な方だと思いますよ」

「だろうなぁ……」


 正直だが、それでいてこっちにタメ口を効かせるような馬鹿さも見せつつ、余裕があるところや落ち着いている部分も見せてきた。


 そして最終的には、フェルノやシンシアを利用できる範囲の中で、自分が一番得するように動いている。


 単に子供ではなくなった『大人』ではなく、その上でちゃんと『年を取った』という経験値。


 こればかりは、貴族であふれていた権謀術数のような騎士団で過ごしたフェルノにはないものだ。

 シンシアも同様だろう。


(加えて、トーラスから聞いた情報でしか、俺たちのことを判断していないはず。そのうえで、こんな装備を持ってくるとは……思ったより、すごい人だ)


 実力のある年寄りというのは、本当に馬鹿にできない。

 いつの時代も、それは変わらないものである。

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