84話 準決勝
今日は試合数が少ないため適度に休憩が挟まれている。
俺とエルさん、ナティさんはVIPルームで過ごしていた。次に対戦するのだがここら辺は気にしていない。
そこにルーリが戻ってきた。
「お疲れ様、大丈夫かい?」
「ええ、体は何ともないわ。頭の方は何も覚えてないんだけどね」
「それは元々だから大丈夫だよ」
「なにそれっ!ムカつくんですけど」
そう言って頬を膨らますルーリ。うん、大丈夫そうだ。
「ルーリちゃんお疲れさまね。いい試合だったわ」
「ありがとうナティさん」
「お嬢ちゃんもまだまだだな」
「もう、自分が一番分かってるってば!」
そう言って俺達の座るそばに来て腰掛ける。
「ユウ、ごめん。負けちゃった……」
「ああ、そうだな」
「見てた?」
「ああ、全部見てたぞ」
「……そう」
「悔しいだろ?」
「――!!……うん」
そう答えるとルーリの目からポロポロと涙が零れた。
悔しいと思えるならまだ大丈夫だ。ここでもう勝てないやら投げ出すようなら見込みはない。楽しく遊んでいた方が自分のためだ。
「だったら次は笑って終われるようにしよう」
「……うん。うん」
怒りにまかせて全力を出す前に意識を失った。そんな自分にも腹立たしかったのだろう。溢れ出る涙を抑えられずにいた。
そんなルーリを抱き寄せ頭をなでる。
だが今のルーリは魔族なので俺より10cmほど身長が高い。何だか不恰好になってしまったが気持ちの問題だ。
泣き止んだルーリをナティさんに任せて、俺達は部屋を出ていく。
「ルーリ、ちゃんと見ておけよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでは皆様準備の方はよろしいですか~!」
「準決勝第1試合を始めたいと思いまーす!まずはまだまだ底を見せていない王者・天狗仮面選手ー!」
「対しますは、その王者に一度だけ敗戦を喫しリベンジに燃える師匠・ベイダー選手!」
ここまで残った者の戦いとなれば場内は大興奮となるのは必定。
「――それでは始め!!」
大歓声に掻き消されるように開始のアナウンスがされた。
天狗は相変わらずの仁王立ち。俺は剣を抜き自然体で構える。
自分の呼吸がやけに聞こえる……。緊張か、楽しみなのか。それともこれは恐怖か……。
天狗が大きく見える。
いや、これは俺が勝手に大きく見ているだけだ。相手に呑まれているだけだ。
絶対に負けられない戦いというものが想像以上に重圧として圧し掛かっていたようだ。それだけ勝ちたいってことの裏返しなのだろうが。
呼吸を整える、落ち着け。呼吸が深くなるとともに歓声が聞こえなくなっていく。
「――推して参る」
まずは間合いを詰める。ただ詰めただけでは簡単に対応される。
AGIだけなら同じくらいの俺達。
その俺のフェイントに引っ掛からずとも反応してしまった天狗。
その一瞬の遅れを見逃さず喉元へと突きを放つ。間一髪皮一枚切れただけでかわされる。
だがまだ体制は崩れたままだ。そこへ追撃をさせてもらおう。
と、次の瞬間、天狗仮面が躱した体勢からバク宙し蹴りを放ってきた。いわゆるムーンサルトキックだ。
これを今度はこちらが間一髪でガードする。そしてお互いに着地し体勢を整える。
今度は互いに距離を詰め、パンチと刺突が交差し互いの顔をめがけての攻撃をする。さすがに腕と剣では剣に間合いの利がある。が、当たらなければ何の意味もない。
刺突を避けられ拳が顔面に迫る。それを左にダッキングし左のフックを脇腹に叩き込む。
「ぐぉっ!」
くの字に体を折り曲げた天狗。効いたようだ。
刀だけの戦いではまだ俺に勝ち筋が見えなかった、そこで体術も織り交ぜての戦闘も練習してきた。警察剣道の足払いの延長と思えばそう難しことではなかった。
それに加え、強靭なエルさんの筋肉にいくら打撃を打ち込もうとダメージは僅かだろうと思い発勁を死に物狂いで習得。
おかげで外部からではなく内部へのダメージを与えることに成功した。
その成果が目の前の天狗である。
「おいおい、なんだ今の攻撃は」
「終わったら教えてあげるよ」
「絶対だ――ぞっ!」
立ち直り際での下段回し蹴り、バックステップしてやり過ごす。
「豪快な空振りですねぇ」
ニヤニヤと煽ってやった。
「今のはイメージトレーニングだ」
負けじと口撃する天狗。
「イメージトレーニングなら仕方ないですね。掴めました?」
さらに煽っていくスタイル。
そんなやり取りの間に一旦息を整え、再度接近戦を開始。
襲いかかる拳を寸前でかわし、伸びきった腕めがけて刀を振るう。刀より先に脇腹へ衝撃が走る。左フックくらってしまったようだ……。
エルさんの高STRは発勁なんて関係なく内部まで響いてくる。クソチートだろ、まったく。すかさず回復魔法で内臓を治す。
足元から懐に潜り込もうとすると左の前蹴りが来る。
それをまたダッキングし下段からの斬り上げをかます。左の太股に大きな裂傷を負わせることに成功。
続けざまにそのまま地面に手をつき後ろ回し蹴りで足を刈り取る。だが片足立ちの天狗の足を刈り取れなかった。根が張っているかのごとくビクともしない。
そのまま振り上げた左足でスタンプがくる。何とか転がり回避する。
体勢を立て直す頃にはせっかく付けた裂傷もヒールによって回復されていた。
やはり一撃必殺しかないんだよなぁ。
俺にその一撃が出せるかと言うと、いくつか方法はある。
刀による心臓や喉への刺突、頭への攻撃。発勁による心臓、頭部への攻撃。
それに対しエルさんにも前回一撃で殺された技があるはず。結局どういった技なのか教えてもらえてないのだがな。
エルさんから仕掛けが入る。左右の豪快なワンツー。
これも寸前でかわすことに成功。そのまま潜り込んだ懐に拳を叩きこむ。
「ぐふ!!」
――エルさんが片膝をつく。初めて見る光景だ。
そのまま追撃と距離を詰めた所で、止まる。エルさんの呼吸、闘気に凄まじい気配を感じたからだ。
「いってぇな……。しかしよく止まったな」
「ああ。やばい気配がしたんでな」
「もう少し近寄ってたら楽になれたのにな」
やはり何か仕掛けようとしていたようだ。多分前回殺された技だろう。
しかしこのままでは埒が明かないのも事実。
イチかバチか、やるしかないか……。
構えを解き直立、いわば棒立ちの状態になる。
「おい、どうした。降参か?」
「いや、これで終わらせる」
「こっちのセリフだ!」
エルさんが詰めてくる。間合いに入った直後であった。
――無拍子。
突き出されたその剣先はエルさんの喉元に吸い込まれていく。
無拍子。
技を出す瞬間のタイミングとリズムを消し、動作に気配なく唐突に動く感じにすると相手は不意をつかれたように戸惑う。
生前とある師範に一番くらった技であり、一番習得が難しかった技であった。いや、未だ習得できたと言っていいのか曖昧である。
エルさんの振り上げた拳が次第に力なく振り下ろされる。直後にエルさん…天狗仮面が転送された。
直後膝をつく俺。
「勝者!!ベイダー選手!!」
勝った……。勝てた。
この無拍子は本当に賭けだった。
出来るかどうかの賭け、そして倒せるかどうかの賭け。倒せなかった場合は俺の負けであった。この技は全身の脱力からの攻撃で体への負担がでかすぎるのだ。
すぐさま回復をかければいいのだが、エルさん相手にその一瞬は命取りになる。師範ほどの使い手になれればそこまでの負担ではないらしいが、その違いがまだ習得できていないと思う所以であった。
最後の一撃で軋んだ体に回復をかけ、控室へと戻る。
そしてそのままVIPへと転移した。
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