IMMORTALS 01
壮麗な鐘の音がマグナグランディア全土に響き渡った。
誰しもがマグナスキル獲得者への祝福の声を上げようとしていた。
ズドン!轟音を伴った地面から突き上げるような衝撃が起こると、小刻みな横揺れが次第に大きくなりながら続いた。家の中にある家具やインテリアが床の上を滑るように左右に移動していた。
「地震なり!」
リナの声に合わせて広人は三人娘と一緒に仮想世界の自宅から外へ出た。
周りを見ると突然の出来事に同じく驚いたプレイヤー達が次々と飛び出していた。
「仮想世界に地震なんてあるの?」
揺れが続く中、薫は倒れないように両足を踏ん張りながら疑問を口にした。
「有り得ないことではないけれど」
カナは答えた。
揺れは数分間続き、周りにいた誰もが不安と恐怖に怯えた表情を露わにしていた。
「空が大変なり!」
リナが上空を指差しながら叫んだ。
黒雲が濁流のように中央都市上空で渦巻きながら次第にその厚みを増し、所々で電流のような稲妻が走った。
「何が起こるの?」
薫は広人の傍に近寄ると彼の手を掴み青ざめた顔で声を上げた。
「わからない」
空を見上げたまま広人は彼女にそう答えた。
陽の光が遮られ瞬く間に辺りは薄暗くなった。
『遥か昔…ひとつの世界の覇権を巡り二人の神が戦いを始めた』
いつもとは異なるアナウンスが静かに流れ始め、上空の黒雲には戦いを繰り広げる二人の巨人の姿が映し出された。
巨人たちはお互いの攻撃を避けることなくただひたすら己の武器を振り回し、相手の体に斬撃を加え獅子にも似た咆哮上げては、どちらも怯むことなく剣技を繰り出し続けていた。広人達はその様子を言葉を失ったまま呆然と見ていた。
片方の巨人の武器が弾かれると、その胸には相手の巨人が握る剣が深々と食い込んでいった。膝を落とし前に倒れ伏した巨人の体から引き抜いた剣を高々と掲げた巨人は勝利の雄叫びを上げた。
『敗れた神は迷宮の奥深くへ封じられ悠久の眠りについた。彼を慕う者達はその復活の時を信じ、世界各地に身を潜めた…』
勝利した巨人は空高く舞い上がり、下界の様子が一望できる高さで止まると自分の頭髪をひと握り掴み、手にした剣で切り落とした。握り締めた左手を肩の高さまで持ち上げてから手を開き、頭髪を風に乗せて地上へと飛ばしていた。
『勝利した神もまた戦いにより深手を負った。彼は世界を守る聖なる力をそこに住まう人々に分け与えた後、傷ついた体を癒すため敗れた神と同じように深い眠りに就いた』
映像が切り替わると漆黒の回廊を進む黒衣で身を包んだ人物の姿が映し出された。やがて十数メートルはあろうかという大きな扉の前に立ち止り、静かに祈りを捧げ始めた。その人物の手には黒い十字架のようなものが握られていた。
『数千年の時を経た今、再び大きな戦いが幕を開ける…神の力を継ぎし者達よ地下へ向かい世界を混乱へと導かんとする負の意思を排除せよ』
映像が途切れると黒雲の中心に大きな穴が空き、一筋の閃光が地に落ちた。落雷に似た轟音が響き渡ると再び世界は大きく揺れた。
数秒後、空を覆っていた黒雲は締め切ったカーテンを開けるが如き速さで消滅した。
唐突な出来事に誰もが混乱しているのかしばらくの間静寂が続いた。
「過剰な演出はどうかと思うのです」
声のする方向を広人達が向くと、萌木と植野そして広人の妹亜紀がこちらを目指して歩いていた。
「アップデートの開放の仕方が当たり前すぎるという意見には同意できるのですが、告知無しで行うとなるとプレイヤーに余計な不安を与えるどころか精神面に悪影響を及ぼしかねないのです」
両耳をぴくぴく動かしながら萌木は淡々と語った。
「アップデート?」
広人と三人娘は驚きと事実を知った衝撃により呆れた口調で声を揃えた。
「はた迷惑この上なし!」
リナは両手を上下に振りながら行き場のない憤りを露わにしていた。
『中央都市アデルに地下迷宮エリアの入場口が実装されました。…その他の内容については公式ウェブでご確認をお願い致します。繰り返します…』
周囲からは不満を漏らす叫び声や怒号が一斉に溢れ返っていた。
「ログインまでの時間が最近長かったのはこのせいか」
ぽんと手を叩いてカナは言った。ここ一週間ほどログインにかかる時間が増えていたのは、アップデート用のファイルデータを読み込んでいた事によるものだった。
「こういうのイヤだ…」
薫はぺたりと座り込むと力のない声でそう言った。
「さて皆さん。マグナスキルオンラインの真の始まりはこれからなのです。ということで今から地下迷宮ツアーに行こうと思うのです」
ある疑問を抱いた広人は萌木に質問してみた。
「パーティーって六人までですよね?」
ぱたぱたと動かしていたシッポをぴんと立てながら萌木は答えた。
「アップデートでパーティーの最大人数が一人増えたのですよ」
「それって何の意味があるんですか?今更一人増えてもって感じですけど」
萌木の隣にいた亜紀はそう聞き返した。
「六人では攻略はおろか進むことさえ不可能なのですよ」
「難度が高めということか」
カナの言葉に頷いた萌木は広人と三人娘をパーティーに加えた。植野と亜紀は既にパーティーに加わっていた。難度が高めという言葉に反応した薫は、広人の方をちらりと見やり不満気な表情を露わにしていた。広人は現実世界の時間が気になりメニュー画面を開いて時刻を確認した。
「地下迷宮って攻略にどれくらいの時間がかかるんですか?」
時刻は午後10時を過ぎたばかりだった。
「ちなみに地下迷宮はダンジョンではないのです。広さは現在の世界全体とほぼ同じくらいになるのですよ。とりあえず今日は最初の拠点都市を目指すのです。一時間もあれば辿り着けるのです」
…マズイ…。
新規エリアの実装を待ち望んでいた広人であったが、このタイミングでの実装は素直に喜ぶことが出来なかった。夏休みに向けてやるべき事が増えていたからだ。それは広人のみならず三人娘も同様だった。
「忙しい中でもしっかり遊んじゃうためにヨーコさんがガイドを努めちゃうのです」
自信を誇示するかのように萌木は両手を腰に当て胸を張った。
カナは広人の隣に立つと彼の耳元で囁いた。
「何かある」




