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AZURE EYES CAROL 03

 言われるまま瞬間移動を行った薫は深い後悔に襲われた。一緒に戦っていれば何とかなったのではないか、これでは自分を巻き込んだプレイヤーと同じではないかと彼を置き去りにしたことについて罪悪感に苛まれた。

 急いでキャラクター検索ウィンドウを開き「お受験ウサギ」を探してみた。

 レベル10~20台で検索をかけてみるがその名前が見当たらなかった。さらにエリア条件を追加して再検索を行ってみるが名前は出てこなかった。高レベルプレイヤーの可能性もあったため、適性レベルからカンストレベルまで細かく区切って調べてみたが発見するに至らなかった。せめてお礼くらいは言っておきたかったのだが、直接会話する以外に相手に自分の意志を伝える方法を薫はまだ知らなかった。

 逆だった黒髪に黒のロングコートの後ろ姿。その後の彼の姿を探してゲベルエリアの拠点都市に向かったもののそれらしきプレイヤーはどこにもいなかった。

…気分を悪くしてログアウトしちゃったのかな…。

 午後11時。

 マグナからログアウトした薫はベットから起き上がるとカナの部屋に行きドアを叩いた。

「どうしたの?」

 青ざめた顔をした薫を見てカナは不思議そうに聞いてきた。テーブルの上には衣装のデザイン画が数枚置かれ、そのうちの一枚を見ながらカナはベッドに腰掛けていた。

「わたしどうすればいいかな?」

 思いつめた様子の薫のそばに立つと、カナは彼女の手を引いてリビングへと向かった。

「ナポリタン美味しかったよ」

 カナはそう言いながら冷蔵庫のドアを開けて、プリンを二つ手にするとソファに腰掛けた。反対側のソファに座った薫は、カナから受け取ったプリンを手にしたまま事の経緯を話し始めた。

「まあ色んな人がいるわけだし…おそらくその人はきゃろるの事を恨んだりしてないと思う」

「そうかな?…本当にそう思う?」

 カナは薫が手にしていたプリンの蓋を開けるとスプーンを差し、食べるように促した。

「仮にやられたとしても本当に死んでしまう訳じゃないし、デスペナルティもそのレベルだとして大した負担にはならないから」

 ゲーム経験の長いカナの意見は正しかったが、初心者の薫には簡単に理解できなかった。仮想と現実という世界の違いはあるにせよ、そこに存在するのは人間である。

「ゲーム内メールの仕方教えとく」

 カナは自室に行きノートPCを手にリビングに戻ると、マグナスキルオンラインの公式ページを開いた。

「明日そのキャラ宛にメールを送ってみればいい」

 他に思いつくような手段がなかったため、薫は素直にカナの説明を聞いていた。

 薫が深刻な顔をしていたので、自分がログインするようになるまでマグナを控えたほうがいいのではないかとカナは提案したが、薫はなるべく早く連絡を取りたいからと答えた。好意で自分の窮地を救ってくれた相手だからこそその気持ちが強かった。

 自室に戻った薫はベッドに横になると、枕を抱え再び「お受験ウサギ」の事を考えた。

…よく考えるとヘンな名前…。

 あまりにも風変わりな名前から中身がどういう人なのか想像出来なかったが、「受験」という文字から自分と同じ高校生のような気がしていた。「ウサギ」とはほど遠い外見からはその名前に見合う可愛らしさなど欠片もなかった。

 自分の机の上にあるウサギの目覚まし時計を見て、薫はあるイギリスの児童小説を思い出した。

 不思議の国のアリス。

 主人公のアリスを異世界へと導いたウサギのことが思い浮かんだ。大きな時計を片手に時間ばかりを気にしている奇妙なウサギ。

…明日は少し早めにあの場所にいけば会えるかもしれない。

 目を閉じるとほどなく薫は眠りについた。

 

 日曜午前7時。

 強い日差しのおかげで目を覚ました薫は、キッチンに向かうと冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出しグラスに注いだ。

「おはよ!」

 ソファにジャージ姿のリナが座っていて、テレビのニュースを見ていた。

「今日撮影あったっけ?」

 薫がそう聞くとリナは首を横に振った。

 テレビのニュースではVRMMOのことが紹介されていた。DORSの登場により世界的な波及に拍車がかかり、新たに参入するゲームメーカーの動向や増加を続けるユーザーのことなどが触れられていた。

「マグナって面白い?」

「始めたばかりだからまだわかんない」

「ほほう!」

 リナは曲の振り付けについてプロの師匠から指導を受けていたため、最近は学校が終わるとすぐに練習場に向かうことが多く、マグナではアカウントを作っただけでログインはしていなかった。

「来週辺りから踊りの練習しよう!」

 薫は直接リナから振り付けを教えてもらっていたため、練習場を訪れる機会が少なくなっていた。曲のレコーディングなどの仕事があったからである。

「マグナにはいつから来れそう?」

 う~んとリナは言ったあと、再来週あたりかなと答えた。リナにも昨夜のことを話そうかと思ったが、余計な心配をかけるのも気が引けたので、あえて薫はその話題に触れることはなかった。

「おはよう」

 寝不足気味といった感じのカナは、大きな欠伸を一つするとリナの隣に腰掛けた。

「何時に寝たの?」

 薫が聞くとカナは3時と答えた。

「エロゲーでもやってたのか!」

 カナはリナの頭にグーを食らわすと、リナが飲んでいたオレンジジュースのペットボトルを飲み干した。あ~っと声を上げリナは顔をふくらませた。

「三人だとPVのイメージがなかなか広がらなくなってきた」

 映像の編集処理作業だけでは、特色あるPVが作れないとカナは言っていた。様々な手法が数多くのアーティスト達にやり尽くされていることもあり、曲の良さだけで売り込んでいく事には限界があるという風な事をカナは漏らした。

「別に急がないけど、いずれはどうにかしないとね」

「そんなことおシノさんも言ってた!」

「新しいメンバーを探すってこと?」

 カナは頷いたが今更そう考えても、といった感じでため息をついた。

 薫のみならずリナとカナも人見知りが強く、知り合いには大胆な発言をしたり行動を起こすこともあったが、それ以外の人々については必要以上に距離を置いていた。長い付き合いから三人はお互いの意思疎通が良く、話し合いをせずとも自然に役割分担を決めることが出来た。これまでの仕事は難なくこなしていたものの逆にその事が彼女達と他人との接点を狭める結果となっていた。自分達の閉じこもっている殻を破り、新たな方向へと誘ってくれるような人物を必要としていたが、お互いを高め合いながら成長してくれそうな人間などそう簡単に見つかるものではなかった。彼女達とその人物の間に信頼関係が成りうるだろうかという心配もあった。

「イケメンでも探すか!」

 リナが冗談めいた口調でそう言うと、カナはテーブルにあったリナのベーグルを取り立ち上がった。

「顔より中身」

 そう言ってカナは自室へと戻っていった。

「中身なんて見えないじゃん!」

 自分のベーグルがなくなったことに気づいたリナは、空になった皿をしばらく不思議そうに見ていたが

キッチンに向かうと冷蔵庫を開け物色を始めた。 

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