CAROLIANS 07
「皆さんこんばんわ!」
リビングのドアを開け三人娘が中へと入ってきた。
「OH MY GOD!」
「UNBELIEVABLE!」
彼女達を見るなり大声で叫んだ「CAROLIANS」のメンバー二人が、驚きと興奮の頂点に達し現実世界からログアウトした。他のメンバーは後ろに飛び退いたり腰を抜かしてその場に座り込んだりしていた。
…興奮して気絶する人なんて初めて見た。
三人娘は彼らに構うことなくカメラの前に立ち、テーマソングに合わせて踊っていた。
広人は薫の前にマイクスタンドを置き、気絶した「CAROLIANS」メンバーの両足を掴むとカメラに映らない場所へと引きずった。
「ナイトメアリップ!」
テーマソングが終わると薫が叫んだ。
辛うじて現実世界に留まっていた「CAROLIANS」のメンバーに次々と広人は声をかけた。
「Move!Move!」
広人の声で我に返ったメンバー達は、三人娘の後ろに並ぶと彼女達に合わせて踊りだした。「るりきゃろ」の後ろ姿を見ながら、落ち着き無く瞬きをしたり首を横に振りながらもメンバー達は踊り続けた。
現実世界へ再ログインを果たした「CAROLIANS」メンバーの背中を広人は叩くと踊りに参加するように促した。その後広人は画面に三人娘と「CAROLIANS」が収まるようカメラの位置を調整した。
ノートPCのライブ配信画面では、コメント欄に凄まじい勢いで次々と新しいメッセージが書き込まれアクセス数の計数カウンターが増加のスピードに追いつかずラグが発生していた。
「NEXT、オトメイル!」
カナが薫の後ろに回りゴシック調のドレスを彼女から外すと、その下からピンクを基調とした新たなドレスが現れた。その後リナカナも黒いメイド服を脱ぎ捨て、ピンク色のワンピース姿になった。広人は彼女達から衣装を受け取るとソファに置いた。騒ぎに乗じてリビングの中に入っていた咲岡は、カメラを操作する広人の横で手にしていたバイオリンを傍らに置き、ノートPCを見ながら小さくガッツポーズをしていた。
「CAROLIANS」の男性メンバー二人は「オトメイル」の曲が始まると、部屋の隅に行き急いで着替え始めた。「るりきゃろ」のコスチュームに似せたピンクのドレスを着こむと魔法少女アニメ系ヒロインのお面をかぶり、タイミングを狙い三人娘の後ろに立つとリズムに合わせてブレイクダンスを踊り始めた。
「あははははは」
咲岡は思わず声を上げて笑い出した。
「面白い!」
そう言うと広人の背中を勢いよく叩いた。その痛さに広人は思わず「ぎゃっ」と悲鳴を上げた。
曲が終わると「CAROLIANS」のメンバーは広人と咲岡の後ろへ移動し、顔面蒼白状態の裕香が混乱した様子で薫にインタビューを始めた。かなり動揺しているらしく裕香が英語で話し出したため、広人はカメラの下にあった白い紙を手にすると、裕香の言葉をそれに書き込み薫に見せた。咲岡はノートPCに向かい薫の言葉を英語に翻訳しコメント欄に書き込んでいた。
インタビューは視聴者達から寄せられたのコメントからいくつかをピックアップして、その質問に薫が答えるという方向で進められた。プライベートなことから日本で流行しているファッションやアニメのことなどが話題となった。
配信時間が残り四分を切ると、薫は8月にヨーロッパでライブツアーを行う予定について触れ、「CAROLIANS」とライブ配信を見ている人達への感謝の気持ちを込めてと言い、新曲「アルエトロン」を歌う旨を告げた。
「映像が途中で切れちゃったらごめんなさい。それでは皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。今日はありがとうございました」
広人はCDを交換し再生ボタンを押すと、バイオリンを手に取り三人娘の後ろに立った。
曲が流れ始めると「CAROLIANS」はソファに腰掛け、三人娘と広人の姿を無言のまま見つめていた。 異国の文化に憧れ母国を離れた彼らの目に三人娘はどう映っているのだろう。広人はバイオリンを奏でながら考えていた。広人の場合は三人娘との出会いに憧れというものはなく、本人達が偶然アイドルであったに過ぎなかった。驚きはあったもののマグナでの交流もあったせいか正直あまり感動はしていなかった。だが彼らの場合「るりきゃろ」は自分達の人生の象徴とも言えるものである。無論本人に出会うことなど叶わぬ夢のひとつとして予想だにしなかっただろう。
配信時間が終わり曲の途中で映像が切れたが、歌そのものは最後まで続けられた。
「急にお邪魔してすみませんでした、ありがとうございました」
三人娘と広人は「CAROLIANS」に向け頭を下げた。
「広人さん」
裕香は立ち上がると「CAROLIANS」のメンバーと一緒に広人に礼を述べた。
「素敵なサプライズをいただいちゃいました。みんな心から喜んじゃってます」
咲岡の強引な思いつきに広人は心中穏やかではなかったが、裕香の言葉に救われたような気がした。
「今日の事なんだけど…」
広人は言葉を続けた。
「内緒にしてもらえるかな?ここにいる人達だけの秘密ってことにして欲しいんだけど」
裕香は仲間たちと顔を見合わせると「もちろん」と答えた。




