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CAROLIANS 06

 午後10時。

 裕香の自宅を再び訪れた広人を見て「CAROLIANS」のメンバー達は笑いの入り混じった歓声を上げた。それというのも広人が黒のタキシード姿をし手にはノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクの絵画『叫び』に描かれた人物の顔を模したお面を持っていたからである。メーカーに製作依頼中の「黒猫ヘッド」の代用品としてカナから受け取ったものだった。裕香は広人が一人で来たため友達の事を聞いてきたが、用事のために遅れて来ると広人が伝えるとあっさり納得した。

 リビングでは11時からのライブ配信に向け準備が進められていた。「CAROLIANS」の旗が掲げられた壁の前には椅子が二つ置かれ、その右隣には絵画用のイーゼルが立ててあり画用紙大の紙が数枚乗せられていた。壁の反対側にはノートPCが二台とCDプレイヤーにデジタルムービーカメラが据え置かれていた。

「CAROLIANS」のメンバーは既に着替えておりソファで進行内容の確認をしていた。

 配信の内容はこうだった。

 始めに今夜日本では「るりきゃろ」の新曲「アルエトロン」がテレビ番組で初公開されるということを紹介し、メンバー二人による対話形式で「るりきゃろ」の近況や流行りのアニメや漫画、ファッションやコスメについて触れたあと、彼らのパフォーマンスで「るりきゃろ」の曲を二つ披露するという段取りだった。広人が手伝えることはないかと申し出るとCDプレイヤーの操作を頼まれた。

 広人の自宅前には事務所所有の中型バスが駐車していた。「二号車」と呼ばれるそのバスは客席部分が改造され移動可能な楽屋として利用されていた。薫たちはそこで準備を整え出発の時を待っていた。

 裕香達の傍らで話しを聞いている風を装いながら、広人は咲岡にメールで配信内容を知らせた。

 10時20分になると裕香達はリハーサルを始め、時間を計りながら配信内容のチェックを始めた。冒頭での会話が間延びしすぎるとの意見が出て、対話部分を二つに分けパフォーマンスの前後に振り分けることになった。広人は再び咲岡にメールを送り、具体的な時間と変更内容を手短に伝えた。

 パフォーマンスのリハーサルが終了すると、裕香達は配信時間まで休憩をとることになった。広人は彼らに気づかれないように隠し持っていたCDをプレイヤーにセットし、「遅れてくる自分の友達のために玄関の鍵を開けておいてほしい」と裕香に頼んだ。

「広人さんの彼女も『るりきゃろ』のファンだったりしちゃいますか?」

 裕香は何気なく広人にそう聞いてきた。

…ファンも何も本人なんだけど…。

 もちろんと広人が答えると「CAROLIANS」のメンバー達は、広人の彼女を「るりきゃろ」役として次回のライブ配信に参加させたいというような事を言ってきた。やはりメインは日本人女子がほうがパフォーマンスのリアリティが増し、本人に似ているとなれば海外ファンも喜んでくれるだろうとも言っていた。「彼女に相談してみる」と伝えると、彼らはどこで覚えたのか両手を合わせ広人にお辞儀をした。

 10時50分になると「CAROLIANS」のメンバーはそれぞれの持ち場につき配信開始を待つことになった。広人の携帯端末へ咲岡からメールが届いた。

『パフォーマンス開始直前、携帯にワンコール』

 了解と広人は返信を送った。

 配信時間が近づくと「CAROLIANS」の緊張はピークに達したのか、メンバーの一人が奇声を上げると他のメンバーもそれに続いた。日本人に比べ彼らの感情表現はオーバー過ぎ、広人にはただの騒音にしか聞こえなかったが逆にそれが広人の緊張をほぐす結果となっていた。

 午後11時。ライブ配信が開始された。

 壁の旗を捉えていたカメラがゆっくりズームアウトしていき、椅子に腰掛けた二人の姿を画面内に収めた。

「こんばんわ『CAROLIANS』です」

 裕香とメンバーの一人がカメラに向かって手を振りながらそう言った。続いて裕香は隣に置いたイゼールの紙を一枚めくり、TV番組さながらに配信内容について話し始めた。

『現地到着』

 カナからメールが届いた。

『配信開始、問題はなし』

 広人は返信したあとお面をかぶった。

 ノートPCで配信状況をチェックしていたメンバーの一人は、カメラマン役の仲間に小声で話していた。視聴アクセスの伸び具合が思わしくないのか、トーク部分を短めに切り上げた方がいいのではないかと相談を始めた。他のメンバーも彼らの話に加わり、予定よりパフォーマンスを早める方向で話がまとまった。メンバーの一人が白い紙に予定変更の旨を書きトーク中の二人に見せると、裕香はパフォーマンス紹介へと話題を変えた。

 カメラを固定するとメンバー達は椅子やイーゼルなどを片付け始めた。やがてそれぞれの立ち位置に立つと、裕香は「CAROLIANS」のメンバー紹介を始めた。広人は咲岡の携帯端末へ電話をかけワンコールをすると、メンバー紹介が終わるタイミングでCDプレイヤーの再生ボタンを押した。

 スピーカーから「るりきゃろのテーマ」が流れ始めると、「CAROLIANS」は顔色を変え動揺しながら一斉に広人へ視線を向けた。広人は慌てることなく彼らにこう言った。

「No Problem」

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