CAROLIANS 05
広人には咲岡が何を考えているのか理解出来なかった。「CAROLIANS」のライブ配信を狙いとしている事はわかったが、裕香達は趣味で活動を行っているだけの素人である。国内のマスコミへの露出を制限している「るりきゃろ」が一般のファンと単独で接触したことが知られれば、どういう事態を引き起こすかくらい広人にでさえ分かることだった。
「さてその前に…ご飯いただきましょうか」
先程の張り詰めた緊迫感のある表情をほどいたかと思うと、咲岡はいつもの調子でそう言った。
「家庭料理なんて久しぶりだし~」
…社長あなたもですか…。
カナは広人の父親の腕を掴むと咲岡の隣に座らせた。リナが広人の母親の隣に座ると薫はダイニングテーブルの方に広人を誘い彼の隣に座った。暗黙のうちに定位置を決めていたようだった。
「なんだか緊張してきた!」
リナがそう言うと広人の母親は彼女の頭を撫でた。
「イベントとは違うもんね」
薫は二人の様子を微笑ましく見ながらそう言った。
実質的な活動は三人娘の高校卒業と同時に開始すると広人は咲岡からそう聞いていた。これまでの三人娘の活動は、契約しているファッション雑誌への参加と新曲発表のための収録番組への出演やイベントなどが主で、ライブは昨年2回行っただけでコンサートのような大きな舞台経験はまだなかった。三人娘の成長を優先させるためにプライベートの時間を充分与え、それぞれの将来の目標を育ませたいという咲岡の思惑によるものである。公の場での露出が少ないことはアイドルにとって大きなデメリットになるのだが、その一方で熱狂的なファンを生み出しマスコミ各社は三人娘の高校卒業に照準を合わせすでに様々な企画を用意し打診を始めていた。
借りてきた猫のようだった広人の父親はカナと咲岡から交互にビールの酌を受け、いつも通りの口調で冗談を言い始めていた。
夕食が終わると咲岡は自分の車からノートPCを持ち出して文書を作り始めた。マスコミへの対応書類ということだったが、事務処理は萌木にほとんどを任せているため思うように進まない様子だった。そこに広人の父親が助力を申し出て、咲岡の考えを文書化する作業を行っていた。
午後八時半に萌木達が到着するということだったので、広人と三人娘はこれからの行動についての打ち合わせをしながら、彼の部屋で時間を潰すことになった。
「黒氏は作曲とか出来ないの?」
カナは広人の部屋にあるバイオリンを手に取りそう言った。
「中学の時に遊びで作ったことはある」
ほーと三人娘は声を揃えたあとカナが話を切り出した。
「自分達で曲を作りたいって前々から話しあってた」
「三人とも楽器出来ないのだ!わははは!」
リナが胸を張って自慢げに言った。
「みんなで詞を作ってたりしたんだけど、プロの作曲家さんに見せるのが恥ずかしかったんだよね」
気まずそうに薫がそう話した。
「ライブとかで使うくらいなら、おシノさんも良いって言ってくれた」
「必要な道具とかあったらみんなで協力して用意するし!」
「踊りから衣装と曲まで全部自分達でやってみたいんだけど…」
広人は複雑な心境になった。勉強のために一度は捨てた音楽を再びやるとなれば、今の自分を否定することになる。そう思う一方で大した問題ではないと思うところもあった。三人娘の後ろにただついて回るだけの存在であることに、広人は後ろめたさのようなものを感じていたからだ。咲岡との契約をした時は自分に何が出来るのか見当すらつかなかったが、三人娘は広人の事を本人以上に理解しようとし活躍の場を見出そうとしている。
不安げな面持ちで自分の様子を伺う三人娘を見て広人は答えを出した。
…自分は彼女たちの笑顔が見たい。
「期待しないと言うなら」
雲間から光が差し込むように表情を変えた三人娘は一斉に広人に抱きついてきた。たまらず広人は後ろに倒れ込んだ。歓声を上げながら興奮した三人娘は異常な力で広人の体の各部を締め付けてくる。たまらず広人は「ぎゃっ」と悲鳴を上げた。
「君達ってほんと仲がいいね~」
いつの間にか咲岡が戸口に立って広人達の様子を見ていた。
「準備を始めるよ」
「はい!」
声を揃えて四人は答えた。
玄関のチャイムが鳴り萌木と植野の到着を告げた。




