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日曜日にその音楽番組の収録が行われることは滅多になく、大抵は生番組のない平日の夕方から深夜にかけて行われていた。現役高校生である「るりきゃろ」は学業優先というスタンスを取り、モデルの仕事をメインにしていることもあり、テレビ番組への出演がほとんどなかった。そのため高視聴率を稼げるタレントとして、テレビ局などのマスコミはある程度の譲歩をすることになる。ただし収録に携わる人々は時間単位で拘束されているため、撮影は速やかに行われた。
大きな防音扉を開けスタジオ内部に入った広人は、思いのほか緊張はしていなかった。
生まれて初めてスタジオに入るからには、それなりの感動というものがあるはずなのだが、黒猫ヘッドのおかげで周りがよく見えず、前に進むだけで精一杯だったからだ。
三人娘に手を引かれて指定の立ち位置まで案内されたはいいが、下手に首を動かすと黒猫ヘッドがずれて視界がさらに悪くなる。しかも照明のせいかやたらと暑いため身動きがとれなかった。カナが近くで色々説明していたが、聞いている余裕などなかった。
「黒氏、これ持って」
カナの声がする方向をゆっくり振り向くと、バイオリンを手にした彼女の姿が見えた。
バイオリンを見た広人は思わず動揺した。
広人は中学までバイオリン教室に通っていた。母親の影響で物心ついた頃から習っていたのだが、高校進学を機にやめていた。音楽学校に進む気もなかったし、中学では友達とバンドを組みベースを始めたため、バイオリン自体あまり弾くことがなくなっていた。今も時々弾くことはあるのだが、それらの楽器は現在、お気に入りのR指定図書と一緒に広人の部屋のクローゼットの中にしまわれている。
広人の母親は、いつも洗濯物をベッドか机に置いていた。たまに掃除もしてくれるので、それらの周辺にお気に入りの数々を隠しておけば容易に発見される恐れがある。クローゼットの中まで掃除することはないだろうし、ケース入りのバイオリンとベースを盾にすることで気づかれにくいようにしていた。
昨日広人が学校から帰宅するまでの間に、カナが広人の部屋を物色する時間は充分あった。とは言っても彼女が広人のプライベートを侵害するような行動に出るとは思えない。それに安易に人を疑うことは良いことではない。仮にバイオリンを見つけたとしても、それを手に取ったりしない限りその奥にあるものを見つけることはないはずだ。
…妹から聞いたに決まっている。
広人はそう思うことにして、カナからバイオリンと弓を受け取った。
「弾くフリでも構わない」
三人娘はここ最近マグナでは踊りの練習ばかりしていた。そのため何度となく彼女達の曲を聞かされていた広人は、曲のメロディーラインを知らずのうちに覚えていた。今日収録することになる曲の「アルエトロン」が、ソフトウェア音源を中心としたこれまでの曲とは違い、裏メロディーラインにバイオリンの音を使用していたせいもあった。
顎でバイオリンを固定するとうまい具合に黒猫ヘッドは少し安定した。バイオリンはその感触から明らかに高価なものであることが広人には分かった。ブランクが気になったので試しにワンフレーズ弾いてみた。滑らかな指触りを感じながら正確にポジションを押さえ弓を引くと、癖のない透き通るような音色が奏でられた。どこからともなく感嘆の声が上がった。
「想像以上」
目を丸くしてカナが言った。
「ただの貧乳好きではないと見た!」
言葉を選ぶことなくリナが言う。
「痩せたほうがいいかな」
真面目な顔で薫が言った。
「リハーサルお願いします」
スタッフの声を合図に三人娘は定位置についた。
広人は家に帰ったら部屋掃除をしようと心に決めた。




