KerBerryz07
「申し訳ありませんでした!」
広人の前で三人娘は正座したかと思うと、急に土下座して謝った。
マンション七階の一室。白い天井と壁に囲われた広さ12畳ほどのリビングには、テレビと二人掛けのソファがテーブルを挟んで向かい合わせに置かれていた。彼女達は広人を中に案内し、ソファに座らせるなりその行動に出た。
「ちょっと待った、急にそんなことされても逆に困る」
彼女達の意図は理解出来なくはなかったが、現実世界で顔を合わせてからそれほど時間は立っていない。ほぼ初対面と同等の関係である彼女達に、そんな態度を取られるなど広人にとって予想外のことだった。
「…ほんとに?」
頭を下げたまま三人娘は声を揃えた。
「そりゃあ正直大変な思いをしたけど、逆にいい経験をさせてもらったかなって思うし…」
「メイド喫茶のことは怒っていない?」とリナ。
「怒るわけないだろ、自分も君らを疑ってしまったし」
「メールで連絡しなかったのに?」とユナ。
「イベントのステージを見れば、準備で忙しいことくらい想像できる」
「もし会えなかったら?」とカナ。
「……会えないわけがない。何だかそんな気がした」
ゲーム世界での日常が現実世界と重なったような感覚になり、不意に広人の全身を縛り上げていた緊張が緩んでいった。
「せーの」の掛け声で彼女達は顔を上げると、手にしていたクラッカー広人に向けて鳴らした。色とりどりの紙テープや紙片が広人の頭上から降り注ぐ。
「ようこそ黒猫執事くん!」
クラッカーを鳴らしたあと、打ち合わせていたのか三人娘はキッチンに向かいグラスや飲み物、ピザやお菓子などを手際良く次々とテーブルの上に運んでは置いていった。ひと通り準備が終わると、広人の左隣にユナが座り、向かいのソファにリナとカナが座った。リナがアイスティーをグラスに注ぎカナが皆に手渡した。
「それでは初のオフ会を祝して、かんぱーい!」
リナの声に合わせて四人はグラスを合わせた。かちん、とグラスの音が続けざまに鳴り響く。四人は揃って一口飲んだ後、手を叩いた。
「初顔合わせということで、まずは私から自己紹介を始めます!」
波に乗り遅れた感のある広人に構うことなく、右手を高々と上げたリナが話を進めていく。
「キャラネーム『リナ』こと『衣谷理奈』と申します。趣味特技はダンス。優良健康型体育会系可憐風味女子高二年生!」
茶色がかったショートヘアの前髪をピンで止め、赤Tシャツにグレーのパーカーをはおり、薄いオレンジ色のパンツ姿のリナの声は、マグナのキャラ同様にやや甲高かった。
「『カナ』こと『衣谷香奈』です。ネコが好き」
落ち着いた声音のカナは、長い黒髪をツインテールにまとめ、衿白の黒いワンピースを着ていた。リナとユナはほぼ同じ背丈であったが、カナは二人より少し低かった。
「あれ?…もしかして」
広人の言葉にリナとカナは頷いた。
「二人は姉妹なんだよ、二卵生だからそれぞれ個性的だけど、あははははは」
「笑うな!」
リナとカナは声を揃えてユナに不満を漏らした。
「わたしは『ユナ』こと『るりきゃろ』です。本名は…ってどうしよ」
『るりきゃろ』の本名は公式プロフィールで非公表になっていた。
「別にネットとかでバレバレなんだし、教えてもいいんじゃないの?」
リナがさらりと言う。
「そうだね。本名は『安藤薫』です。そして…」
ユナは広人の顔を見て申し訳なさそうに言った。
「『黒猫執事』こと『榊原広人』くんだよね」
おおかた予想のついていた広人は、言葉を付け加えた。
「口の軽い父親を持った高校二年生です」




