KerBeryyz06
「マグナスキルオンラインは面白いか?」
とある日の夕食時、父親は広人に聞いた。
「まあそれなりにね。…友達とかも出来たし」
軽く驚きの声を上げた父親はさらに質問を続けた。
「もしかして彼女もか?」
味噌汁を噴きそうになった広人は、不満気な視線で父親を見た。
「だよな、おれの息子だし」
自虐的な言葉を言ったあと、父親は高笑いをした。
「ところでお前のキャラネームって、どんなの?」
思わず広人は箸を止めた。つい最近キャラネームを変えた…正確には変えられたのだが、まだ慣れていないというより人にその名を教えるには少なからず抵抗があった。
「別に言いたくなきゃそれでいいけどな、ちょっと聞いてみたかっただけだし」
「笑わない?」
「笑うわけ無いだろ」
意外にも真面目な顔で返事をした父親に広人は言った。
「く、黒猫執事…」
一瞬の間を置き、父親は大声を上げて笑い出した。
「広人君」
名前を呼ばれた広人は、ゆっくりと瞼を開いた。目の前では「るりきゃろ」が心配そうな表情で自分の顔を覗き込んでいる。そのあまりの近さに思わず広人は飛び退きそうになった。車は止まっており、車内には自分と彼女、運転手以外に人影はない。
「ついたよ」
彼女は微笑ながらそう言った。
朦朧とする頭を抱えたまま広人は車を降りた。そこはどこかのマンションの駐車場らしかった。
彼女は運転手に礼を述べ、車を見送ったあと広人の隣に立った。
「なかなか起きないから心配したよ。大丈夫?」
ここに来るまでの間広人は眠っていた。それというのもホテルの駐車場から車が出るなり三人娘が眠ってしまったからだ。長時間にわたる緊張と興奮状態から解放された広人は、不意に訪れた静寂の中で気持ちを整理しようと目を閉じ、そのまま深い眠りに落ちていた。
「いこうか」
言われるまま広人は彼女の後を追った。二人は裏口から中に入りエレベーターに乗り込んだ。
身長160センチほどであったが彼女は小柄に見えた。肩まで伸びた黒髪、ベージュのカーディガンに白Tシャツ、デニムのショートパンツに黒のストッキング姿の彼女はごく普通の女性だった。どう会話を切り出したものかと思い悩む広人の顔を時々見ては、いたずらっぽい笑みを彼女は浮かべていた。
「そう言えば」
広人はあることに気がつき彼女に聞いた。
「さっき俺のこと、広人って呼ばなかった?」
彼女は目を丸くしたあと視線を逸した。
「そうだっけ?」
マグナスキルオンラインでのユナは、嘘をついたりマズイことがあると必ずその仕草を見せた。




