KerBerryz05
奇抜なデザインと配色が施された彼女の服は、ファンタジー世界から飛び出してきた魔法少女のようだった。頭のてっぺんにはピンクの大きなリボンを付け、シンプルなデザインに変更されたDORSを付けていた。これまでのフルフェイス型と異なり、新型DORSはヘッドバンドのような形状になっていた。
歌い続ける彼女を見ていて、広人はあることに気がついた。
肩の辺りで切り揃えられたオレンジイエローの髪、透き通るような白い肌と小づくりな顔に大きな瞳。始めは緊張のせいで彼女は固い表情をしているのかと思ったが、ゆっくりと彼女は会場に向ける視線を移動させていた。それはすなわち誰かを探しているということだ。
スポットライトを浴びながら、フラッシュの閃光をまともに瞳で受け続ける彼女にとって、客席側はかなり暗く見えているのだろう。瞬きひとつせずに必死に目を凝らしている、そんな様子に見えた。
どうすれば彼女に自分の存在を伝えることが出来るのだろう。
咄嗟に広人は考え始めた。大声を出したり、ステージの正面に駆け寄れば一目瞭然となるが、今はライブやコンサートの類ではない、DORSを紹介するための公的なイベントなのだ。暴挙に出れば、当然関係者である父親にも迷惑をかけることになる。
曲は1コーラス目から2サビへと移り、瞬く間に2コーラス目、3サビから間奏部分に入った。
彼女が一歩下がると、左側にいたバックダンサーが前に出てアドリブで踊り始めた。
無手の剣を交互に振り下ろす動作のあとに、全身を回転させ再び剣を振り下ろす動作をする。それはマグナスキルオンラインで、何度となく目にしたことのあるリナの技に酷似していた。続いて右側のダンサーが入れ替わり前に出て踊り始めた。そのダンサーは頭に猫耳を付けていた。今まで気づかなかったのだが、その猫耳は薄暗い場所では緑色の蛍光色を発していた。
紙袋から慌てて猫耳を取り出すと広人は頭につけた。そして念じるように彼女に視線を送った。
4サビが始まり、再び前に出た「るりきゃろ」は、会場全体を見回し始める。時間がないのか目の動きが先ほどに比べ早くなっていた。
やがて彼女の視線は広人の方を向いて止まった。
同時に彼女は頬を緩め笑顔を見せた。そのチャンスを逃すまいと、フラッシュの洪水が彼女の身体を包む込む。
曲が終わると広人は思わずその場にヘタリこんだ。退場する猫耳バックダンサーに「るりきゃろ」は短く何かを囁いていた。続いて壇上では司会者の女性と「るりきゃろ」のインタビューが始まった。
ステージ上に立つアイドルと、マグナスキルオンラインのユナの姿を広人は重ね合わせていた。
お互いの都合で会えない日もあったが、ほぼ毎日のように時間を共有していた人がそこにいる。しかし現実世界の彼女は一般的な高校生である広人から見れば、はるかに遠い場所に存在していた。ゲームの世界では、肌が触れ合うほどの距離にいたこともある彼女が…。
様々な感情が交差し、無限の思考が広人のなかで潮流となって流れていく。この先自分はどうしたらよいのかさっぱり見当がつかない。
「黒氏」
その声の方を振り向くと、バックダンサーの女性が隣に立っていた。
彼女は広人の頭から猫耳を取り、手を掴んだ。
「こっちへ」
導かれるまま広人は彼女についていくことにした。
会場の入口とは反対側にあるドアを出ると、楽屋らしき部屋に案内され、そこでしばらく待つように告げられた。部屋の真ん中に二つ置かれた大きな長テーブルのひとつに広人はジャンパーを脱いでおき、部屋の隅にあった自動販売機からスポーツドリンクを取り出すと、丸椅子に腰掛け喉の渇きを潤した。
ゲームの世界では予測不可能なイベントはいくらでもある。例え失敗しても「やり直し」という保険がある限り、急ぐ必要もなければ焦ることもない。だが現実に「リセット」はない。今自分がここにいるのは偶然なのだろうか。ふと広人はそう考えた。
15分ほど時間が経ってからドアがノックされた。私服に着替えたバックダンサーの二人が扉口で広人を手招きする。
「バタバタだよ、バタバタ。わはははは」
「疲れた…」
小走りに先を進む二人に広人は続いた。途中すれ違うスタッフらしき人々に二人が頭を下げると、広人もそれに習って頭を下げた。
細い通路をしばらく進むと、裏の駐車場に出る。
「乗った乗った!」
停められていた白いバンの後部座席扉を勢いよく開くと、ダンサーの一人が手振りで指示を出す。言われるまま広人はバンの後部座席に腰を下ろした。
「とりあえず、自己紹介その他オール後回しということで」
ダンサーの一人はすぐには車に乗り込まず外の様子を伺っている。広人は「黒氏」と自分のことを呼んだダンサーと並んで座っていた。黒髪のツインテールに幼さを残したような顔立ちをしていた彼女は、広人のことを真っ直ぐに見つめていた。
「よく見ると予想とだいぶ…かなり違う」
そう呟くと、自分のバックから携帯端末を取り出し、広人のほうに顔を近づけるとツーショットの写メを撮った。
「こっちこっち!ってそこの二人何してる!」
しばらくすると白い大きな帽子をかぶった「るりきゃろ」が車に乗り込み広人の左隣に腰掛けた。当然のことながらステージ上の彼女とは全く雰囲気が違っていた。「るりきゃろ」の後にダンサーが続いて乗り込み、ドアを勢いよく閉めた。
「運転手さん、お願いします!」
車はゆっくりと走り出し、表通りに出ると高速道を目指して進み始めた。




