KerBerryz04
「何か忘れ物でもしたかオレ?」
父親はふと考えるような顔をしたが、広人が首からかけているIDカードに目を止めた。
「なんでお前がそれを持っている?というよりオフ会はどうした?」
矢継ぎ早に問いかける父親の言葉に、何をどう説明していいのかまとまりがつかず、胸元のポケットに入れていた案内状を父親に見せた。手書きの文字を見て、父親はなにやら思案を始めたらしく天を仰いだ。
「いや、まさかな。…かといってその可能性もなくはない。他の選択肢はと言えば…」
早口でブツブツ独り言を呟いたかと思うと、広人についてくるように言った。
ロビーから迷路のようなホテル内の奥へと進み、発表会場の受付で父親は広人に待つように言った。
開け放たれたドアからは、会場内の様子が見て取れた。
ステージ前列にはマスコミの記者と思しき人々が椅子に座っており、しきりにメモをとったり電話をかけたりしていた。その後列には数多くカメラが三脚に載せられ、その周りに誰彼となく談笑をするカメラマンたちが陣取っている。時間は午後2時になろうとしていた。
しばらくして父親は戻ってくると、手にしていたスタッフジャンパーを広人に渡した。ジャンパーの背中には父親の会社であるニューロテクモ社の大きなロゴが入っていた。
「それ着てこっちへ来い」
父親のあとに続き会場内へと入ると、異様な熱気に包まれた。
「クーラー強めにしておくよう言っておくんだったなあ」
ネクタイを軽く緩めながら、父親は人混みを縫うようにして進んでいき、会場内の左端中央付近で立ち止まった。
「終わるまでここにいろ。これから何が起こるのかはわからんが、俺ができるのはここまでだ。帰りは別々だが構わないよな」
広人が頷くと、父親は右手の親指を広人に突き出した。
「健闘を祈る!」
「はぁ?」
父親はニヤリと笑い、踵を返すと元来た道を戻っていった。一人取り残された広人は、周囲の人々の視線を感じ、慌ててジャンパーの下に隠れていたIDカードを取り出した。
会場内全体が見渡せるその場所は、逆に周りからも見られやすかった。どこからか父親が見ているのだろうか?そう思いながら会場内のあちこちを見回してみる。
ステージ後方には大きなパネルがあり、数多くの主催・協賛会社のロゴで埋め尽くされていた。父親の会社であるニューロテクモのほか、マグナスキルオンラインの運営会社であるリーフプロジェクトのものもあった。
あまりの息苦しさに顔を上げ、広人は時々大きく息を吸い込んでは吐き出した。スタッフジャンパーは通気性が悪く、サウナスーツ並に全身の水分を搾り取ろうとする。ジッパーを中程まで下げ、右手をあおいで新鮮な空気を送り込むと、いくらか気分が落ち着いてきたので広人は考えをまとめてみた。指示された場所へは運良く来ることが出来たし、約束の時間には余裕で間に合う。残る問題は彼女達が何者なのかということ。
先日の父親の言葉に思考が暴走してしまったが、よく考えれば自分と同じように父親がDORSに関係している高校生も当然いるはずだ。会場全体を何度となく見回し、出入りする人々をチェックする。だが一向に同年代、高校生と思われる人物の姿は見受けられず、自分に近づく人影や声をかけられることすらない。改めて喫茶店のメイド店員から受け取った紙袋の中身を見てみる。残るアイテムは猫耳のみ。
刻一刻と時間が過ぎるほどに、広人が予想する選択肢の幅が狭められ、身勝手な想像が現実味を帯びていく。そう考え始めると、再び鼓動が早くなり掌から汗がにじみ出る。
「長らくお待たせ致しました。只今より新型DORSの発表会をとりおこなわせていただきます」
ステージ左側には司会者である女性が立っており、マイクと台本片手に会場内を見渡しながら進行を始めた。
「発表会に先立ちまして、まずは新型DORSのイメージキャラクターに選ばれた、この方の登場です!」
会場内は急に暗転したかと思うと、暫しの沈黙が訪れた。
やがてテーマパークのセレモニーに似た楽曲が鳴り始め、ステージ上に三人の人影が見て取れた。セレモニー曲が終わるやいなや、ステージ上に立つ一人の女性にスポットライトが浴びせられ、間を置くことなく次の曲が鳴り始めた。フラッシュの閃光が到るところから湧き上がり、ステージ上の人々を浮き上がらせる。
サビから始まるその曲のタイトルは「オトメイル」。新型DORSのキャンペーンソングであり、ステージに立つ彼女の第三弾シングル曲だった。




