KerBerryz02
六月第一日曜午後12時40分。
改札を抜け駅ビルを出たあと、広人は携帯端末で目的の場所を確認した。徒歩でおよそ15分ほどの距離にある建物の五階の喫茶店がオフ会の会場となる。会場とは言っても、たかだか四人が集まるスペースとなれば、ファミレスやカフェで充分でだった。
歩きながら広人はふと考えた。三人は本当に彼女達なのだろうかと。
マグナスキルオンラインでは、アバターの性別は自由に選択が可能であった。セクシャルハラスメントの防止と現実世界とは違う自分を演じて楽しむ為の仕様なのだ。ゆえに中身が男性という可能性はもちろん否定出来無い。ゲームの中で広人はアバターの彼女達しか知らないわけで、性別について具体的に質問したことはない。
…何を期待しているんだ、俺は。
新型DORSの発表会があるため休日出勤することになった父親は、家を出る前にオフ会に出る広人へ「軍資金」と言い3万円を渡してくれた。「事後報告よろしく」と意味不明の言葉を付け加え、不敵な笑みを浮かべていた。
…誓って言う、俺はあなたの息子なのだ。恋愛マグナスキルが現実世界にあるとしたら、必死でそれを手に入れたいと願う一人に過ぎない。
いずれにしろ他人との接点を作り、交流の輪を広げると言う点において、マグナスキルオンラインは当初の目的を充分果たしたことになる。
雑居ビルの正面ドアを入り、エレベーターで五階に上がった。時刻はちょうど午後1時になるところだった。
…そもそも、会場が会場だしな。
エレベーターを降り、右奥突き当りの店のドアを開けた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
深々と頭を下げるメイド服の店員に苦笑いをした後、予約の確認をした。
「KerBerryz様ですね、お待ちしておりましたこちらへどうぞ!」
店内の客は期待を裏切る事なく、野郎密度が高かった。店員の放つ笑顔を正面から受け、ささやかな幸せに身を焦がす客に物珍しげな視線を送り、広人は店員の後に続いた。
席を案内された広人は、思わず店員に聞き直した。
オフ会は四名で予約を入れてあるはずなのに、そこはどう見ても向かい合わせの二人席であったからだ。
「確認して参りますので、少々お待ち下さいませ」
特に慌てた様子もなく、店員は店の奥へと向かった。
携帯端末を上着のポケットから取り出し、カナからのメールを確認してみるが、時間と場所は確かに間違いはない。
騙されたのではないかという疑念が広人の中に沸き起こった。おそらく彼女達はどこかで自分を見ていて、驚き落胆する様子を楽しんでいるのではないかとさえ思った。だが予約の手違い、不意の急用や事故など直前になって連絡を取ることが出来ない状況になっている場合も考えられる。安易に彼女達を疑ってはいけないと思い始めた。予想外の交通事情による遅刻もざらにある話である。寝坊も考えられる。
広人は席につき、彼女達からの連絡を待つことにした。
…15分待ってみようか。いや30分くらい…かな。詳しい話はマグナで聞けばいい事だし…。
しばらくするとトレイに料理を乗せた店員が戻ってきて、テーブルの上にオムライスを置いた。
「あの、注文とかまだ頼んでないんですけど」
動揺する広人に構うことなく、店員はおまじないを唱えると、今度は違う店員が広人に無地の紙袋を手渡した。
「お友達からです。ご主人様」
目の前に置かれたオムライスをしばし見つめ、大きなため息をついたあと広人は紙袋の中を見た。




