第26話 ロディ、落ち込む
「ロスゼマさん!来てたんですか?」
屋敷の中にいた女性の1人はロスゼマだった。それに気づいたナコリナが驚きの声を上げる。
「ああ。あんたからフェイにお呼ばれしてると聞いたんでね、監視役として来てやったよ。」
「わしゃ招待しとらんのじゃが・・・。」
「うるさいねえ。あんたが変なことして捕まらないように来てやったんだよ。ありがたく思いな。」
ロスゼマの強引な言葉に、仕方ないといった表情のフェイ。なんとも対照的だ。
「私も紹介していただけないこと?」
それまで後ろで静かにしていたもう一人の女性が、2人のそばに進み出て言った。
彼女は見た目は50代くらい、もしかしたらもっと若いかもしれない。3人の立ち位置はかなり近く、フェイやロスゼマととても親しそうな感じを受ける。
その女性はどう見ても高級そうな服で身を包んでいる。落ち着いた感じの装飾ではあるがそれでも細かな意匠が施されたその服装に、かなり身分の高い人だと想像できる。
ロディは彼女を見たことがない。ちらりとみんなを横目で見るが、エマたちも知らなそうな様子だった。
「おお、そうじゃったのう。紹介しよう。この人はエリザベート。」
フェイが彼女の名前を紹介した。しかしその続きの言葉に5人は驚く。
「彼女はそこの旧城に住んでおる。つまり、この国の太后様じゃ。」
「「「「「えぇ!?」」」」」
なんとその女性は太后、すなわち現国王の母親だという。
5人が驚いて二の句を告げられずに固まっている。本来、王族などに目通りする際は片膝をつけて目線を下げるなどの姿勢を取らなければならない。が、それを知っているロディでさえ驚いたまま、まったく動けなかった。
そんな5人を見て微笑みながら太后は優雅な仕草とともに言った。
「今日は王族として来たわけじゃなくて、フェイの友人として来たのよ。だから堅苦しいことは抜きにして。礼も不要よ。そして私のことはエリーと呼んでちょうだい。親しい人はそう呼ぶわ。」
「は、はい・・・」
エリザベート(エリー)はそう言って笑ったが、ロディたちとしてはなんとも反応が難しい。
「楽しい団欒のつもりじゃったのに緊張させてしもうたじゃないか。まったく、ロスゼマもエリーを連れてくるなど何を考えておるんじゃ。」
フェイがロスゼマに文句を言うが、ロスゼマはわずかに視線をそらして言った。
「あたしゃ知らないね。エリーが勝手について来るって言ったんだよ。」
「だって私も会ってみたかったのよ。フェイとロスゼマが最近目をかけている子がいるって聞いてて。」
エリーはそう言って、ロディとナコリナを見た。そして、小さく笑みを浮かべながら言った。
「あなたたちね。フェイもロスゼマも楽しそうに2人のことを話すのよ。」
「「楽しそうになぞ話しとらんわい(てないよ)!」」
息があったように否定する2人。
「あ、あの。フェイさんたちは太后様と知り合いだったんですか?」
ようやく気を取り直したロディが口を開く。すると、その言葉を太后が咎める。
「エリー!」
「え!?」
「エリーと呼んでちょうだいとさっき言ったわよ。これからは『太后様』は禁止ね。」
「し、しかし・・・」
「今度エリーと呼んでくれなかったら、罰を与えるわよ。・・・フェイに。」
「何でワシ!?」
いきなりのとばっちりにフェイがあわてて抗議するも、エリーは笑って取り合わない。
「だって弟子の不手際は師匠の責任よ。」
「ちょっと手ほどきしとるだけじゃ。弟子とかそんなたいそうなもんじゃないわい。」
弟子という言葉をフェイに思いっきり否定されて、ロディは少しがっかりしていた。確かにロディはこれまでフェイに『弟子』と言われたことはない。
(『賢者の弟子』なんてそうそう認められるもんじゃないのか。自分じゃ弟子になれるほど才能がないのかも・・・。)
「フェイ、そんなこと言っていいのかい。ロディが落ち込んでるじゃないかい。」
がっかりしたロディの様子を見てロスゼマがフェイに注意し、フェイも失言に気づいてあわてて言いつくろった。
「ロディ、違うんじゃ。わ、ワシは昔っから弟子は取らんと公言しておったんじゃ。じゃから弟子は取らん。ロディは弟子じゃない、弟子じゃないが・・・その・・・生徒、みたいなもんじゃ。うむ。」
フェイの言葉はごまかしている感じで、最後の方は力なく、声が小さくなっていった。それを聞いてさらにロスゼマがつっこむ。
「いつまでも意固地になって。そんな昔に言った話、さっさと捨てちまえばいいんだよ。じゃないとロディに捨てられるんじゃないかい。」
「何でワシが捨てられるんじゃ!女に捨てられることはいいが、男に捨てられとうは無いわい。」
いつまで続くかわからないフェイとロスゼマの言い合いに、エリーが割って入った。
「フェイ、ロスゼマ、そろそろ止めたら。5人とも立ちっぱなしで待ちぼうけよ。今日は何のために来ていただいたの?」
「お、おお、そうじゃった。すまんすまん。」
「これからのお話は、食事をしながらにしましょう。ささ、中にお入りになって。」
「「「「「は、はい・・・。」」」」」
こうしてロディたちは3人の先達たちに屋敷に招き入れられた。
太后であるエリーはロディたちに気軽に話してくれてはいたのだが、だからと言ってそう簡単に打ち解けられるはずもない。廊下を進むロディたちの歩みはとてもぎこちないものだった。




