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第27話 ロディ、会話を楽しむ

 屋敷に入り全員が移動した先は、応接間のような食堂のような広い空間だった。真ん中に縦長い長方形のテーブルがあり、そこにはすでに食事の用意がされていて、部屋中をいい匂いが漂って空腹を刺激する。特にレミアは待ちきれないかのように目を輝かせていた。

 ロディたちは召使たちに指示されながらそれぞれ座席に着いていく。

 長テーブルの片側の中央には太后であるエリーが座り、その左隣にフェイ、右にロスゼマが座った。反対側には中央、つまりエリーの真向かいにロディが席に着き、右隣りは順にレミア、テオ、左隣は順にナコリナ、エマが着く。

 ふとロディがフェイを見ると、彼は心なしかしょんぼりとしていた。それは座席の正面がナコリナやエマではなかったからだろう。

 多分エリーとロスゼマがいなければ、フェイはきっとナコリナかエマを隣に座らせていたはずだ。せっかく晩さん会の主催をしているのに・・・、そう考えると元気が無いのは仕方がない。ロディはフェイの肩を持つわけではないのだが、少し気の毒になった。


「改めて自己紹介するわね。私はエリザベート。エリーと呼んでくださいな。」


 会話の口火を切ったのはエリー。一番身分が高いのだから当然ともいえる。その言葉に反応してロディたちも自己紹介を始める。


「ロディです。」

「ナコリナです。」

「エマです。」

「レミアなのだ。」

「テオです。」

「皆さんは冒険者パーティなのよね。私、冒険者の話を聞くのが好きなのよ。みんなの経験したお話が楽しみですわ。」


 エリーの口ぶりは気さくな感じで、とても王族とは思えない。最初に紹介されたときは驚きと緊張が先に立っていたが、いまはロディたちもエリーに対し親しみやすさを感じていた。

 そのエリーだが、どうやらロディたちの冒険話を非常に心待ちにしていたようで、目を輝かせながらロディたちを見ていた。

 そういうわけで、食事が始まった最初はロディたちの冒険譚を語ることになった。


 食事が開始され、ロディたちはこれまでの経験談を語り始めた。

 それぞれのギフトの話、メルクーの新旧ギルド長の話、ダントンとの戦いの話、ミズマでのダンジョンの話、レミアとテオとの出会い、オークキングとの戦い、etc

 ロディたちはこれまでの経験を面白おかしく、しかし隠すところは隠して話をした。

 話はエリーだけでなくフェイやロスゼマも興味深く聞いていたようで、時に質問し、時に笑ったりしながら3人とも楽しげであった。


 が、しかしミズマの魔法師の話をした時に少しアクシデントがあった。

 その魔法師の名を聞いて、フェイが驚きの声を上げ、顔から笑顔が消えた。


「ま、待つのじゃロディ。済まぬがもう一度その魔法師の名前を言ってくれぬか。」


 フェイのただならぬ様子に、ロディは驚いて笑顔を消して答えた。


「え、はい。たしか魔法師ザルクルースだったと思います。」

「なんと、ザルクルース!・・・」


 フェイはその名を口にしたまま絶句してしまった。フェイの反応に全員が戸惑ってしまう。特にザルクルースと因縁が深いテオとレミアは苦々しそうな表情を隠さないでいる。


「フェイ。知り合いなのかい。」


 ロスゼマが問うと、フェイは少し間をおいてから顔を上げ、小さく頷いた。


「そうじゃ。かつての知り合いじゃ。・・・そうか、あの男がそんなことをのう・・・。」


 そうつぶやいたフェイは、場の雰囲気がおかしくなったのに気づいて、すぐに無理やり笑顔を作っていった。


「おお、すまんすまん。楽しい食事の話を止めてしまったようじゃの。いや、昔知った男というだけの話じゃ。気にせんでおくれ。」

「そうね。まだ話を聞き足りないわ。他の楽しいお話は無いの?」


 雰囲気を変えるためエリーが会話をつづけようとし、ロディたちも気持ちを切り替えて会話を続けた。


 ロディには、フェイの様子からはあのザルクルースと単なる知り合いだっただけではないのでは、と推測された。

 しかし彼が何も言わないのであれば無理に聞き出すこともできない。それに今はその必要もないだろう。

 ロディはザルクルースのことを忘れて会話を楽しむことにしたのだった。




「エリーさんとフェイさん、ロスゼマさんはどうやって知り合ったんですか。」


 食事がデザートとなり、ロディたちの話もあらかた終わったころ、エマがそう切り出した。今度は逆にフェイやロスゼマ、エリーたちが語る番となる。確かに3人の話は興味がある。


「そうね。私は元々侯爵家の生まれなんだけど、若いころは冒険者活動をしていたの。」

「え、エリーさんが侯爵令嬢で、しかも冒険者!?」

「そう。私は昔はお転婆で、それに腕に自信があったのよ。それに冒険者になっていろいろな場所を旅したくて。それでその当時有名だったフェイたちのパーティに入ったわ。」

「へー、賢者パーティにいたなんて、とても優秀だったんですね。」

「入ったというより、居座ったという感じじゃったがな。」


 エリーのパーティメンバーの話をフェイも肯定はしたが、ちょっといわくがあるようだ。どうやら強引に仲間になったという感じらしい。


「ロスゼマさんも同じパーティだったんですか?」

「そう。でもあたしゃフェイとは出身が同じ町で、小さいころからの腐れ縁だったから、その流れで同じパーティだっただけじゃ。大した力などないよ。」


 ロスゼマはそう言って小さく笑った。

 しかし彼女はそう言うが、賢者であるフェイがいるパーティに、何も出来ない者が居れるはずもない。おそらくは得意な薬学などでパーティに貢献していたのだろう。


 しばらく会話を続けるうちに、内容はエリーの身内の話、すなわち王族の話に変わっていった。

 エリーが一緒にパーティに居たのは2年程度らしい。結婚適齢期に実家に呼び戻され(エリーが言うには強引に連れ出され)、それから紆余曲折があって前代国王と結婚することになったようだ。


「先代の王は我が夫ながらとても英邁の気質があったわ。私が冒険者をあきらめて王妃として支えようと思うくらいにわね。」


 前の王の話はエリーの話はのろけだろうか。他の7人は笑顔で黙って聞いていた。


「でも今の国王、つまり私の息子はあまり出来がよくなかったわ。」


 と、いきなり打って変わって反応しづらい話を突っ込んでくるエリー。ロディたちはどう話を合わせればいかわからず、うろたえながら聞き続けていた。


「エリーや、それは・・・」


 なんとかフェイが注意するかのように口を開くが、それでもエリーは止まらなかった。


「いいのよ、私の身内を私が話すだけだから。でもここだけの話にしておいてね。それで、あの人と私の息子なんだけど、よく言って凡庸な子でしかなかったの。だけど、他に男子がいなかったから仕方なく国王を継がせるしかなかったわ。」

「え、ええぇ・・・」


 エリーの言葉は一般市民としてはとても口外できない、もし話したら捕まるかもしれないような話だ。しかしエリーはまるで普通の世間話かのようにつづけた。

 この話聞いていいのだろうか、とロディはうろたえる。しかし太后が話をしているのに耳をふさいで聞かないというわけにはいかない。笑顔で聞いておくしか道はなかった。


「エリー、そんなこと彼らに言っても迷惑になるよ。みんな戸惑ってるじゃないかい。」

「あら、ごめんなさいね。じゃあ少し話を変えるわね。」


 ロスゼマからたしなめられ、彼女は息子批判をようやく収めた。そして変わってその子供、つまり孫の話に移る。


「でも孫は出来がいいわ。孫には2人の男子がいるんだけど、兄弟そろって期待できるわ。」


 エリーの孫には、次世代の王である王太子と、その弟がいるらしい。

 太子と言えばロディたちの耳にも入っている。ついこの間の政変によって実権を握ったと噂されている、つまり現在のこの国の権力を握っている者、それが太子なのだ。

 そしてエリーはそのクーデターの話にも触れてきた。


「今の国王があまりに欲深い貴族の言いなりだったので、この国の先行きが危ないと思って孫が行動を起こしたの。私も積極的には関わってはいないけど、それを黙認したわ。」


 つまりは無能の王様では危ないと判断して政変に踏み切ったということか。しかもエリーはそれを肯定的にとらえているようだ。


「太子の弟も優秀だけど、兄弟仲が良くっていつも兄を引き立てるようにしているわ。だから内紛の心配もなさそう。これからこの国はよくなっていくはずだから、安心して暮らせるわよ。私が保証するわ。」

「は、はい・・・」


 ロディたちは、聞いてはいけないような話をされ苦笑いを浮かべながら食事を続けるしかなかった。フェイやロスゼマも同様だ。話自体は知っていたであろうが、まさかこの食事会で話をするとは思っていなかったであろう。


 そんなエリーの独壇場のような話もあった晩餐会ではあったが、全体では和やかな雰囲気で、楽しい会話ができた有意義な会だった。

 夜も更けて会が終わり屋敷を辞する際に、ロディたちは最後には心から楽しんだことをフェイたちに告げた。


「今日は楽しかったです。招待いただいてありがとうございました。」


 帰り際にロディはフェイにお礼を言った。


「いや、何の。次はもっとナコリナちゃんたちと会話をし楽しみたいのう。エリーやロスゼマのいないときにのう。」

「はは・・・」


 ロディは横目でナコリナとエマを見る。彼女たちは微妙な笑顔をしていた。今回のことで彼女たちもフェイとはそれなりに打ち解けたが、まだ少し壁はあるようだ。

 エリーも前に進み出てロディに話しかける。


「今日は私も楽しかったわ。今度はみんなで王宮にいらっしゃいな。歓迎するわよ。」

「え、王宮、ですか。こ、光栄です。」

「そんなにかしこまらず、気軽に訪ねていらっしゃい。」


 気軽になんてそれは無理、と心の中で思いつつ、ロディは笑顔で謝辞を述べる。

 ともかく、ロディたちにとって様々なハプニングのあった晩餐会は終わったのだった。

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