第25話 ロディ、招待される
「ロディよ。いつになったらナコリナちゃんとお茶ができるんじゃ?」
稽古の途中、フェイが切り出したのは、以前から言われていたナコリナたちとのお茶の要求だった。
「・・・まだあきらめてなかったんですか。この前断られたでしょう。」
ロディはあきれてフェイを見る。しかしフェイは全く懲りてない様子で言った。
「1度や2度であきらめるわけなかろう。ワシゃこう見えてもあきらめの悪い男なんじゃ!」
「威張っていうことじゃないでしょ。もう無理ですよ、彼女たちもあまりフェイさんに近づきたくないようですから。」
「やじゃやじゃ。ナコリナちゃんと一緒にお茶をしたいんじゃ。わしゃあきらめんぞ。」
フェイは駄々っ子のように寝ころばって不貞腐れた。
その姿を見て『本当に賢者なのか』という思いがロディの心を一瞬心をよぎる。が、これまでの彼の見せてきた実力は、間違いなくロディよりはるか上の賢者級のものだ。ロディは頭を横に振り、苦笑いをしながらこの変な時間が終わるのを待つしかなかった。
地面でひとしきり駄々をこねていたフェイは、しばらくするといきなりぱっと立ち上がり、そしてロディに顔を向けた。
「致し方ない。おぬしらパーティ全員を我が屋敷に正式に招待するか。お茶ではなく、晩餐に。」
フェイが口にしたのは『晩餐への招待』。お茶会からレベルが上がっている。いきなりの話にロディは驚いた。
「え、晩餐・・・。この屋敷にですか?」
「そうじゃ。」
「フェイさんが元賢者であることがバレちゃいますよ。」
「いたしかたなかろう。」
フェイは元賢者であることをばらしてまで、パーティメンバーを招待するという。本当にいいのだろうか。
「心配するでない。おぬしらの為人はこれまでに調べてあるんじゃよ。お前たちはきちんと口止めすれば秘密にしてくれるじゃろうと思うたからこそじゃ。」
「は・・・はあ。」
フェイはすでにロディのパーティのことを調査していたらしい。ある程度権力ち、しかも身分を隠したい彼としては当然のことなのかもしれないが、ロディは少し複雑な心境だ。
「というわけで、元賢者であるこのフェイが正式におぬしら5人を招待するのじゃ。まさか、断るまいの?」
「え・・えっと・・・帰って聞いてみないと。」
「断ったら、ロディ、お主の稽古もこれまでじゃ。」
「えーーー!!そんな横暴な。」
という、フェイのかなり強引な晩餐への招待を、結局ロディは断ることはできなかった。
◇◇
「え!フェイさんって本当に賢者だったの!?」
宿に帰って話を打ち明けた時の反応は、想像通りのものだった。
「そうなんだよ。今まで黙ってたけど。」
「本当に?嘘じゃないよね。」
「信じられないのもわかるけど、嘘は言わないよ。俺もフェイさんが賢者だから手ほどきを受けてるんだ。」
話を聞いた4人は当然驚いていた。しかしロディの説明を聞いて納得したのか、ナコリナはあきれたようにため息をつく。
「はぁ、ロディがすっとフェイさんのもとに通ってるから、何かあるとは思っていたけど。まさか本当に賢者だったとはね。」
「それで、賢者のフェイさんが私たちパーティを晩餐に招待したいってことなの?」
「そう。これが正式な招待状。」
そう言ってロディが手紙を目の前に出した。一般市民の手紙とは明らかに異なる、箔押しされた花の模様が入った上質な紙で、きちんと蝋で封がされている。
「はあ、こんな手紙まで・・・。意外にすごい人なのね。エロ賢者だけど。」
「それに晩餐会って、かなりお金持ちなのね。エロ賢者だけど。」
ナコリナとエマは気が進まない顔をしている。
しかし彼女たちを連れてこなければロディの稽古は終わりになってしまう。ロディは少し必死に説得した。
「だ、大丈夫だよ。スケベかもしれないけどフェイさんは悪い人じゃないよ。長い間接している俺にはわかるんだ。」
「でもねぇ・・・。」
「私は絶対に行くのだ!」
と、ここでレミアが割って入ってきた。
「賢者の『ばんさんかい』なのだ。きっとおいしいものが出るのだ。」
「レミア・・・。」
「それに、あのフェイ爺さんは嫌な臭いはしなかったのだ。そして私にご飯を食べさせてくれるのだ。きっといい人なのだ。」
レミアの言葉は、後半部分はともかく、フェイが悪い人ではないという補強にもなった。ロディは心の中でレミアに感謝したのだった。
「仕方ないわね。招待されましょうか。エマとテオはどう?」
「まあ悪い人じゃないなら、1度くらい行ってもいいかな。」
「俺はうまい飯が食えりゃなんでもいいぜ。」
ということで、何とかパーティメンバー全員でフェイの晩餐会に出席することに決まり、ロディは胸をなでおろした。
「で、いつやるのかな?」
「明日の夕刻ごろ、屋敷に直接来るようにって。」
「屋敷ってどこにあるの?」
「中心部のところにあるでかい屋敷だよ。場所は俺が案内するよ。」
「でかい屋敷!?夕飯にすっげえ期待が持てるな。」
「服装はどうするの?礼服とか持ってないけど。」
「普段着でいいって言ってた。」
「それでも、ちょっとはいい服を着た方がいいんじゃない?明日買いに行きましょうよ。」
などと、5人は明日のことについてあらかた話し合いながら夜も更けていった。
◇◇
翌日の夕刻。
5人は連れ立って街を歩いていた。昼間に買った、少しだけ良い服を着て、少しだけ緊張しながら。
「なんだか中心部に近づいているんだけど、本当にこっちにあるの?」
「大丈夫大丈夫。心配せずについてきて。」
ナコリナたちの心配を笑顔で一蹴してロディは先頭を歩いていく。
フェイからは、今日は正門から入るようにと言われている。なのでいつも稽古で使う地下道は使用しない。直でフェイの屋敷に向かうのだ。
いよいよ王宮が近くなって、4人が少し心配そうにそわそわしてきた。これほど王宮近くに居を構えるのであればそれなりの地位と財産があることになる。やはりフェイは本当に賢者なのかも・・・と、昨日は半信半疑だった気持ちが信じる方に傾いているようだ。
「見えたぞ、あれだよ。」
「「「「!」」」」
道の角を曲がったところで、前に見えた屋敷をロディが指さした。その先には、元王宮の離宮として使われていた現フェイの屋敷。
4人は驚いて目を丸くしている。それを見てロディは、自分も最初に見た時は今夏顔してたのかなと思い、可笑しくなってクスリと笑った。
「これ、王宮じゃないの?」
「昔はそうだったらしいよ。一部を払い下げられたんだって。」
「・・・信じられない。」
エマがつぶやく。その感想は、いまから自分たちがこの屋敷に入ることになることなのか、それともフェイが本当に賢者だったことなのか、定かではない。
「すごいのだ。『ばんさんかい』はぜったい美味しいものが食べられるのだ。」
一人だけ素早く普通の状態に戻ったのはレミア。
「お前、他に考えることないのかよ。」
それを聞いて素早くテオがつっこむ。
「おいしい食事は大事なのだ。絶対必要なのだ。」
「ふふ、そうね、その通りだわ。」
「私もおいしいもの食べたいもの。期待が高まっちゃうわ。」
レミアにつられ他の3人も気を取り直し、いつもの調子に戻った。レミアは相変わらずいいムードメーカーだった。
正門の前にたどり着き、衛兵らしき人にロディが話をした。
「ロディです。パーティメンバーを4人連れてきました。」
「主より話は聞いています。どうぞお通りください。」
門の扉はスムーズに開かれ、何の問題もなく5人は敷地内へと足を踏み入れた。
「わ、本当に入っちゃったよ。びっくり。」
「もう信じないわけにはいかないわね・・・。」
「おいしい料理、なのだ。」
「お前は本当にそれ以外ないのかよ・・・」
初めて屋敷に入る4人は、それぞれの表情で屋敷へと進んでいく。
その様子を楽しそうに横眼で見ていたロディは、ふと視界に入ってきたものに目を止めた。
「あれは・・・馬車?」
屋敷へ続く道。その正面玄関近くの脇に、馬車が1台止まっていた。
その馬車は2頭建てで、黒を基調とした豪華な意匠が施されていて一目で高級だとわかるほどだ。
ロディはそれを見て首を傾げた。フェイの馬車、というわけではなさそうだ。
ロディはフェイが馬車を使うところを見たことはない。持っているかもしれないが、少なくともこの屋敷では見ていない。それに今から外出するわけでもないので、そこに馬車があるのは違和感がある。
(もしかして、来客?)
フェイは今日の夜は自分たちと夕食を取る予定だ。しかしにもかかわらず来客ということはどういうことだ?屋敷内に入っているので、招き入れているということだ。誰かと一緒に、という話はロディは聞いていない。
ロディは疑問が解明できないままに屋敷の正面扉までたどり着いてしまった。
「おお、よく来たのう。ナコリナちゃん、エマちゃん。」
扉が開き、待ちかねたようにフェイが飛び出してきた。そして一直線にナコリナに走り寄る。そのままナコリナに抱き着く勢いだ。
「!エロじじい!」
ナコリナは予期していたかのように右手を素早く前に出して、フェイの頭をガシリとつかんで勢いを止めた。そしてギリギリと指に力をこめる。
いわゆるアイアンクローだ。
「い、いたたた。ギブギブ!!」
思わぬ反撃を食らい、フェイはナコリナの手から逃れて後ろに離れた。足取りをふらふらさせながら、フェイはつぶやく。
「せっかくの再会なのに、強烈な挨拶じゃのう。」
「抱き着こうとしたフェイさんが悪いでしょう。」
「ま、これも愛情表現というやつかの。」
「違います!」
なんとも懲りないフェイの相変わらずの行動に苦笑いしたロディは、ふと屋敷の中に目をやった。
(あ、だれかいる。)
そこには2人の女性が立っていた。多分ではあるが馬車に乗ってきた人だろう。
その人物を見てロディは少し驚く。1人はロディが全く知らない人物だが、もう1人はロディも知っている人物だったからだ。




