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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
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祭りと列車

祭り……か前の世界で最後に行ったのはいつだったか大学の帰りに立ち寄ったのが最後か?少なくとも大人数できたことは無い。


「うわぁ……」


王都で開かれる祭りというのである程度人混みは覚悟していたがこれはひどい……。目抜き通りを埋め尽くす人、人、人そして屋台に群がる人、人、人。ある程度列が形成されているが某夏の祭典には劣る。


「なぁ、なんの祭りなんだ?」

「公理教会が定めた聖人の誕生日らしいわよ」

「聖ロンテールですね。身売りするしかない家族に施しとして金貨を放ったら靴の中に入り、家族が救われたという逸話からこの日はプレゼントを贈るという習慣があります。」

「なるほど?クリスマスみたいなものか」

「?」

「気にすんなこっちの話だ。それよりもリン。屋台荒らしはするなよ?」

「む、主はひどいな。我とてそんなに大食漢では無いぞ。」

涎を垂らしながらそんなことを言われても説得力は皆無である。

「まぁ、とにかく逸れるなよ?」

「うむ!」

尻尾をたしたしと振る様は最早犬だがリンは大人しかった。むしろアリスが年相応のはしゃぎっぷりでリンを扇動し夜は更けていった。

祭り終盤で豪華絢爛な山車のパレードが始まり、王城へ辿り着くと綺麗な花火が上がった。花火の完成度は前の世界のものと比べても遜色なく。とても綺麗で幻想的だった。

「ユウ様、コレを。」

花火の合間にルウが渡して来たのは幾何学模様の描かれた護符だった。目利きの情報によれば呪いにある程度抵抗を持つらしくルウらしさがあった。

「その……お礼です。」

「おう。ありがとう。」

こちらこそいろいろな面で助かっているのだが……ここは言わないでおこう。

「じゃあ俺からはこれだな。」

何か準備があった訳では無いので露店で売っていたブレスレットに付与術で永続エンチャントを施した物を渡す事にした。効果は魔力上昇と消費軽減である。どうやらアイテムを装備した状態での重ねがけは可能なようなので、魔法剣士の様な戦い方のルウにはいい相性だと思った。


「あ、ありがとうござます!大切にしますね!」


ルウは早速装備すると嬉しそうに笑った。

「我もあるぞ主よ。」

そう言うとリンは黒い鱗を取り出した。

「我の鱗だ。鎧に組み込めば我の加護が得られる」

「お、おう。ありがとう。えーとリンはこっちだな。」

そう言って俺は速度と攻撃力上昇のエンチャントを施したマフラーを渡す。一応戦闘時は端を服の中に仕舞うように言い含めておいた。

「おおっこれは凄いな!身体が軽い」

「ねぇ、そのエンチャントってどう付けてるのよ」

「?そりゃ秘密だ。」

「えーケチー。」

その後もプレゼント交換会は続き、久々にゆっくりとした日を過ごせた。


そして。夜は明ける。無慈悲に、冷酷に。誰に対しても平等に。

「……。起きろ。」

「……我……まだ……眠……。」

「起きろ。ったく!なんで部屋別なのに入ってくんだよ。起きろって言ってんだろ!」

ベッドから起き上がり、もはや恒例となりつつあるリンを起こしにかかる。やれやれ……手間のかかるドラゴンだこと……。

「んあ?あれ?我のベッドは?」

「寝ぼけてんのか?ったく。今日は出発だ。」

「あぁ。なるほど。そうだったな。」

「ユウさーん……あ、えと……。」

「あぁ?クリス。勘違いしているなら今すぐ意識を刈り取って置いていくぞ?」

「い、いえ!自分は何も見てないっス!」

「勘違いすんな。0歳と何かあるわけねぇだろうが。」

「え?リンさんって……0歳なんスか?」

「生まれ変わってまだ1ヶ月くらいだぞ?このドラゴン」

「そうだな。」

「え?えぇっ?いや、でも……。」

「とりあえず、飯食ってちゃっちゃと王都を出るぞ。今度は何があるか分かったもんじゃない。」

昨日祭りが始まった頃に武器屋のおっちゃんから防具は貰った。魔法金属があしらわれた軽金属鎧で魔力を少し消費すると重さを消せるというものらしい。胸元の内側にポケットが取り付けられ、その中にリンの鱗を入れたら全体が黒色になり、目利き調べで防御力が爆発的に上昇した。さすがドラゴン素材である。

「ユウが金属鎧ってなんだか奇妙ね。音がしてないけど?」

「あぁ、『隠密』で消してる。金臭さは消えないがな。」

「……そう。」


王都からひたすらに西へ向かう。平地がどこまでも続き、深い茂みから少し魔物が飛び出してきたが難なく倒し、進む。しばらく歩くと線路が見え、遥か彼方に駅舎のようなものが見えた。


「鉄道があるのか」

「あれは軍のッスね民間人はお断りッス」

「あぁ、そういう事か。」


軍の兵站路線を解放などしているはずもないか……。ただ、戦争状態でもないのに路線だけ確保しておく……というかこんな平地に線路だけ敷いてあるなんて……。

「無用の長物と言いたげですね。」

「あぁ。実際この辺は魔物もいるみたいだしわざわざ国外に敷設しておく意味は余りないだろ?」

「えぇ。その通りです。ですがここは元々王国の領土でした。しかし、敵国の勢いに押され、王国の版図は縮小して行きました。その時の名残を今も使ってるんですよ。」

「へぇ。でも、それじゃいつ狙われるか分かったもんじゃないな。」

少し近くで何かが鳴る。音界の範囲を広げると高速で接近してくる例のものの姿を鮮明に捉えた。

「お、列車が来るな。忍び込んで楽するか?」

「何言ってるんスか!そんなことしてバレたら国賊扱いっすよ!?」

「お前らは交渉次第でどうにかなるだろ。俺達3人は忍び込んでもバレないだろうしな。」

列車は目の前を通過していき、駅舎のようなものに一時停車した。その見た目は戦車のようで、四両編成だった。架線は見当たらないので恐らく蒸気……もしくは魔法的な何かかもしれない。取り敢えずダメもとでアリスが行き先を尋ねると車掌はすんなりと「エストリンデ方面行き」だと言った。昨日調べた限りではエストリンデから更に西へ半日ほど言ったところにお目当てのザリューという街があるはずである。アリスが是非乗せて欲しいと頼むと車掌は二つ返事でOKし、アリスを車内に招き入れた。

「さて、俺達も行くか。」


車両後方で3つの影が動き出す。地獄のような列車は暫くあとに牙を剥いた。

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