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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
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悪意の勇者

「リン、アリスとルウを連れて避難しといてくれ。あとで連絡する。」

「……分かった。あまりやりすぎるなよ?」

「努力はしよう。」

「あの……ユウ様?」

「ルウ。アリス。行くぞ。ここから離れるのだ。」

「私は無理よ?あの男を解放することになるわ。」

「……。勝手にしろ。」

「どうせ尋問する光景を私に見せたくないとかそんな配慮でしょ?要らないわそんなの。私カタギじゃないし。」

「……。」

「ちょっと?黙らないでもらえる!?」

「カタギじゃないって……ヤクザ屋さんか?」

「いいえ。まぁ、近いけどマフィアのボスの娘よ。」

「あぁ。そう。」

「さて、さっさと終わらせて帰りましょ。『あの方』とやらはちょっと興味があるわ。」


そういうアリスの表情は冷たく、まるで幾多の血生臭い現場を見てきたようなそんな迫力があった。

「あぁ、ここじゃなんだし部屋行きましょ。尋問室。」

「……あるんだ……。」

「え?日本に住んでた時も家にはあったわよ?普通無いの?」


この箱入り娘……親の顔が見てみたい……。


チョイチョイとアリスが水でできた牢屋を操作すると水で出来た縄が男を拘束し口を塞ぐ。何とか鼻で呼吸しているようだがその息はとても荒々しい。


アリスは大きな鍵束を出すと近くのドアへ鍵を突き刺す。するとドアはガチャリと大きな音を立て、椅子しかない殺風景な部屋が広がる。


拘束具の着いた金属製の椅子に黒っぽくも艶やかな材質の床、そして昔給食の配膳に使っていたような幅広の台車。その上にはのこぎりやノミ、ペンチやハンマー等の工具が並んでいた。

もちろん日曜大工に使うのではない。生物であれば当然持っている「痛み」を与え目的の情報を奪うためである。

「わー本格的ー」

本格的にいたぶる気なのか回復薬や魔力水まで準備されている。

「棒読みな感想どうも。」

「それで?アリスは拷問の経験があるのか?」

「いいえ。そんなに無いわ。精々部下がどっかのゴロツキから情報吐かせるのに拷問しているところを見たことがあるだけ。」

「なかなかバイオレンスなご家庭で……。」

「どうせユウも変わらないでしょ。敵を見た時の目で分かった。」

「まぁ、そんなに変わらねぇかな。」

暗殺専門であり古い血が流れる裏じゃ有名な殺し屋さんと日本の裏で暗躍していたマフィアさんの共同作業である。だが、流石に年端も行かない少女に血生臭い拷問風景を見せるのも気が引けるので今回は引いてもらった。

「さて、まずは名前から聞こうか」

「……。」

「やれやれだんまりか……。黙っててもいいことないゾ?」

「なら殺せ。」

「まぁ、殺した方が手っ取り早いけどな……。オタクの持ってたあの拳銃……。ありゃ何だ?」

「知らん」


男の顔面を水の張った洗面器に叩き込む。


「嘘は良くねぇな。てめぇが饒舌に語ってたろうが?知らねぇわけはねぇはずだろ?」

「ぐっ……貴様それでも勇者か?万人を助ける救世主か?そこらの暴漢と何ら変わらないではないか!」


ニコリと笑顔を向ける。すると男は今度は何をする気かと身構えた。

「俺は別に勇者になりたくてなったわけじゃねぇ。万人の救世主?知らねぇな。俺は俺だ。それに万人の救世主様を狙ったお前は何様なんだ?なぁ」


微笑んでいるが目は笑っていない。

「私はうごっぼぼぼ」

口を開きかけた途端に洗面器に叩きつけられる。意識が遠のきかけた頃無理やり浮上させられて飛ばしてしまいたかった意識を取り戻す。

まともな思考はまとまらず、まともな会話すらままならない。男は眠ることすら許されず、飯も与えられず、水責めという拷問を受け続けた。次第に抵抗力を失い、精神がボロボロになっていく。


「もう一度聞く。お前は何者でなんの為に俺らを襲ったんだ?」

「わ……私は……公理教会の司祭で……第1王子の命によりポーンの勇者とその一味を拘束し、処刑するつもりでした。」

「あの方とか言ってたな?それは誰だ?」

「それは……。」


「ユウ。お昼出来たわよ。……あら、お邪魔だった?」

「いや?とりあえずこいつがどこから来た刺客なのかは分かったからもういいや。」

「早……。まだ2日も経ってないのに……。」

人の精神に多大なストレスを与え、正常な思考力を奪っただけである。

その間睡眠も食事も何も与えられず、ただ刷り込まれるように「お前は何者?」や「目的」を聞かれ続けた。拷問は絶妙に相手の意識をコントロールして行くかが鍵であるとは誰の言葉だったか……。

「さて、それじゃあ報復と行こうか」

「ねぇ、あなた……ユウなの?」

「?何を聞いている?俺は悠であり俺たちもまた悠だぞ?」

「アリス、離れろ。今の主は暴走している。」

「暴走?」

「は、何を言ってるんだ?俺は俺だ。悠だ。」

「ならば問おう。主は何番目だ?」

「……何……番目……?何を言うかと思えば()()()だろ」

リンの様子が変わる。怒気を孕んだその瞳は眼差しだけで人を殺せそうな勢いである。

「ええい。意気地無しが!自身が道具に飲まれてどうする!呪器共め!さっさと主を解放しろ」

「おー怖。流石は竜眼。俺たちの正体にも気づいたか。」

「あぁ。よくもまぁそんな形で我が主に取り入ったな。」

「俺たちが憑いた時にゃこいつはまだ幼かったからな。自我なんて簡単に乗っ取れる」

「ちょ……ちょっと?何の話?ねぇ。」

「ユウ様……?お疲れなのですか?」

「クハハハッまぁ、そろそろ疲れたな。じゃあとはよろしくナ〜」

「二度と来るなというか主の心から出ていけ。」

「最早こいつは俺たちと同化しちまってる。だから、俺は俺たちであり俺だ。つまりこいつ自身が確固たる自我を持ち、俺たちを超える何かを持たない限り俺たちはこいつから離れることは無い。だからよリン。こいつから目を離すな。こいつの自我は弱い……。」


そこまで喋り終えると俺は意識を手放した。


ヒロイン……誰なんだろというか

誰だと思います?

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