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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
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呪いと勇者会議

日本には表沙汰にできない事件を専門に扱う家があった。その歴史は古く鎌倉時代にはその仕事をしていたという。初めのころは名前もなかったがしばらくすると通り名がついた。ソレは「出逢った奴は魔の者の様に思える」といううわさからついたもので『逢魔』と呼ばれた。逢魔は暗殺を専門とし、歴史的な事件の裏にも関与してきた。武術から派生した独自の体術を使い、暗器を用いた戦いをするとされてきたがその正体を暴き出したものはいなかった。逢魔への依頼は当代の当主に話をつけねばならずその当主へは各街にいるとされる密偵を頼らなくてはならない。話がつけば依頼をし、その依頼は完遂される。


俺はそういう家で育った。

「悠!その動きじゃだめだ!今ので三回は死んだぞ。」

「悠!そんなんじゃ当主は継げませんよ!」

正直家では肩身が狭かった。だからかもしれないが俺は高校を卒業すると同時に家を出た。その時には8つ離れた弟が頭角を現していたし、俺の肩身はさらに狭くなったからだ。

武術の家元として普段活動している父も『依頼』には厳格だった。もともと当主を継ぐ為に叩き込まれた桜馬真流は継承していたが使う機会はなかったし使いたくもなかった。

桜馬真流は簡単に言えば人を壊す技術だったからだ。首や心臓、目や関節を破壊し、殺す技術である。「俺」が「俺たち」になったのは中学3年の春だった。家の倉にあった不思議な暗器を手にした時である。その暗器は当主を選び当主足りえる『器』を知る呪われた品だった。そんなものに封印された「力」が中三の心をかき混ぜ、八つに分けた。その日から実は器に認められた次期当主になった。八つに分かれた心は固有の人格を持つことになり、普段は成りを潜めてもらった。そうしないと日常生活が不便になるからだ。


出来ればこんな力使いたくはない。だが、先ほど神と名乗った奴から依頼を受け、高揚したのか「俺たち」の暴走が始まった。

「俺たちは金目者もが欲しいだけだ。だが、知られちゃ殺すしかない。」

「奇遇だな。こっちも『俺たち』が出た以上お前らを殺さなきゃいけない。知る人は最小限にしておきたいからな。」


近くに落ちていた小石を投擲し、細い路地の先にいたゴロツキを仕留め、肉食獣の様な笑顔を向ける。

「ひっこ、こいつやべぇよ」

「さっきまでの威勢はどうした?」


グチャりと手の中でたしかに何かが潰れる感触。そして、苦しむことなく崩れ落ちるゴロツキ。

次々と屠られていく手下達を見た男は一挺の拳銃を取り出した。

「おいお前!そこまでだ!悪かった。お互い何も知らない。何も見てない。それで良いだろ!俺たちの負けだ!」

「……お前……何持ってる?」

「え?いや、コレは……。」

「どこで手に入れた?」

「い、いや、コレはオジキから持たされたファミリーの証で……。」

「……。」

周囲にいた構成員は全て片付けた。その事実により『俺たち』も満足したのか再び身体の使用権が戻される。

「主よ……何か呪いでも受けているのか?」

「ん?あぁ。まぁ、呪いだなありゃ。でも言ったろ。仕事は継いでない。技術と道具だけ受け継いだだけだ。」

「あの呪いは自身の心まで犠牲にしている。あまり乱用するな。」

「……。竜眼ってのは凄いな。」

「あぁ。そうだとも。主の傍にはすごい奴がいる。だから主が全てを背負うことは無いんだ。」

「……。」


翌朝憲兵隊は長年追ってきた犯罪グループの一派が全滅した事を知る。規模の大きさからグループ同士の諍いかと思われたが死亡していた者達が同一グループの者達だった為グループを狙った何者かの犯行と断定された。


時は経ち、勇者会合前日の夜。アリスは俺達の部屋に訪れ打ち合わせを行った。


「いい?明日は寝坊しないでよね!」

「善処しマース」

「リン、ルウもユウを起こすのよ?」

「「はーい」」

「ったく……。」


失礼な奴である。時間にうるさい日本国で育ち毎度締切に追われてきた社会人に対し「寝坊」など……。まぁ、サボりの理由なら10は考えつくがあえて口にはしない。


「もう。心配だから明日の朝迎えに来るわ。」

「そんな事してるとまたあの脳筋勇者が襲ってくるぞ?」

「その時の対処はユウがやって。私は関わり合いたくない。」

「んな事言われてもなぁ」

「主よ。ほかの勇者の戦力を把握するのに今回はいい機会だぞ?」

「知りたいヤツらは今日来ないぞ。多分。」

「キングとクイーンは来ないそうね。」

「後おそらくルークも来ない。」

「ではナイトとポーンとビショップの勇者とその従者しか今回は来ないのですね。」

「そういう事。」

「良いからもう寝なさい!」

「お嬢も寝る時間ッスよ。肌荒れますぜ?」

「っうるさい。」


クリスの指摘もあってか素直にアリスは去っていった。

その日の夜。不思議な力を感じたが害がなかった為、何も言わなかった。


まさか翌朝目覚めると宿の部屋ではなく真っ白な空間が広がっていると誰が予想できよう。相変わらず油断して変身を解いているアホ竜を除き誰もが驚いた。


「何よこれ!」

「うっわ白!なんスかこれ。あ、お嬢荷物は無事なんでテントの中で着替えてくださいね。」

「もう少し緊張感を持ちなさいよ!でもありがとう。」


あちらも元気そうである。

「ユウ様、これは一体……。」

「知らん。一応音界でサーチしたが何も無い。大方固有結界みたいなもんだろ」

「固有結界だと!?」

うちのアホ竜がムクリと起き上がりいきなり飛び立つ。

「凄いな。魔術的な綻びがない。」

「歩兵!てめぇの仕業かァァァ」

いつもの猪突猛進で脳筋勇者が突っ込んできたが軽くいなして床に叩きつけ意識を奪う。


「誰がこんな大掛かりな真似するかばーか。ガキは大人しく寝てやがれ。」


ピクリとも動かないが一応加減はした。死んではいないはずである。

「あはは。君たちは愉快だな。」

振り向けば純白の円卓が設置され、一人の男がケタケタと笑っていた。

「お前こそ。何者だ?何を知っている?」


殺意を滲ませながら問い質すと男は肩を竦めて状況の説明を始めた。

「どうも。私はルークの勇者。名前は……まぁとある伝承から取ってマーリンとでも名乗ろうか。見ての通りコレは私の固有結界さ。会議の為に態々集まるなんて馬鹿げているし、どうせキングとクイーンは来ないからね。強制的に場を設けさせてもらった次第さ。」

「なるほど。引きこもりには外に出るのも理由が必要だもんな。」

「君、さっきからうるさいよ。」

「生憎寝起きは機嫌が悪いんだ。お前の話通りならキングもクイーンもいるんだな?」

「あぁ。居るとも。さっきから固有結界の破壊を試みててそっちに魔力を割いているくらいだ。」

「そうか。取り敢えずここに呼べよ。話し合いはそれからだろ。」

「確かにそうだね。」


マーリンが指をパチンと鳴らすと椅子に縛り付けられた状態で男と女が現れる。いつの間にか脳筋勇者も縛り付けられアリスと俺は席に着く。

「さて、それでは全員席に着いた事だし有意義な時間を凄そうじゃないか。」

「離せ!俺はこのような些事に付き合わされる筋合いはない!」

「離しなさい!私は忙しいの!」

男と女は騒ぎ続けているがマーリンはどこ吹く風と受け流し話を続ける。

「やれやれ。では第1回の勇者会議の開会をここに宣言する。」


誰の意見も聞くことなくマーリンは無理やり開会を宣言した。

議場は静まり返り、誰も口を開くことは無かった。

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