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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
12/27

勇者と悪魔

噴水のあった円形の広場。入口はひとつで出口もひとつ。その両方から押し寄せる悪魔を宿した亜人たち。鋭い爪、硬い筋肉、圧倒的膂力……。どれひとつとっても人間が敵う相手では無い。辛うじて戦えているのは悪魔がまだ肉体を完全に支配している訳ではなく、死体に憑依しているだけなので肉体を破壊すれば何とかなるからだ。


偶に火球が飛んでくるあたり敵が全て無詠唱を取得していると考えるべきだろう。


防御上昇に継続回復、速度上昇その他諸々の支援スキルを乗せているがそれでも防戦一方。戦線の崩壊も時間の問題である。

「どうした勇者?もうお疲れかよ!」


1人仕留めたところに別の1人が襲いかかり舗装された地面に叩きつけられる。

「がはっ」


既に満身創痍。意識すら遠のいていたが仕返しとばかりに体を捻り首を回転させる。


あたりを見渡せどいるのは化け物共。数を減らすには破壊力が圧倒的に足りていなかった。

「あーくそ。巣をぶち壊されたありんこかよテメェらはァ!」


その時、上空から声が聞こえた。

「煉獄の爆炎よ大地を穿て!『爆炎波』」


噴水広場上空に現れた人影は白い火球を落とし、去っていく。

嫌な予感がした俺は近くの頑丈そうな建物に逃げ込み、身体を低くして衝撃に耐える姿勢をとった。すると数秒後、爆音と爆風が吹き荒れ、壁が吹き飛んでいった。


「俺ごとやるんじゃねぇよ!」

「生きてるか〜主ー」

「死んでると困るのはお前じゃないのかアホ竜!」

「別に困りはしないが……。おい、アリス。どうやら大丈夫そうだ。」

「相変わらずしぶといわね。」

「おい、アリスお前さぁ……。」

「住人の避難は終わってると聞いてるわ。問題は無いはずよ?」

「俺がいるわ!」

「生きてるならいいじゃない。」

「……。あーもう疲れた。あとは任せた。」

「……無事でよかった。」

「あ?」

「何でもない!」

「あっそ。」


ふと、何気なくマップを見ると赤い点が高速で近づいていた。

「おい、アリス!何かくるぞ!」

「え!?」


突然の事に意識が別な方向に向いたアリス。咄嗟に隠れる事は出来そうにない。というか速度が早すぎる!

「ったく!」

縮地のスキルで間を詰め抱えて横に飛ぶ。意外と軽い。

「なっ!」

近くにあった荷馬車の陰に隠れるとその勢いのまま隠蔽スキルを発動させる。

「何すんのよこの変態!」

「黙っとけ。敵だ。アホ竜はどこだ?」

「アホ竜言うな。主、何かとんでもないものが来るぞ!」

「ユウ様、この気配は……。」

「あぁ。ヤバい……。」


ドゴッと大地をえぐり土煙を上げながら敵はそこにいた。大柄な肉体をバネのように使い、一直線でこちらに飛んでくると拳を叩きつけてきた。


「あ?確かこの辺にいたと思ったが?ぶっ飛ばし過ぎたか?それとも何も残らなかったのか?」

「……どんな馬鹿力だよ……。テメェ……事と次第によっちゃ取り返しのつかない事になるぞ?」

「あ、生きてた。」


敵の正体は人間だった。歳は16 歳くらいのちょっと筋肉質な青年である。その表情には心底意外と出ており、やはり初めから俺を殺す気だったようである。

「まぁ、単純な『力』任せなら問題ない。そのまま返せばこちらに損害ないしな。」

「は?」

「お前、痛覚ねぇのか?アドレナリン出過ぎだろ。」

男の拳は砕け腕の骨が露出しありえない方向にへし折れている。

「俺の体術は返すのが得意なんだ。だからお前が怪我した。素直に話すなら治してやってもいいがどうする?」

「……。クソ。お前、話に聞いていた無能より使えるじゃねぇか」

「そりゃどうも。少なくともただ殴れば相手を殺せると思ってるアホよりは使い勝手がいいかもな。」

「はっ。俺はディード。これでもナイトの勇者だ。首魁の悪魔はぶっ殺してきた。」

「それでなんで俺を殺す気で殴ったんだよ」

「というか私を離せ馬鹿!」

後ろに隠れていたアリスが前に出ると唐突にナイトの勇者の顔面を叩いた。

「付きまとうな!」


と心底嫌そうな顔を見るにだいたい予想がついた。このディードとかいう男、アリスに気があるようで……。アリスはそれを嫌がっている。そんな中アリスが見知らぬ男に抱えられ瓦礫の陰に隠れてしまえば相手を殺す気になっても……仕方ない……のか?


「おい歩兵。」

「悠だ。桜馬悠。」

「お前、あの子を泣かせたら許さねぇからな?」


ふむ、どうやら勘違いしたらしい。アリスは俺から見ればまだ子どもである。故に興味はない。

「あーはいはいどうでもいいな。ルウ、ウーノ、リン、被害状況を見てきてくれ。」

「了解です」


その後の調査で見えた今回の被害は

死者426名(操られていた亜人達を含む)

行方不明者219人(領主を含む)

総勢645人。街の人口の3分の1にも登った。王都は戦勝ムードに沸いたがアーラムでは葬式ムード全開でその温度差は激しかった。

「主よ。あまり気にするな。今回の災厄は過去最小の犠牲で済んだ。流行病の方がまだ死んでいる。」

「あぁ、そうだろうな。」


ルウは亜人の巫女という立場上冠婚葬祭の司祭を務めることが多かったらしく今も葬儀を執り行っている。俺はルウから教えて貰った鎮魂歌を銀の笛で吹き、今回散った命を送った……。



一方。悪魔界もわいていた。


「くっそがァ!何なんだあの世界は!くそっだが、俺達には永遠の命がある!その命で次はあの世界を落としてやる!」


ナイトの勇者に倒され、悪魔界に強制送還された彼は周囲に当り散らしていた。


「やれやれ、負け犬はうるさいね。」

「何だと!?」

彼の後ろには白い髪の少女だか少年だか分からない声音の子どもがいた。

「どんなに周りに当たったって君は負けたんだ。だからここにいる。」

「何だてめぇは足の先からミンチにしてやろうか?」

彼が怒り狂い襲いかかるも既にその者の姿はない。

「やろう!隠れてねぇで出てこいよ。腰抜け!」

「いやはや。本当に君はどうしようもないな。ねぇ、チェスって知ってる?」

「きゅ、急になんだよ」

「チェスでは負けた駒は死ぬんだよ?」

「は?まさかてめぇ……。」

「ふふふ。じゃあね負け犬君。最後に最高の踊りを見せてくれ。」


彼は気づいた。周り既に見えない壁に囲まれていることに。自分はこの訳のわからない結界の中に……。

「な、何しやがる」

「足元を見てご覧。」

足元には5センチ程の小さな芋虫がいた。ウネウネと近づくそれは悪魔界で最悪の存在である。

「ぎゃぁぁぁ!!!」

「芋虫位でギャーギャー騒ぐなよ。」


悪魔は精神生命体と誰かが言った。そしてこの芋虫は精神を喰らう特殊な食性でつまるところ悪魔の天敵である。少しでも喰われれば虫の体液が体を巡り徐々に徐々に身体が壮絶な痛みと共に霧散していく。


「生きたまま虫に食われるという拷問が昔あったけど。これはこれで愉快だな。ふふ。」


何かは愉快そうに笑うとその場を去っていった。そしてそこに残ったのは小さな蛹だけだった。

次回こそ勇者ステータスを載せます。

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