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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
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悪魔の宴

世界は複数存在する。その事実に気づくものは少ないが何かの拍子に気づいた者がいた。

「ふむ、これが異世界か。あの世界より綺麗なものが多いな。」


悪魔という種族が主の世界で強いものは上へ行き弱いものは見下し、殺す。偶に異世界に召喚され、殺され戻ってくる奴もいたがそういったやつは長く生き残れない。だが、この世界を征するのはどうだろうか?今回俺様を喚んだ奴は既に正気を失ってもはやただの傀儡だ。こいつを操り一先ずはこの街を支配しこの街に部下を喚ぶ。あんな雑魚たちでもこの世界の住人など赤子の手をひねる様なもの。しかし……。この肉体は都合がいいな。獣の血が混ざり合わさることで回復力を底上げしているのか。なるほど。


領主官邸に出現した悪魔は街の奴隷を集め、他の連中に怪しまれぬよう犯罪者として捕まっていた亜人奴隷共を依り代に悪魔を喚んだ。従わぬものは殺し、元の世界に還したがそういった連中を見せしめに使ったことで軍門に下るものは増えた。


「さて、諸君。知っての通り我々に必要なのは肉体だ。良質な肉体ほど強力な力を得ることが出来る。その為にこの街は最初の足がかりだ。最終的にはこの世界を頂く。さぁ、行け!」


朝焼けの空の下災厄の時計の針が1秒を刻んだ。


所変わって我等が勇者は街外れの安宿で幼い頃から続く鍛錬を済ませ朝食をとっていた。

「いただきます。」

「え、と。いただきます。」

「?なぁ主、その『いただきます』というのはどういう意味だ?」

「ん?あぁ。お前らには馴染みがないよな。『いただきます』ってのは作り手に感謝するのと同時に素材になった生き物たちの『生命』をいただきますって意味だ。食べ終わったらご馳走様だ」

「弱いものが強いものの糧になるのは当たり前ではないのか?」

「どんなに弱かろうがどんなに強かろうが『生命』は『生命』だ。それを奪って俺達の『生命』にするのだからそれを正当化するための1種の罪滅ぼしって奴かもな。」

「へぇ。じゃあ我も……いただきます。」

黒っぽいパンに野菜とチーズを挟み、頬張ると口の中でシャキシャキとした食感と濃厚なチーズの旨みが広がる。向こうの世界じゃ忙しくておざなりにしていた朝食が実は重要だったと思い知らされる。

そんな最中、表を見遣ると獣人の血が混じった男と宿の女将さんが何か話していた。

「あ……あんた……自警団の連中に捕まったはずじゃ……。」

「……あぁ。領主が俺の無実を認めて解放してくれたんだ。」

「……。そ、それじゃあ私達、また一緒に暮らせるのね!」

「あぁ。」


普通に見ればドラマチックな展開だが、俺達の目には別な形が映っていた。

「っ。主!気をつけろ。災厄は既に始まっている!」

「ユウ様、危険です。あの男は……」

「あぁ。分かってる女将さん!そいつから離れろ!」


音界による索敵には敵意なしの黄色から敵意ありの赤いマーカーが映し出されている。

「何を言うのです勇者様?」

「勇……者……?」

「え?えぇ。街でトラブルがあったみたいでうちに泊まってもらってたの……。どうしたの?すごい顔よ?」

「そうか……勇者がこんな所にいるとはな……。」

「早くそいつから離れろ!」

「え?あ、あレ……。」


俺が手近にあった皿を投げつけるのと男が女将さんの首を爪で撥ね飛ばしたのはほぼ同時だった。すっ飛ばされた首はコロコロとこちらに転がり、女将さんの最後の表情は驚愕のまま固定された。

「ふむ、勇者の肉体を手に入れれば強力な力が手に入るやもしれんな。」

返り血で赤く染った男はこちらを見やると不敵に笑った。

「二人とも!一旦距離をとるぞ!」


窓を蹴破り気を引くために鉄串を放つが男の爪に阻まれ虚しく消える。

「ちっ」

「主!乗れ!上空に逃げる!」

「あぁ。行くぞルウ!」

「はい!」

「こんな好機逃がすわけないだろ?」

「なっ」

気づけば背後には血まみれになった男が立ち、体重の乗った回し蹴りが炸裂する。

「ぐはっ」

まるで車に撥ねられた様な衝撃が突き抜け二転三転と転がり壁に叩きつけられる。体術で勢いを殺したがそれでも即死を免れるだけだった。

「おや?やはり頑丈だな。殺すつもりだったが生きている。」

「きっ貴様ァ!」

「よせ!ルウ。」

「離して!このままじゃユウ様が!」

「まだ諦めるな。好機は残っている。今は冷静に周りを見ろ。」


リンはルウを引っ掴んで上空へ飛翔した。そして天上から戦いの行く末を見守る構えをとる。

「随分と薄情な仲間だな。まぁ俺達もそんなもんだが。」

「お前……何者だ」

「はっ、お前ごとき雑魚勇者に名乗るものでもない。俺達はそう簡単に名乗ったりしないのさ。」

「なるほど?今のでわかった。」


よろよろとなんとか立ち上がると笛を取り出し取り敢えず回復する。

「随分と余裕じゃない……かっ」


先程同様目で追えないくらいの速度で接近し男は拳を突き出す。それを紙一重で躱すと壁が一瞬で消え去る。

「あぁ。痛かった。まぁ、ファーストアタックは譲ってやったんだ。安らかに眠りな。」


紙一重で相手の拳を躱し、懐に隠している鉄串を心臓のあるであろう位置に正確に突き立てる。そして深く突き刺すと腰に下げたナイフで首を切り開く。

「あ……がっな、い……いつの間に……。」

「生憎だが体術には少々心得があってな。それじゃあサヨナラだ。」

喉を切り裂いたのに喋れたことに驚きはしたがもう一度深く切り裂くと鮮血を迸らせながら男は死亡した。

「ったく……こういう血なまぐさいのは嫌いなんだがなぁ」

ナイフに着いた血や脂を死んだ男の衣服でぬぐい去ると銀貨を3枚女将さんだった死体に掴ませる。


「宿代だ。ありがとさん。」

街の方からは何かが焦げるような臭いがたちこめてきており、既に交戦が始まったようである。


「流石は主。あの化け物を打ち負かすとはな。」

「いや?ありゃ肉体に依存してるから倒せただけだ。本来なら勝ち目すらないかもな。」

「あの化け物の正体を知っているのか?」

「正体?知らん。なんとなくな分かっただけだ。」

「ユウ様!?お怪我は?大丈夫なのですか!?」


突然リンから飛び降りたルウがいきなり飛びついてきたがなんでもないと答えてお茶を濁す。


実際HPバーの7割ほど吹き飛ばされてしまったし……今までで1番死に近い戦いだった。

街をサーチすると先ほど同様魔人となった亜人族が街の人々を襲い、殺しているのがよく分かる。そして、何かの呪いか死亡した人間の何名かは死亡を表す灰色から赤に変化した。


「死体を利用している?何故……。」

上空で戦場を観察していても下からなにか飛んでくる事がある。それは肉塊だったり大きな瓦礫だったり色々だ。


「取り敢えず人命救助か。」

「既に街は混乱状態です。更に……あの化け物を人間が区別することはできません。故にまず敵だけを殲滅しなくてはなりません。」

「ふむ……区別か」

「何名かの生き残りを連れて行くのも手ですが今の状況では厳しいかと。」

区別……化け物……連れて行く……そうか……。

「いい事を思いついたぞ。俺が囮になって化け物共引き連れ回して、ルウとリンで救助だ。」

「なりません。ユウ様が1番危険じゃないですか。」

「適材適所だろ?俺は奴らが羨む勇者の肉体を持ってるわけだし囮の餌としてはちょうどいい。それに、ほかの勇者達が来るまでに少しでも数は減らしておきたい。」

「しかし……。」

「安心しろって。必ず生き残る。だからお前らも十分気をつけて救助に当たってくれ。ほれ、回復薬だ。必要そうなら飲ませろ。」

「……。分かりました。但し!生きて帰ってきてください。あなた様の身は既にあなた様だけのものでは無いのです。」

「あ、あぁ。そうだ。可能ならアリスとも合流しろ。話が出来そうならこちらから連絡する。」

「了解しました。」

「リン、ルウを守りつつ人助けだ。出来るな?」

「むしろ出来ないとでも思っているのか?主よ我を甘く見るでない。」

「そうかい。じゃあ頼んだぞ。それじゃあな」


速度上昇の旋律を重ねて最高速度を出す。そして、ターゲット集中の旋律を吹き散らしていく。

「何だ!この音は!うるさくてかなわん!」

「おい、あそこだ。あいつが吹き鳴らしている。」

「中々の肉体だ!殺してしまえ!」


数十秒街を駆けただけで出てくる出てくる。まるで巣をつつかれた蜂のようである。

「そうそうその調子!オラオラァ!化け物共かかって来やがれ!」

後ろからは魔法弾や瓦礫が飛んでくるがそれを見切り更に駆け回る。

そして、俺は逃げ場のない円形の広場に逃げ込んだ。

「く、ふふ。馬鹿め。態々逃げ場のない場所に逃げ込むとはな。」

「あぁ。逃げ回るのも疲れちゃったのでな。そろそろまとめて始末しようかと」

「笑わせる。貴様一人でこの数を相手にする気か?」


大地を埋め尽くすほど集まった化け物共が皆獲物を見据えて嘲笑している。

「いや?さすがに数は減らすよ。」

「どうやって減らすというのだね?はっはっは。」

「そりゃ……こうやって……カナ?」


鋼蜘蛛という鋼のように硬い糸を出す生き物がいる。そいつから取れる鋼の糸は主に防具に使われ市場でもそれなりに安価に手に入る。この糸は魔力を受けるとさらに硬くなり、縮む性質を持っている。その為、こうして駆け回り、様々な場所に張り巡らされた鋼糸はいつの間にか首に絡まり、魔力を感知して縮みそして、首をはねたのである。

「ふっ猪口才な。しかし数が減ったとて我々の有利は変わらぬぞ?勇者ァ!」


勇者と悪魔の戦いの火蓋が切って落とされた。

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