偽りの偶然
京平
「…むぅ」
朝、起きると体は僕になっており、着ているのはバジャマではなく、学校の制服だった。
京平
「…クナギ、ちゃんと仕返しするからね」
鏡の前に行き、クナギに言い放った。
昨日、クナギはあえて僕に着替えさせないでそのまま寝たから、僕はずっと制服のままだった。
クナギ
『仕返しじゃと?何をするつもりじゃ』
京平
「すぐわかるよ」
僕はヤカンに水を入れ、火にかけて、沸騰させた。
京平
「えっと、確かここら辺に…」
買い貯めしていたカップ麺の中で最も高カロリーのやつを手に取り、わざと鏡の前に立った。
クナギ
『京平!朝からそんな高カロリーな物を食べるでない!お主が太ったら妾まで太ってしまうじゃろうが!』
京平
「べつに僕は太っても気にしないから」
クナギ
『妾が気にするのじゃ!』
京平
「へぇ〜」
僕はカップ麺の蓋を開けて、お湯を入れ、蓋を閉めた。
クナギ
『これは夢じゃ、悪夢じゃ〜』
鏡から聞こえてくる声が五月蝿いので、鏡を伏せた。
カップ麺を食べ終わり、下着や制服を替えて、伏せてた鏡を立て直した。
クナギ
『…鬼じゃ、京平は鬼じゃ』
京平
「そう言うならこのまま学校に行こうか?」
僕は制服に着替えているけど、クナギはパジャマのままだ。
クナギ
『待つのじゃ!本当にそれだけは待ってくれなのじゃ』
京平
「すぐ着替えてよ。時間ないから」
僕は鏡に触れ、クナギと入れ換わった。
クナギ
「まったく、本当に太ったらどうするのよ〜」
着替えの途中、クナギはお腹辺りを気にしていた。
クナギ
「じゃあ換わるわよ」
クナギは鏡を触れて、僕に換わった。
京平
「よし、今度こそ行こう」
僕は外に出て、学校に急いで向かった。
道路のカーブミラーに一瞬映ると『か』って聞こえ、僕は鏡を取り出した。
クナギ
『何故そんなに急いでおるのじゃ?時間ならまだあるじゃろう』
京平
「昨日の視線が気になって、つい住んでるアパートがバレないようにしてしまっただけ」
クナギ
『あやつなら今は久呂木じゃろうが、何も心配せんでよかろぅ』
京平
「念には念をってことで」
クナギ
『まぁよかろぅ』
僕は鏡を仕舞い、曲がり角の手前で立ち止まった。
京平
「スカートの裾?あと髪の毛も…」
ブロック塀の端から学校の制服のスカートの裾と髪の毛が見えた。
多分友達と待ち合わせをしているのだろうと思い、気にせず進むことにした。
???
「あ、あのう…」
声をかけられた気がするが気のせいだろう。
???
「あれ?聞こえてないのかな…?あのー」
きっと他の生徒に話かけているのだろう。
???
「あれ〜、こうなったら…、えい!」
京平
「うわ?!」
後ろから不意に誰かに抱き着かれ、そのまま地面に倒れた。
京平
「…イッタ〜、あれ?中島さん?何してるの?」
中島
「あわあわあわあわ…」
倒れる時、咄嗟に背中を地面に向けたから、押し倒した本人と対面している。
で、中島さんは顔を真っ赤にして、慌てている。
中島
「えっとあのその、声をかけてもなかなか気づいてもらえなかったから…それで…」
物凄く早口だったが、なんとか聞き取れた。
京平
「押し倒したの?」
中島
「あ、いえ、本当は押し倒すつもりはなかっんですが…、何故か抱き着いたら倒してしまって…」
京平
「それより僕達、勘違いされてるけど…」
中島
「え?」
男子生徒
「ひゅー、朝から熱いね〜」
女子生徒
「まぁ中島さん大胆」
中島
「//////」
ボン!って効果音が聞こえそうな勢いで中島さんは顔を真っ赤にして、固まった。
京平
「あれ?おーい、中島さん」
中島
「いっそ、いくところまでいくです」
何か彼女は呟いたが、聞き取れなかった。
京平
「あれ?何で中島さんの顔が近づいてくるの?」
中島さんは目を閉じて、徐々に顔を近づけてきた。
周りの野次馬は盛り上がっていた。
男子生徒
「いいぞー、そのままキスしてしまえー」
女子生徒
「キャー、キスよキス!」
周りからの声に反応しているのか、中島さんは唇と唇が当たる寸前で止まった。
???
「ダメーー!!!!」
中島
「え?!」
聞き覚えのある声と共に、中島さんの顔は遠ざかった。
???
「京平とキスをするのはひななの!」
僕はそれを聞いて、確信した。声の主を…
そして逃げようとしたが、中島さんが僕に馬乗りしているからなかなか動けない。
陽菜
「逃がさないよ」
顔を両手で掴まれ、そして顔が一気に近づいてきて唇に柔らかい感触がした。
陽菜
「ふふふ、ごちそうさま」
京平
「悪夢だ…」
僕にキスしたのは、西尾陽菜だ。
久呂木の幼馴染みで、彼女も僕と同じで神子だ。
中島
「な、な、何なんですか貴女はー!この人の何なんですかー」
固まっていた中島さんが復帰したみたいだった。
陽菜
「貴女こそ何なの?ひなの京平にキスしようとするなんて…」
中島
「わ、私は…彼のクラスメイトです!」
陽菜
「ひなは京平の婚約者なの!」
中島
「こ、婚約者?小学生がですか?」
陽菜
「陽菜は高校せいなのー!」
中島
「えぇー!」
陽菜の見た目が小学生なのは、神子になった時から、体が成長しなくなったかららしい。
京平
「あのさ、2人とも…周りから見られてる」
さっきから周りの野次馬の数が増え続けている。
中島さんはすぐに僕の上からどいて、陽菜は僕を立たせならがら立ち上がった。
京平
「話の続きは放課後ってことで、今は早く学校に行かない?もうすぐ始まるんじゃないかな?」
陽菜
「京平がそう言うならそうするね」
中島
「…わかりました」
2人とも何故か顔を赤くしていた。
クナギ
『お主はようモテるのぅ』
京平
「はぁ〜、何で陽菜がいるんだよ〜」
昼休み、屋上に不法侵入し、鏡を取り出して、クナギと話ていた。
クナギ
『本人に聞けばよかろぅ、でお主はどっちを選ぶんじゃ?』
京平
「クナギ…楽しんでるでしょ」
クナギ
『何を言うかお主は、妾はただお主の気もちを知りたいのじゃ』
京平
「顔が笑ってるよ」
クナギ
『気のせいじゃ』
京平
「あっそ」
僕は鏡を仕舞い、教室に戻った。
中島
「高崎君、一緒に帰りましょう」
京平
「え?中島さん寮じゃなかったけ?」
今朝から思っていたが、学校の寮は僕が住んでいるアパートの反対の方向にある。なのに何で中島さんはあそこに居たんだろう…
中島
「そ、そうですけど…あ、買い物に行くんです」
京平
「ふ〜ん、気を付けてね、あの辺り暗くなると不良がよくいるから」
中島
「その時は高崎君に助けてもらいます」
京平
「何で僕?」
中島
「だって高崎君に…」
陽菜
「京平ー!一緒にかえろう!」
京平
「ちょ!陽菜!?」
陽菜が出しっぱなしの椅子から机の上に飛び移り、机から僕に飛び着いて来た。
京平
「イテテ〜、陽菜、遠距離から飛び着かないでくれるかな?」
当然受け止めきれず、後ろにあった机の上に押し倒された。
陽菜
「近距離ならいいの?」
京平
「…飛び着かないって選択枠は?」
陽菜
「無いよ」
即答され、内心呆れていた。
京平
「陽菜、そろそろどいてくれない?」
陽菜
「じゃあひなのお願い聞いてくれる?」
京平
「何?」
陽菜
「えっとね、この紙にね、名前と印鑑を…」
京平
「絶対に書かないし、印鑑も押さないからね」
陽菜が取り出したのはどう見ても婚姻届だ。
受理されないだろうけど、陽菜の事だ、結婚可能年齢になったら出すつもりだ。
中島
「何でそれを持っているんですか陽菜ちゃん!」
陽菜
「役所に行けばもらえるの」
中島
「そうなんだ…っていつまでに高崎君の上に乗っているんですか〜」
中島さんが必死になって陽菜を僕の上からどかした。
京平
「まったく、陽菜、婚姻届に勝手に僕の名前を書かないでよ」
陽菜
「あ、その手があった」
京平
「するなんて!」
陽菜
「あう〜」
僕は陽菜の頭にチョップした。
陽菜は頭を抱え、痛がっていた。
京平
「あ、しまった…」
陽菜
「あぅ〜、お兄ちゃん痛いよ〜」
陽菜が突然、僕にしがみついて、見上げてた。
中島
「あれ?陽菜ちゃんの様子変じゃないですか?」
京平
「大丈夫、大丈夫。陽菜はいつもこんな感じだから…」
と言うのは嘘で陽菜は僕かクナギのどちらかに叩かれると中にいる神様が出てくるのだ。
陽菜
「お兄ちゃん、他の人と話しちゃ嫌だよ〜」
中島
「やっぱり様子が変です」
京平
「あはは、陽菜〜ちょっとこっちに行こうか〜」
僕は陽菜を教室の外に連れて行き、そのまま屋上に不法侵入した。
陽菜
「お兄ちゃん、ミュウをここに連れて来てどうしたの?」
京平
「やっぱりミュウに換わっていたんだね…」
陽菜の中にいる神様は自分の事をミュウと呼んでいるから僕もミュウと呼んでいる。
ミュウ
「それよりお兄ちゃん…」
京平
「何?」
ミュウ
「今日も満足させてね」
京平
「はぁ…やらないとダメ?」
ミュウ
「明日もミュウでいいならいいよ」
京平
「それはそれで困るから…」
ミュウは一度表に出ると、何日でもミュウの状態が続く。
彼女は自分が満足しないと陽菜には戻らないといゆう非常に面倒な神様だ。
ミュウ
「お兄ちゃん、早くして〜」
ミュウはロープを僕に渡して催促した。
京平
「いや何でそれを持っているの?」
ミュウ
「これもあるよ」
今度は何処から出したのかわからないが、ムチを渡してきた。
京平
「いやだから何でこんな物持っているの?」
ミュウ
「この前買った本に書いてあったの」
京平
「今すぐその本をすてなさい」
今までのやり取りでわかるだろうけど、ミュウは相当なドMな神様なので、満足させるには物理的に殴るのが一番なんだけど…見た目があれなので罪悪感が凄いのです。
ミュウ
「お兄ちゃん、早く縛ってムチで痛ぶって〜」
京平
「はぁ〜」
僕はこの後、ミュウが満足するまでムチで叩き続けた。
京平
「つ、疲れた〜」
陽菜
「京平、何かあったの?」
陽菜はミュウになっていた時の記憶はなく、不思議そうに尋ねられた。
京平
「いや何でもないよ。それより早く帰ろう」
僕は教室に入り、荷物を取った。
中島
「あの、高崎君」
京平
「あれ?中島さん?何でまだいるんですか?」
中島
「あ、あの、陽菜ちゃんのことをまだ聞いてませんでしたし…それに…」
京平
「それに?」
中島
「いえ、何でもないです」
中島さんは首を横に振った。
京平
「陽菜と僕の関係は幼馴染みで…」
陽菜
「婚約者!」
京平
「それは陽菜の思い込み」
陽菜が横槍を入れてきたので、すぐに返した。
京平
「小学生の時にいろいろあって、何故か陽菜は自称僕の婚約者って言うようになった。ってところ」
陽菜
「自称じゃないもん!」
中島
「自称ですか…。よかったです」
京平
「それじゃあ僕は帰るね」
中島
「あ、待ってください!」
僕が帰ろうとすると中島さんに呼び止められた。
京平
「何ですか?」
中島
「何で高崎君は寮じゃないんですか?陽菜ちゃんは寮ですけど、高崎君は寮じゃないですよね」
京平
「それは教えられないよ」
僕は突き放すように言って教室を出た。
中島
「私…聞いてはいけないことを聞こうとしてたのでしょうか?」
陽菜
「まぁ京平にも触れて欲しくない事はあるよ」
中島
「わ、私、謝って来ます」
慌てて梨恵さんは教室を出て、京平を追いかけた。
陽菜
「あ、行っちゃった」
中島
「高崎君!」
京平
「どうしたの?」
下駄箱で慌てた様子の中島さんに呼び止められた。
中島
「あ、あの…さっきはすいません。私、イケないこと聞いて…」
凄い勢いで中島さんは頭を下げた。
京平
「え?!いやそんなに気にしてないから、頭を上げて」
僕は慌てて言った。
中島
「え?でもさっき高崎君、怒ってましたよ?」
京平
「他人に触れて欲しくない事を聞かれるとああなるから気にしなくていいよ」
中島
「やっぱり怒ってたんですね…」
中島さんの表情が暗くなった。
京平
「怒ってないから、大丈夫」
中島
「本当ですか?」
京平
「本当、本当」
中島
「ならよかったです」
中島さんはほっと胸を撫で下ろした。
京平
「それじゃ、僕はそろそろ帰るよ」
僕は靴に履き替えた。
中島
「私も寮に帰ります」
中島さんも靴に履き替えていた。
京平
「じゃあね」
中島
「はい、また明日です」
僕は軽く手を振って、アパートに向かった。
京平
「……陽菜、いつまでついて来る気?」
陽菜
「ありゃ…バレた」
アパートへ帰る途中から陽菜が僕の後をつけていた。
京平
「あのね、足音とそのやけにデカイ荷物でわかるよ」
学校の荷物かわからないけど、陽菜は大きめの荷物を持っていた。
陽菜
「ん〜、やっぱりこれだけ持っているとバレちゃうか…」
京平
「てかその荷物何?学校で使うやつ?」
陽菜
「お泊まりセットだよ」
京平
「へ〜、陽菜は寮なのにどこかに泊まりに行くのか〜」
陽菜
「うん、京平の部屋に泊まるの」
京平
「却下!」
陽菜
「えぇぇ!」
京平
「僕の部屋には泊まれないから」
陽菜
「ヤダヤダヤダ〜、泊まるの〜」
陽菜は駄々をこね始めた。
京平
「駄々をこねない、本当に陽菜は成長しないな〜」
陽菜
「ひなは成長してるもん!」
京平
「駄々をこねながら言われても説得力がないよ」
陽菜
「むぅ〜」
陽菜は駄々をこねるの止めた。
京平
「ほら寮に帰らないとみんな心配するよ」
陽菜
「むぅ〜、せめて京平が住んでるアパートを見せて」
京平
「見るだけだよ」
陽菜
「わかった」
僕たちはアパートの前まで来た。
陽菜
「…普通だね」
京平
「何を期待していたのか知らないけど、これが僕が住んでるアパートね」
陽菜
「うん、わかったよ。それじゃね京平」
京平
「気を付けてね」
僕は陽菜を見送り、部屋に入った。




