5日目 政権交代
五日目の朝、雨は上がっていた。
雲は残っているが、視界は前日より開けている。遠方の海面も確認できた。
朝食は再び食堂で提供された。利用者は増えていた。
前日まで見なかった顔が大半を占めている。衣類や所持品の状態から、長距離を移動してきた者が多いと判断できる。
会話の内容は、これまでより具体性を帯びていた。
「終わったらしい」
「もう、決まったって」
「処刑されたって聞いた」
主語は曖昧だったが、指している対象は一致している。
「新しい政府ができた」
「取り締まりが始まってる」
断片的な情報は、互いに矛盾せず並んでいた。
相馬は食事を中断せず、最後まで摂取した。
食後、帳場付近で貼り紙が一枚確認された。
内容は簡素だった。
「宿泊は短期に限る」
理由は記載されていない。
午前中、温泉街を一巡した。
人の数は明確に増加している。通りの流れは一定せず、滞留と移動が混在していた。荷を持つ者の割合が高く、観光目的の滞在者は少ない。
広場の一角に、人だかりができていた。
中心には一人の男が立っている。声量を抑えながら、周囲に情報を伝えていた。
「警察はもう動いてない」
「軍も、どっちにつくかで分かれてる」
「思想の調査が始まってる」
聞き手は質問をしなかった。情報は一方的に流され、反応は限定的だった。
正午前、相馬は港へ向かった。
漁業関係者と思われる数名が作業を行っていた。網の整備と船体の確認である。出航の準備ではない。
近距離で会話が行われていた。
「海に出る理由がない」
「戻れなくなる」
発言の意図は明確ではないが、外部との往来が制限されている可能性を示唆していた。
相馬は接触せず、その場を離れた。
午後、旅館に戻る途中で、閉鎖された店舗の一部に新たな貼り紙が追加されているのを確認した。
「当面休業」
「仕入れ未定」
いずれも具体的な再開時期は示されていない。
旅館の裏手に回り、建物の構造を確認した。
勝手口の位置、物資の搬入口、裏道への接続。人目につかない動線がいくつか存在する。
相馬はそれらを一通り把握した。
夕刻、帳場で短い会話があった。
「しばらく、長期の方はお受けできません」
従業員は相馬の顔を見ずに言った。
規則としての説明ではなく、個別の通知に近い。
相馬は応答せず、そのまま通過した。
部屋に戻った後、所持品の再確認を行った。
軍に関係する物は持ち込んでいないが、行動様式や知識から識別される可能性は排除できない。
外部での活動が必要であると判断した。
夕食後、再度外出した。
温泉街の外縁部にある小規模な作業場で、人員を募集している張り紙があった。
内容は簡素である。
「手伝い求む」
業種の明記はない。
翌朝の集合時刻のみが記載されていた。
相馬はそれを確認し、その場を離れた。
帰路、通りの一角で口論が発生していた。
一方が相手の素性を問い、もう一方が否定する。
周囲は介入せず、距離を取っている。
暴力には至らなかったが、収束の仕方は不明確だった。
夜間、発光は継続していた。
音の間隔は短くなっている。
方向は特定できない。
就寝前、相馬は翌日の行動を決定した。
旅館に留まるか、外部での労働を選択するか。
いずれにしても、長期滞在を前提とした行動が必要である。
選択は保留されたまま、灯りを落とした。
以上が、五日目の状況である。




