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4日目 国家元首

 四日目の朝、雨だった。

 屋根を打つ音で目が覚めた。廊下に人の気配はなく、足音も聞こえない。

 朝食は部屋に運ばれた。

 理由の説明はなかった。

 配膳を行ったのは前日と同じ従業員だったが、動作が早く、滞在時間は短かった。言葉は一切交わされていない。


 食後、相馬は外出した。

 温泉街の通りは濡れており、人通りはさらに減少している。開いている店は限られており、土産物店の多くは閉鎖されていた。

 代わりに、見慣れない人間が増えている。

 いずれも荷物を携行しており、滞在ではなく移動の途中にあるように見えた。

 会話の中で、これまでより具体的な単語が聞き取れた。


 「帝都は落ちた」


 「捕まったらしい」


 「撃たれたって話もある」


 誰が、という主語は共有されていない。

 断片的な情報は互いに補強されず、そのまま放置されていた。


 正午前、旅館に新たな宿泊客が到着した。

 家族単位の移動である。大人二名と子供一名。衣類は汚れており、長距離の移動を行った形跡があった。

 帳場でのやり取りは短く、詳細な確認は行われていない。

 その後、ロビーで断続的に会話が行われた。


 「東京は、もう……」


 「軍が二つに分かれてる」


 「こっちにも来る」


 情報は一貫していないが、方向性は一致していた。

 政府機構が機能していないこと、軍の一部が命令に従っていないこと、各地で戦闘が発生していること。

 いずれも確認されていないが、否定する材料もなかった。


 午後、港の様子を確認した。

 係留されている船はさらに減少している。残っているものの中にも、整備されていないものが多い。出航を前提とした動きは見られない。

 代わりに、徒歩で移動する人間の数が増えている。

 海路ではなく、陸路を選択している可能性が高い。

 理由は不明である。


 帰路、相馬は一度だけ立ち止まった。

 通りの脇に、軍用と見られる外套が落ちていた。泥で汚れており、所属を示す徽章は取り外されている。

 周囲に所有者はいなかった。

 相馬はそれを拾い上げず、そのまま通過した。


 夕刻、旅館の帳場で短い会話があった。


 「しばらく、身分の確認が厳しくなるかもしれません」


 従業員はそれ以上説明しなかった。

 具体的な時期や理由も示されていない。

 ただし、その発言の直後から、宿泊客の一部が持ち物の整理を始めていた。


 夜間、発光と音の回数はさらに増加した。

 間隔は短く、方向も分散している。

 特定の戦線ではなく、複数箇所での戦闘が同時に発生している可能性が高い。


 就寝前、相馬は持ち物を確認した。

 軍に関連する物品は持ち込んでいない。

 しかし、行動履歴そのものは消去できない。

 識別される可能性は残る。

 対処が必要であると判断したが、具体的な方法はこの時点では確定していない。


 窓の外は雨が続いていた。

 音は、それを上回っていた。

 以上が、四日目の状況である。

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