3日目 全面交戦
三日目の朝、空は曇っていた。
相馬は前日と同様の時刻に起床した。廊下の物音はさらに減少しており、他の宿泊客の動きはほとんど確認できない。
朝食は用意されていたが、食堂の利用者は二名のみだった。いずれも前日までとは異なる顔である。
新聞は届いていなかった。
理由の説明はなかった。
配膳を行った従業員は、最低限の応対のみで会話を行わない。視線を合わせることも少なかった。
朝食後、相馬は外へ出た。
温泉街の営業状況は維持されているが、開いている店の数は減少している。土産物店のうち数軒は閉鎖され、入口には簡易的な貼り紙が出されていた。
内容は確認していない。
通りを歩く人間はいるが、滞在している様子はない。荷物を持ったまま、一定方向へ移動している者が多い。
会話の中で、地名が断片的に聞き取れた。
「東京はもうだめらしい」
「いや、静岡の方も……」
いずれも具体性に欠け、出所は不明である。
港へ向かう途中、道路脇に放置された荷車が一台確認された。中身は空で、破損は見られない。
周囲に所有者はいなかった。
港では、小型船の数が減少していた。前日まで係留されていたものの一部が確認できない。出航したのか、移動させられたのかは不明である。
作業をしている者はいなかった。
正午前、温泉街に戻る途中で、銃声を一度だけ確認した。
発生源は近距離ではないが、山側である可能性が高い。
単発であり、継続はしなかった。
相馬は足を止めなかった。
午後、旅館のロビーに数名の人間が集まっていた。宿泊客と従業員が混在している。
会話は断片的で、まとまった情報にはなっていない。
「鉄道が止まっている」
「検問があるらしい」
「軍が動いてる」
どの話も、確認されていない。
ラジオはこの日も使用されたが、受信内容はさらに不安定だった。
「……発砲……制圧……離反……」
「……命令系統……不明……」
途中で通信は途切れた。
夕刻、温泉街の一部で早期閉店が確認された。通常よりも早い時間帯である。
理由は提示されていない。
通りには人が残っていたが、滞留している様子はない。移動の方向は一定しておらず、散発的である。
夜間、発光が確認された。曇りの空に反射した光だ。
前日までとは異なり、複数方向で発生している。いずれも持続時間は短い。
音は数秒から十数秒遅れて到達した。
回数は増加している。
発生源の特定はできない。
就寝前、相馬は一度だけ帳場の前を通過した。
帳簿が開かれていたが、記載は途中で止まっている。
日付の欄に空白があった。
従業員の姿はなかった。
以上が、三日目の状況である。




