2日目 決起発動
伊豆到着の翌日、天候は晴れだった。
相馬は定刻に起床した。時計は持っていないが、廊下の物音と外光の状態から、おおよその時刻は把握できた。
旅館の朝食は定刻通り提供された。内容は前日と変わらず、米と味噌汁、焼き魚が中心である。配膳を行った従業員は特に変わった様子を見せなかった。
食堂には数名の宿泊客がいた。前日と同じ顔ぶれである。
会話は少なかった。
一人の中年男性が新聞を広げていたが、紙面は前日と同じ日付のものだった。新しい情報は届いていない。
朝食後、相馬は温泉街を一巡した。
商店の営業状況は維持されている。土産物店、飲食店ともに通常通り開いていた。物資の不足を示す兆候は、この時点では確認されない。
ただし、外部からの客は減少している。
宿の帳場付近で、女将と配達業者と思われる男の会話が聞こえた。
「今朝は船が出ていないらしい」
理由についての説明はなかった。
港へ向かう道で、荷を持った数名の集団とすれ違った。観光客ではなく、移動中の住民と見られる。行き先は不明である。
港には小型船が数隻係留されていたが、出航の準備をしている様子はなかった。
相馬は長く滞在せず、温泉街へ戻った。
昼過ぎ、旅館のロビーでラジオが使用された。
常設の設備ではなく、持ち込まれた簡易型である。使用していたのは宿泊客の一人で、身なりから商人と推定される。
受信状態は安定していなかった。
断続的に聞き取れた内容は、地名と状況の断片に限られる。
「……東京方面……発砲……警察……制圧できず……」
「……静岡……鉄道……停止……」
それ以上の詳細は不明である。
周囲の人間は特に反応を示さなかった。会話も続かなかった。
ラジオはその後、電源を落とされた。
午後、相馬は再び外出した。
温泉街の様子に大きな変化はない。営業は継続されているが、人の動きは減少している。特に午後に入ってからは、通りを歩く者の数が目に見えて少なくなった。
土産物店の一つで、品物の一部が棚から下げられているのを確認した。理由は不明である。
夕刻、遠方からの音が数回確認された。
前日と同様、低い振動を伴うもので、砲撃と推定される。間隔は不規則であり、距離の特定はできない。
発生方向は北東である可能性が高い。
夜間、旅館の照明は通常よりも早い時刻に落とされた。
理由の説明はなかった。
廊下を歩く足音は減少し、戸の開閉も少ない。
相馬は部屋から出ていない。
就寝前、窓を開けた状態で外を確認したが、視認できる範囲に異常はなかった。海面は静穏であり、船影もない。
音のみが継続していた。
以上が、二日目の状況である。




