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12日目 全ての権力を

 十二日目、朝は静かだった。

 これまでの中で、最も音が少ない。遠くの発光もない。空気が、止まっているように感じられる。


 作業場へ向かう途中、変化はすぐに分かった。検問の数が減っている。残っているのは、民兵だけだった。装備はそのまま。だが、緊張が薄い。確認も簡素になっている。


 「仕事か」


 「そうです」


 それだけで通された。昨日までとは明らかに違う。理由は共有されていた。


 ――掃討完了


 問題は解決した、という認識。少なくとも、この一帯では。


 午前、作業場の空気も軽かった。人の数が戻っている。声も増えている。だが、完全ではない。欠けたままの席がある。それについて触れる者はいない。


 午後、町の掲示板に新しい紙が増えていた。


 「評議会設置のお知らせ」


 言葉は柔らかい。内容も分かりやすい。住民の意見を反映する。皆で決める。そう書かれている。

 周囲でそれを読む人間の反応は、悪くない。


 「前よりはいいかもな」


 そんな声もある。だが同時に、小さな声もあった。


 「変なこと言うと連れていかれるらしい」


 笑いながら言う。本気かどうかは分からない。だが、誰も否定しない。


 夕方、空はよく晴れていた。煙も見えない。戦闘は遠のいている。少なくとも、ここからは。作業は早めに終わった。理由はない。ただ、必要がないからである。


 相馬は一度、部屋に戻った。荷物を確認する。変化はない。生活は維持されている。その事実が重要だった。


 夜、相馬は外へ出た。巡回の間隔は広い。人の流れもある。昨日よりも動きやすい。だが、油断はしない。歩く速度は変えない。視線も上げすぎない。

 旅館へ向かう。正面から入る。止められない。それだけで状況は分かる。帳場の女は、すぐに気づいた。


 「今日は来れると思ってました」


 言葉に余裕がある。昨日までとは違う。部屋はすぐに用意された。余裕がある。それが逆に、不自然だった。


 夜、女は早く来た。動きも軽い。だが、完全に緩んでいるわけではない。


 「静かですね」


 相馬が言う。女は頷いた。


 「でも、ずっとじゃないと思う」


 それだけ言う。説明はない。必要もない。その後、言葉は減った。相馬は、互いの心がこれまでで最も近いと思った。外の状況とは関係なく、維持されてきた関係。それが、少しだけ変わる。依存ではない。だが、単なる手段でもない。


 深夜、外は完全に静かだった。音はない。光もない。久しぶりの状態。相馬は目を閉じる。眠りは深かった。途中で目が覚めることもない。それ自体が、異常だった。

 十二日目が終わる。

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