第59話:灰の街と、商人の流儀
バベルを脱出したカイたちは、荒廃した街で生き残るための資材回収を開始する。アオイの知略、ユズの爆発物、セイラとレナの武力。それぞれの役割が噛み合い、ついに新たな敵との交戦へ!
エヴァによる断片の回収は、一晩かけてようやく完了した。
彼女はぐったりとした様子でカイの胸に寄りかかっているが、その表情には以前よりも少しだけ「意思」の強さが宿っているように見えた。
一行は塔の崩落地点から離れ、かつて「学園都市」の一部だったはずの場所へ足を運んでいた。だが、そこにはもう建物も、人々の営みも存在しない。あるのは「エラー」で塗りつぶされた灰色の荒野だけだ。
「……計算不能ね。この街の物理法則、完全に書き換えられてるわ」
アオイが険しい顔で端末を操作する。彼女のトラップセンサーが、この空間に不自然な「隙間」を感知していた。
「地盤が不安定なのよ。不用意に踏み込めば、空間ごと消去される可能性があるわ」
「あら、そんな腰抜けな場所、燃やして更地にするのが一番ですわ!」
レナが強気な言葉を吐くが、その視線は周囲を鋭く警戒している。彼女の魔力は、この灰色の空間においても赤く美しく輝いていた。
「ちょっと待ってください、レナさん! 街を燃やすのは勝手ですけど、ここにあるはずの『資源』まで燃え尽きたら、私の商売あがったりですよ」
後輩であるユズが不満げに声を上げ、背負っていた大きなバックパックから、手製のセンサー付き爆発物を取り出す。彼女は爆発物を作るだけでなく、周囲の「残存物」からまだ使える資材を回収する目利きの達人でもあった。
「いいですか? この辺りは昔、高度な演算処理を行うサーバー施設があった場所。もしエニグマの残したデータが残っていれば、それを素材にして、私たちの装備を強化できるはずですよ」
「さすがね、ユズ。……でも、そんなことしている間に、またノイズ(断片)が集まってこないかしら?」
セイラが香炉を揺らし、優雅に周囲を見回す。その所作の一つひとつに、聖女としての凛とした気品が漂う。鎖が微かに擦れる音が、心地よい緊張感を演出していた。
「……マスター。ユズの提案を採用すべきです。……断片の処理によって、私の内部リソースにも空きができました。……装備の拡張を行えば、マスターの生存確率は12%向上します」
エヴァがカイの肩に顎を乗せ、低い声でそう囁く。彼女の独占欲は相変わらずだが、戦術的な合理性も忘れていない。
「わかった。アオイがルートを確保し、セイラとレナが護衛。ユズの判断に従って資材を回収する。……エヴァは俺のサポートだ」
「「「了解!」」」
それぞれが役割を理解し、一斉に動き出す。エヴァに頼り切りだった塔の攻略とは違う、確かな連携がそこにはあった。
ユズが爆発物で隠された地下室の入り口を鮮やかに吹き飛ばす。瓦礫の山から出てきたのは、エニグマが遺した「調整用データコア」だった。
「ビンゴです! これがあれば、セイラさんの香炉の強度も、レナさんの魔法出力も底上げできるはずです!」
ユズが嬉しそうにコアを掲げた、その時だった。
地下室の奥から、低く響く機械音と共に、数体の「新型防衛ユニット」が姿を現した。それはエニグマの論理を忠実に守る、最後の管理者たちだった。
「……もう。商売の邪魔ですね」
ユズが笑頬を膨らませ、次の爆発物に火を灯す。レナが炎を纏い、セイラが鎖を構える。アオイが敵の行動範囲を予測し、エヴァがカイにリライトの出力を送る。
「さて、と。……リライトで、こいつらの運命も書き換えてやるとするか」
カイたちが構えたその瞬間、世界に何かが重なり合うような、予兆が走り抜けた。
第59話、お読みいただきありがとうございました!
それぞれがカイを中心にまとまり絆を深めたようです。
次回、新型ユニットとの戦闘で、各キャラの「らしさ」が全開になります!
続きが気になる方は、ぜひ☆☆☆☆☆から応援よろしくお願いします!




