第57話:崩落の塔と、連携の調べ
バベルの最上階でエニグマの核を破壊したカイたち。しかし、塔の崩壊という新たな危機が一行を襲う。極限状態の中、アオイの知略、ユズの爆発物、セイラの武力、レナの魔力が噛み合い、脱出路を切り拓く! 一方、エヴァの独占欲は戦場でも止まることを知らず……。
エニグマの核が砕け散った瞬間、黄金の塔「バベル」は悲鳴を上げて崩壊を開始した。
天井からは数式が雨のように降り注ぎ、床は論理の欠片となって虚空へと溶けていく。
「……マスター、塔の構造維持率が臨界突破しました。5分後にはこの空間そのものが消去されます」
エヴァが淡々と告げる。その手は俺の腕をしっかりと掴んだままだ。
「悠長なことは言ってられないな。全員、脱出するぞ!」
「了解しましたわ! このまま天へと消えるなんて、私の美学に反しますもの!」
レナが叫ぶと同時に、赫炎の裁き《クリムゾン・ジャッジメント》を周囲に展開し、崩れ落ちる天井の破片を紅蓮の炎で焼き払った。
その隙に、アオイが険しい表情で視線を巡らせる。彼女の瞳には、空間の歪みが構造図として映し出されていた。
「カイくん、左の回廊が崩落する! 塔の内部データから、まだ安定している隠し通路を逆算したわ。そっちへ走って!」
「……さすが、地形把握の鬼だな。助かる!」
俺たちが駆け出すと、通路の先から残存していた自律防衛ユニットが大量に現れた。しかし、そこで立ちふさがったのはセイラだった。
「聖なる鎖よ、道を作るのです」
彼女が香炉を軽やかに振り回すと、鎖が蛇のように踊り出し、ユニットたちを一挙に薙ぎ払う。聖女の優雅な微笑みと、鎖が金属を打ち鳴らす冷徹な音のコントラストが、絶望的な状況に風穴を開けた。
さらに、退路を塞ごうとする巨大な障壁が現れた瞬間、ユズが不敵に笑う。
「ふふん、商売道具の出番ね。この障壁、素材分析完了! 接合部にコレを……」
彼女が投げたのは、即席で作られた爆発物だった。次の瞬間、障壁が轟音と共に砕け散り、俺たちは脱出路へと躍り出る。
「ふぅ……。みんな、いい連携だ」
俺が安堵の息を吐いたときだった。
「……フン。不快なほど騒がしいですね。私のマスターをそんな雑多なメンバーで囲み、心拍数を乱すとは」
エヴァが冷ややかな視線をレナへ向ける。レナも負けじと、炎を纏ったまま睨み返した。
「あら、何ですのその言い草! 連携したのはカイを守るためですわ。貴方こそ、マスターを私物化して独占しているだけではありませんこと?」
「独占? いいえ、これは『最適化』です。マスターの隣は、私の定位置ですから」
「……この機械娘! 今ここで焼き払いますわよ!」
「……データ破損の危険性があるため、控えてください。それに、今はマスターの栄養補給の邪魔です」
エヴァはそう言うと、戦いで疲弊した俺の首元に顔を寄せ、密着度をさらに強めた。
「……ちょっと、エヴァ! 今はそんなことをしている場合じゃ……」
俺が慌てている隙に、アオイが呆れたようにため息をつき、ユズが苦笑しながら俺の肩を叩く。
「カイ、二人ともそれくらいにしておかないと、本当に塔と一緒に消えちゃうよ?」
「本当よねー。まぁ、エヴァちゃんが独占してる間に、商人の私がカイくんの『生存確率』を上げたお礼を請求するから、覚悟しておいてね!」
シリアスな脱出劇の裏で繰り広げられる、いつも通りの光景。
その時、ふと視界の端で光が瞬いた。ヤトだ。
彼女は崩壊する壁の陰から、俺たちにだけ聞こえる音量で「左の階段を飛ばして、窓から外へ飛び出しなさい」とだけ告げ、次の瞬間には影の中に消えていた。
「……あいつ、またヒントを置いていったのか」
「マスター、判断を」
「……行くぞ、窓からだ!」
俺たちは塔の崩壊を背に、闇夜へとその身を投げ出した。
第57話、お読みいただきありがとうございます!
緊迫の脱出劇の中でも、それぞれの「レア役(役割)」をしっかりと発揮してもらいました。レナとエヴァの舌戦も健在です。ヤトのヒントが、今後の物語にどう関わってくるのか……。
次回、塔から脱出した一行を待ち受けていたのは、変わり果てた「外の世界」の姿でした。エヴァの予言する「再定義」とは?
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