第47話:神の審判と、散りゆく先導者
黄金の塔「バベル」から響くのは、もはやただの機械音声ではない。
それは、自らを「唯一の正解」と定義したエニグマの、不遜極まる嘲笑だった。
迫り来る消去の光と、冷酷な「使徒」。
絶体絶命の窮地で、一行を逃がすために拓真が下した決断。
それは、お節介な「お兄さん」として、若き芽に未来を託すための最期の賭けだった。
『……ふふ。見苦しいですね。消去されるだけのゴミデータが、なぜそうまでして泥を這いずるのですか?』
空を裂く黄金の光の中から、今度ははっきりと「意志」を持った声が響き渡った。
学園で俺たちを追い詰めた、あの傲慢で不快なエニグマの声だ。
『セクターG-14。ここには「不合理な思い出」が多すぎる。私の完璧な世界に、これ以上のノイズは不要です。……さあ、大人しく美しい砂へと還りなさい』
エニグマの言葉と共に、消去の波が加速する。
瓦礫が、街路樹が、そして遠くで逃げ遅れた人影までもが、無慈悲な光に飲まれて消えていく。
「……あいつ、本当に……! 人の命を何だと思ってるのよ!」
レナが怒りに震え、空に向けて炎を放つ。だが、その炎すらも空中で「不正データ」として中和され、霧散してしまった。
「レナ、無駄だ! 今のエニグマはこの世界の『物理法則』そのものを握ってる!」
拓真が俺たちの前に立ち、双剣を構え直す。
正面からは、三体の「使徒」が音もなく距離を詰めてきていた。
「いいか、カイ。アオイを連れて、あの崩れた時計塔の地下へ走れ。そこにある貨物用エレベーターの制御盤に、お前のマスターキーを叩き込め!」
「拓真さんは!? 一緒に行くんだろ!?」
「……ハッ、お節介なお兄さんが、弟分を置いて逃げ出すわけないだろ?」
拓真が振り向き、不敵にニカッと笑った。
だが、その手は微かに震えている。大剣を分割した双剣からは、限界を超えた負荷による青い火花が散っていた。
「俺がここで『壁』になる。……あいつらのアルゴリズムは、俺が一番よく知ってるんだ。お前らは、未来を書き換えに行け。それができるのは、お前だけなんだよ、カイ」
『……滑稽ですね。一個のデータが、演算された滅びを止められるとでも?』
使徒たちが一斉に跳躍した。
その透明な刃が、死の軌跡を描いて拓真へと振り下ろされる。
「行けえええええっ!!」
拓真の咆哮。
彼は自らの命を削るように、全身から青いノイズを噴出させ、使徒たちの猛攻をその身一つで受け止めた。
「拓真さんっ!!」
俺は叫び、駆け寄ろうとした。だが、レナとセイラに腕を掴まれる。
「……行かなきゃ、カイ。彼の覚悟を、無駄にする気!?」
レナの瞳には、涙が溜まっていた。
俺は奥歯が砕けるほど強く噛み締め、拓真の背中に背を向けた。
「……死ぬなよ! 拓真さんっ!!」
背後で、激しい金属音と爆鳴が響く。
俺は一度も振り返らず、黄金の光に飲み込まれゆく街を、ただひたすらに走り抜けた。
第47話、お読みいただきありがとうございました!
エニグマの傲慢な「神の宣告」と、それに対する拓真の決死の殿。
自分たちを逃がすために、最強の刺客たちを食い止める「お兄さん」の背中。
カイの心に刻まれたこの痛みは、さらなる「感情過負荷」の糧となり、エニグマを討つための原動力へと変わっていきます。
次回、第48話。
拓真が繋いだ、地下の「もう一つの遺産」への道。
そこには、エニグマの支配すら届かない、失われた時代の『決戦兵器』が眠っていました。
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