第42話:研ぎ澄まされた左目と、影の捕食者
地下駅に鳴り響く、不吉な金属音。
拓真の課した地獄の修行を切り裂くように、廃墟の捕食者が牙を剥く。
現れたのは、スカベンジャーを束ねる上位個体「リーダー」。
右目を封じ、感覚を研ぎ澄ませたカイは、圧倒的な速度を誇る強敵に対し、生身の人間としての「反撃」を試みる。
ギィィィィィッ……ッ!!
地下駅の入り口、厚い鉄のシャッターが外側から無理やり抉じ開けられる音が響いた。
拓真が瞬時に表情を変え、担いでいた大剣を握り直す。
「……チッ、嗅ぎつけやがったか。野良犬どもの中でも、特に鼻の利く『パックリーダー』だ」
抉じ開けられた隙間から、影が滑り込んできた。
体長は三メートル近い。全身が漆黒の結晶に覆われ、背中からは数本の光ファイバーが触手のように蠢いている。
その紅い瞳が、獲物を定めるように俺たちを捉えた。
「カイ! 右目は使うなよ。今の状態で無理をすれば、次こそ脳が弾けるぞ!」
「……分かってます!」
俺は痛む右目を強く閉じ、あえて左目だけで敵を凝視した。
視界の半分を失う不安。だが、それ以上に今の俺には、空気が「震えて」見えていた。
「はぁぁぁっ!!」
レナが先陣を切って、凝縮された火球を放つ。
修行の成果か、無闇に燃え広がる炎ではなく、弾丸のように鋭い一撃。
だが、リーダーはそれを物理法則を無視したような跳躍で回避し、一気にレナの懐へと肉薄した。
「レナ、左に三歩! セイラ、香炉をあいつの足元へ!」
俺の叫びに、二人が即座に反応する。
右目の「予測線」はない。だが、敵が床を蹴る音、重心の移動、そして大気を切り裂く微かな振動。それらが生身の左目を通して、直接脳に叩き込まれる。
ガガッ!
セイラが撒いた「粘着性の香」がリーダーの足を一瞬だけ捉えた。
そのコンマ数秒の隙を、俺は見逃さない。
「(今だ……!)」
俺は腰のナイフを抜き、最短距離で突き出す。
右目を開ければ、リライトで敵の動きを止められただろう。だが、今は必要ない。
敵の首筋、装甲が重なり合う唯一の「継ぎ目」。
——そこだ!
ナイフの刃が、硬質な結晶の隙間に深々と突き刺さった。
『ギ、ギガァァァァァッ!!』
リーダーが絶叫し、のたうち回る。
俺はさらに踏み込み、ここで初めて、右目を「一瞬だけ」見開いた。
「リライト——内部崩壊」
ナイフを起点に、黄金のノイズが敵の体内へと一点集中で流し込まれる。
広範囲の改竄ではない。針の穴を通すような、極小の、しかし致命的な一撃。
ズドォォォォォンッ!!
リーダーの巨体が内側から弾け、黒い粒子となって飛散した。
俺の右目に走ったのは、鋭い痛みではなく、微かな痺れだけだった。
「……ふぅ、はぁ……」
膝をつく俺の肩を、拓真の手がポンと叩いた。
「合格だ、カイ。リライトを『力』ではなく『道具』として使えたな。……お前らも、いい連携だったぞ」
拓真の言葉に、レナたちが安堵の表情を浮かべる。
だが、俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
第42話、お読みいただきありがとうございました!
拓真の修行の成果が、見事な連携とカイの精密な一撃として結実しました。
右目の権限を「一点集中」で使うことで、脳への負担を最小限に抑えつつ、確実に敵を仕留める。
学園での「無双」とは異なる、技術に裏打ちされた新しい強さの形です。
次回、第43話。
リーダーを倒したのも束の間。彼らが守っていた地下駅の奥に、拓真ですら知らなかった「隠された扉」が発見されます。
その扉の先に眠っていたのは、廃墟都市の成り立ちに関わる、ある重要な遺産でした。
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